第40話 初めての不寝番
6層でキャンプして7層へ、ダンジョン攻略を順調に進めるマーヤたち。
野営する中心で私は光の結界を唱えた。
『わが身に宿る聖なる光よ、皆を守り、助ける壁と成れ!』
「聖光」
今日は、木が生える場所まで距離が有るので、食事用の椅子が並ぶ場所とテントがスッポリ入るぐらいを囲う事にした。
テントは全員が入れる大きさだけど、見掛け倒しで中には何も無い。各自は部屋で寝るからそれを悟られない様にしているだけなのだ。
ダンジョンの中なので、焚火はしない。私の部屋で朝出がけに作ったパンサンドとスープを温めた物が今日の夕食になる。
私のお勧めはカリーパンね。匂いは結界で遮断されるから気にしなくて良いし、何と言っても美味しくて刺激的な味が好き。辛く無くて甘いのがおすすめだと思う。
男共は、カリーパンでも辛くした方を選んでパクパク食べている。私なら辛さで泣き出すのは間違いない。小さい頃のトラウマ(ラーファが唐辛子を食べて、ラーファとお乳を飲んでいたマーヤが泣いた件)で辛みが強いと涙が出るから。
スープとカリーパンを食べ、食後にハーブ茶でゆったりとした気分になった。ダンジョンの中とは思えない程何時もと変わらない。
焚火をしないのがいつもと違うけど、皆自分の椅子に座って寛いでいる。
先ほどの草原の人たちの採取方法をぼんやりと考えていたら、少し気になる事を思い出したので聞いて見ることにした。
「そう言えば、草刈してたけど、生えてる周りしか刈り取って無かったわ、どうしてなのかしら?」
「あれは、再出現の間隔を調整しているのですよ。」ダルトさんが答えてくれた。
「普通、植物の魔物は再出現の間隔は一日に1回です。」
「でも草系は群生を全部刈ると1回になる様で、一部だけ刈り取ると再出現の間隔が早くなり、何度も刈り取れるのです。」
「周りだけ刈り取りするのは、混乱の罠にかからないためも在りますが。昼間しか刈り取出来無いので、回数が多い方がより多く刈り取れるのが、理由ですね。」
「夜は刈り取りをしないの?」
「はい、夜は魔物が活発になる時間帯ですから、夜はキャンプ地で皆おとなしくしているのが普通ですよ。」
このダンジョンの事を良く知っているけど、何度も来た事が在るのだろうか? 疑問が浮かぶと口に出てしまう。
「ダルトさんも、アントさんも此処には何度も来てるの?」
「カー爺と来た時が最初ですね。10年前になります。」ダルトさんが10年前と言えば14,5才位かな。
「他の時にも此処に来た事が在るの?」
「はい、竜騎士の見習いをしていた頃も何度か任務できましたよ。」
「荷運び人をしたことだってあるぞ。」アントさんが自慢そうに割り込んできました。
「あの時は十日程ダンジョンの中で過ごしましたが、自分の匂いで嫌になりましたね。」ダルトさんも思い出したように言います。
そうなんだ、十日もダンジョンの中で過ごせばダンジョンに附いても詳しくなるよね。
時間もだいぶ過ぎて来たので、寝る事にしたけど、夜の不寝番はダンジョン内なので二人一組で行う事になった。
私も一番最初の不寝番をポリィーとする事になった。
私が不寝番をしたいと言い出すとまだ早いと言いそうだったので。
先に、「最初の夜6時(午後11時)までするから、お願い! させて下さい」と皆に頼んだのが良かったのか、
「仕方ないのう。」、「寝たらそのまま部屋に放り込んでおきますから」、「意気込みは良いけど、どこまで出来るかなぁ。」、「まぁ がんばれ。」、「やらせてみれば良いと思うだ。」
と言う事で、ポリィーと最初の不寝番をする事になった。
