第39話 ダンジョン6層の平原
ダンジョンの6層までやってきたマーヤ達。
ここまで来るのに3刻(6時間)ほどかかっています。
既に昼の10時(午後3時)を過ぎているので早く休みたい。歩くだけなのにこんなにキツイなんて。
お昼を食べた後、ポリィーの部屋でマイセル君と一緒に寝させてもらいました。
途中お昼や休憩も取りましたが、カー爺たちは8ワーク(約12㎞)ぐらい歩いてると思います。
ミンストのダンジョンは、5層までの通路には魔物は出ない(カー爺の話では通路に魔物が出る所も在るそうです)。
魔物より人の方が緊張します。すれ違うだけで、荷運び人の前後で護衛している人たちがこちらを睨みつけてきます。
5層まで何回か、私たちは荷運びの集団と鉢合わせしています。荷運びの集団が来ると、出来るだけすれ違わない様に一つ前の分岐まで戻ったりしてやり過ごすようにしています。
でも、時には退避できない通路(ボス部屋前の通路とか)で遭遇した時は、右側によってすれ違うしかありませんが、お互いに緊張して疲れてしまいます。(階層が違うと空間把握も把握できません)
すれ違う人は、ほとんどが荷を運ぶ人で、男性だけでなく女性や子供も居ます。中には私ぐらいの子供まで袋や籠を担いで運んでいる姿を何度も見ました。
ミンストではダンジョンに入るのに年齢制限など無いのでしょう。まぁ私が入れている時点で、予想していているべきでした。
6層まで降りて来る間にすれ違ったのは8回です。全部下の層から上がってきた人たちです。ちゃんと数えましたから。
荷運び人の数も30人前後でほとんど同じぐらいの人数でした。護衛の人も5人ぐらいが前と後に居るのも同じ配置です。
荷運び人が運ぶ物を見ると、穀物が入った大きな袋を3つぐらい背負子に積み上げて運んでます。穀物以外だとむき出しのままの肉や籠に入れた薬草やキノコと果物もあります。
果物はリンゴ、ベリー、クルミ、栗、ブドウなどが籠に入っていて、採れたてで美味しそうです。
ここでは季節など関係ないので年中取れるんだと思うけど、運んでる量からすると意外と少ない気がする。
空間把握で推測した一日に運ぶ穀物の重さから、一人が1日に食べる量を割ると5万人分の食料になる。
でも、私が把握した以外にも運んでいる人たちは居るから、何万人も居るミンストの町の食料として十分な量に成るのかもしれない。
すれ違った回数は、6回が穀物が主で、後の2回が肉と果物や薬草などを主に運んでいました。
空間把握で調べたから中身は間違い無いと思います。不思議なのは魔石が一つも無い事です。
荷運び人をやり過ごすため分岐まで戻り、やり過ごした時に聞いて見ました。
「ねぇ、カー爺 すれ違う人たちって魔石を一つも持ってないけど、魔石は運ばないの?」
「うん? ああ、魔石か。」カー爺が先頭から振り向いて此方を見ます。
「魔石はかさばらんし、探索者が持って帰るから運び屋は運ばんよ。」
「でも、あれだけ沢山の収穫が有るのに魔石は少ないの?」
「マリィー、植物の魔物は魔石が砂粒より小さいから地面に落ちたら分からなくなっちまうのさ。」後ろのアントさんが教えてくれました。
「小さいから魔石は取らないの?」
「ああ、植物系だとトレントぐらいで無いと魔石は回収し無いな。」アントさんがのんびり答えます、荷運び人の集団をやり過ごして少し気が抜けているようですね。
「気を引き締めて出発じゃ。」カー爺が緩み掛けた気持ちを引き締め、退避していた通路から順路へと戻りながら言いました。
この時は、まだ6層まではだいぶ先だったので私は魔石の事を不思議に思いながら皆に付いて行きました。(だって、砂粒ぐらいの魔石って、ダンジョンは魔石は吸収し無いと聞いたけど、肥料にでもなってダンジョンの土にでもなるのかしら?)