2番手はケンドルさんとアントさん。3番手がカー爺とダルトさんで、1刻半(3時間)毎に交代する事に決まった。
3番手のカー爺たちが昼1時(午前6時)まで半刻(1時間)長い2刻(4時間)不寝番をする事になる。
食事後のまったり時間も夜3時(午後8時)を過ぎ、最初の不寝番のじかんになったので。私が張り切って皆に、「不寝番をはじめまぁーす、皆はテントに入ってね」と勧めた。
皆は面白そうに聞いていたけど、
「交代前にねるなよな。」、「ふむ、張り切っておる様じゃが大丈夫かの?」、「ポリィーさん、俺たちは寝ないから遠慮なく早めに声を掛けてくれ。」
皆して、全然私を信用して無いんだから。怒り交じりに宣言した。
「さっさと寝てね、絶対夜6時(午後11時)まで起きてるから」
ケンドルさんだけは、ポリィーの部屋では無く、自分の部屋でポリィーが不寝番を終わらせるまで鍛冶仕事をするそうだ。
夜のダンジョンの中は、薄暗くて見えにくいけど、周りが見えない事は無い。魔物も結界が有るのが分からないようで近くまで寄って来て結界で止められ、驚いて逃げる事が多かった。
蛇のスネエークが一番多くて私が見ているだけで4,5回やってきた。魔狼が2匹程一匹づつやってきたけど結界にぶつかると驚いて逃げていった。
魔物を見てるだけでも面白かったけど、夜のダンジョンの空も変化が在って見飽きない。
夜の薄暗い中で、空の様に見える上全体を覆う岩壁が、魔力の通り道に従って薄く発光するのだ。
恐らく昼間のダンジョンの空の様に見える天井の岩は、ダンジョンの魔力でスクリーンの様な働きをしているのだと思う。
昼は、空の様な色合い、夜は星は無いけどきらめく夜空を演出しているのだと思う。(ダンジョンにそんな演出力があるのか知らないけど、このダンジョンを作り出したエルフには有ったんだと思っている)
魔物の訪問とダンジョンの紡ぐ演出効果を見ながら、いつの間にか寝てた。
気が付いたのは、昼1時(午前6時)、ポリィーの部屋のマイセル君の横に寝ていた。
朝の挨拶が、とても辛い。
「おはようございます」
既に起きて居る全員が、私を見ている様に思う。
「「おはよう。」」、「プッ。」、「遅ようだなぁ、良く寝れたかい?」、「みんな、マリィーも頑張って夜の6時(午後10時)までは起きてたのよ、頑張ったんだから、からかわないの!」
何気にポリィーの言葉が一番つらい。カー爺とケンドルさんは「おはよう。」だけで他は言わずに頷いてくれたから、何か言われるより心に堪える。後の二人は無視する、どうせからかって私のうろたえる姿を見て楽しむ積りなんだから。
朝は乾燥させた野菜とキノコを入れたポリッジのチーズ粥を作った。
朝食を食べながら、不寝番は私とポリィーが夜6時(午後10時)まで、その後交代でダルトさんとアントさん組とカー爺とケンドルさん組が交互に2刻交代で行う事になった。
「ごめんなさい」と謝って皆に「もう無理はしないから」と約束した。
頑張っても体が睡眠を必要としているのだから、無理に頑張る必要もない。頑張らないといけない時は今じゃ無いから。
他にも、今日の予定を話会った。
・ラーファが唐辛子の赤さを人参の代わりになるかもと、料理に入れて食べた一件。
あまりの辛さにラーファが泣いて、回復魔術で回復ー>血液に含まれた辛み成分がお乳に入り、それを飲んだマーヤが辛さに泣き出した。
回復魔術だけでは辛み成分は体内から排出できず、短距離転移の魔術で辛み成分を排除するまで時間がかかった。
次回は、8層に到達しますが、ベロシニアの雇われ探索者と出会います。