ポリィーが一言、「野菜が在りません」とつぶやいていたけど、今日の夜は野菜のピクルスは止めて欲しい。
いよいよ6層です。事前知識として、カー爺たちから聞いた話は。
6層から10層までは、草原と林の続くエリアになっている。
出てくる魔物はスネーエク(毒蛇)や毒カエル、毒蜘蛛、に魔狼、魔熊などの大形の魔物も出るし、木や草の魔物まで出てくる。
食肉となる牛は草原に、鹿や猪などは林に1、2頭でいるけど、毒を持つ爬虫類系の魔物も近くに居る。
イネ科とトレント系は罠を作って待ち伏せするので採取は経験が必要だ。
下の階になればなるほど、大型で数も多くなるし罠も巧妙になって行く。
今日キャンプする6層は、主に小型の爬虫類や両生類と牛の野生種の魔物として有名なオーロックが1頭か2頭ほど出てくる。
後は植物系の魔物が罠を張っている。イネ科の魔物が穀物を、トレント系の魔物が果物を落とす。
他にも、薬草やキノコが採取出来る様だ。
6層を出た入り口近くに、ダンジョンのあちこちから取って来た物を集めて保管するための、荷物置き場が有りました。
大手の探索者集団が幾つも在る様で、荷物置き場は入り口の周りに10か所ぐらい在ります。
ダンジョンに取り込まれるのを防ぐためか、パレット(木の板)に魔石を下に敷き詰めた物が用意されていて。その上に収穫物を置くようです。
今は、荷物は出荷した後なのかパレット(木の板)を積み重ねて置いてあるだけです。
このパレット(木の板)の下に植物の魔石を敷き詰めているのかもしれないと思いましたが、確認できませんでした。
荷物置き場には荷運び人はいなくて護衛と思しき探索者の人が数人づつ居るだけです。何処も規模は小さくてパレット(木の板)10枚程が小さな山となって積まれています。
側にキャンプのためのテントが幾つか纏まって村みたいになっています。名づけるなら6層村でしょうか。そちらは人が大勢出入りしていて人も多そうでした。
王都ミンストの食糧庫と成っているのか疑問が在りましたが、村の規模を見ると供給は多そうですが、果たして足りてるのでしょうか?
入り口から荷物置き場に成っている場所と村を通り過ぎ、草原へと私たちは踏み出しました。
ここからは、襲って来る魔物が出る場所に成ります。皆直ぐ武器を抜けるようにしていますが、緊張しているのは私とケンドルさんだけの様です。
この層に入ると人が草原や林にちらほらと数人づつ固まって何かしています。一人か二人が背に籠を背負い熱心に草の中や林の間を探し回っています。護衛の人は4,5人が弓や槍などで武装し周りに散らばって警戒している。
草原で収穫する人たちは、草の生えた群落の外側だけを刈り取っています。群落の周りを一周しても中まで入らないで別の群落へと移動しています。
刈り取りも手に持った鎌で刈った後、落ちた穂だけを背の籠へと入れています。
マリィーたちが通ると、武装した人が、護衛している探索者たちに注意して、私たちの方へ行かない様に誘導しています。
こんなにダンジョンからの恩恵が多いのに、ミンストネル国の国民が飢えているのは納得がいきません。
「ねぇカー爺、どうしてこんなにたくさんの収穫物が有るのに、外の農村ではあんなにひどい状態までお腹を空かせているの?」
「そうじゃなぁ、儂も詳しくは知らんが、まともな政が行われて無いらしい。」
「儂もまた聞きなもんじゃから、推測が多いが、この国は農業生産物の7割を税として取る領主が大半を占めておる。」
「オウミじゃと5割が税じゃが、農具や農耕馬などの貸し出しを含めての税率じゃ。」
王様は農地を持って居ないのかしら?
「領主? ミンストの町の周りも王様の土地と違うの?」
「ミンストネル国の王が持っているのはミンストの町とダンジョンだけじゃ。」
「それでも十分に潤って居るのは見ての通りじゃよ。」
カー爺は、「ミンストだけじゃがな。」と言いながら首を振った。
「この国は、麦じゃとオウミと同じ年に2回の作付けと収穫がある。」
「其の7割を領主が税として取るんじゃ、農民は残りの3割じゃと食えんのじゃよ。」
「そして、人口はオウミの倍まででは無いが1.5倍は在る。」
「つまり国民の大半の農民が働いても働いても食えないのが原因じゃ。」
「でも、ミンストの町は食べ物が店先に並んでいたよ、これも・・」私が言いかけると。
「ダンジョンが在ると言いたいのじゃろう。」カー爺が先に言ってしまった。
「つまりミンスト以外は、無能な領主が治めているの?」
「王家もあまり変わらんが、ダンジョンが有るだけ益しなんじゃろう。」
「何とかこの人口10万の王都ミンストの町は食えているからの。」
王様も領主もあまり変わらないダメダメな人達と結論が出た処で、草原を渡り終え林の中へと入った。
今日は、この林の中でキャンプする事になる。ある程度の広さが在って木から少し距離がある場所を選んでキャンプ地に決めた。
理由は結界を張りやすく、人目に付きにくい場所を選んだ。
・男一人分を女と子供で分散して受け持っている、賃金も皆で男一人分と同じ額になる。
・一日の収穫物は夜の間に(ダンジョンでも薄暗くなる夜が有る)7層の収穫物を6層に運び入れ、朝一番に出荷する。
マーヤ達がすれ違ったのは6層の収穫物を運ぶその日2回目の荷運び人の集団です。
・ここでは、男30人が1回の荷運び人の数として計算している。
30人の内穀物を運ぶのは20人とすると。一人15グッシュ(100㎏)担ぐので。それが20人だと300グッシュ(2t)、これが8回で2400グッシュ(16t)。
消費は一人一日平均半グラン(350g)で割れば5万人分となる。
*単位の変換を間違えていました。正解は下記ですので、半グランが約350gに成ります。
後、一人が運ぶ袋は3袋なので14ー>15の間違いでした。
1グランは約700g、1グッシュは10グラン。
次回は、キャンプと8層まで。




