第38話・3 ダンジョン1~5層
いよいよダンジョンの中に入ります。
鉄の門の先は青空の広がる空の下に円形の広場が在って、中心に穴がありました。
周りは、先ほど降りて来た坂道の下に在る鉄の大門以外は全て石で囲われた塀だけです。
穴の壁には高さ3ヒロ(4.5m)程下にカカリ村で見たのと同じ黒いレンガで作られたダンジョンの入り口が在ります。カカリ村のダンジョンの数倍は大きいです。
入り口は壁に不気味な黒い穴として開いていて、人が出入りしているのが見えます。入り口の前が穴の底で、其処も円形の広場になっています。
大型の魔物を仕留めたのか荷運び人達が、部位毎にロープで縛って荷台に積んでいます。積み終わった荷は巻き上げ機で引き上げています。
周りには何台か巻き上げ機が置いてあり、ダンジョンからの取得物を運び出すのは日常的な事のようです。
肉を巻き上げ機が巻き上げている横で、大きな袋詰めの物を何袋も荷台に積み上げている人達が居る、噂の麦とかコーンの穂を落とす魔物の収穫物のようだ。
ダンジョンの穴から荷物を運び出す人は、全て背負子に荷を積み担いで出てきます。護衛も居ますが荷運び人に比べると2割ぐらいかな。
このダンジョンでは、傭兵や冒険者と呼ばれる探索者たちより荷運び人の方がはるかに多い。
私たちの横を掛け声とともにすれ違ったのは、大量に荷を積み込んだ大型の荷馬車を押す数人の荷運び人です。
一人が大声で声を上げます。「それ引け!」それに合わせて引手と押し手が「「「おう!」」」、「「「おう!」」」と声を合わせて押すとアッと言う間に鉄の門から坂を上って行きました。
馬やロバは中には入れないのかダンジョン城塞に入ってからは見かけません。
残った荷運び人の人達は巻き上げ機で下へ降りた後、再びダンジョンの中へと袋を持って消えていったので、又荷を運んで出てくるのでしょう。
巻き上げ機は荷運び専用なのか、探索者が下へ降りるには、木の梯子が幾つか掛けて在りました。梯子は木で作られていて固定されてません。これを降りなければならないようです。
周りを見ると、ダンジョンへの出入りはこの梯子しか方法が無い様で、探索者は皆この梯子で上り下りしています。
空いている梯子を見つけたので、皆で周りを囲んだ。下へ降りるカー爺を守るため、私とポリィーが弓を手に持って梯子の下の周囲を警戒する。
カー爺が最初に降りた。次はケンドルさんが下に降りると梯子を守る様に二人が梯子の前に立ちふさがって、次に降りる私とポリィーの邪魔をしそうな周りの男らを牽制する。
先に私が降り、間を置かずポリィーが続く。
私たちが降りるとアントさん、最後にダルトさんが降りてきた。全員下に降り切ったので、急いで梯子を離れる。
私たちの降りるのを待って居た、大きな荷物を背負った男だけの探索者たちがすぐさま梯子を上り始めた。
下に降りると何とも言えない匂いが立ち込めている。周りが壁で囲まれているだけあって空気の循環が悪い様だ、酢っぱい様な腐乱集に近い臭気が漂っている。
ダンジョンに入る前に最終確認をする。
「みんな背嚢を降ろして、何時でも戦えるように準備するんじゃ。」
「ケンドルとマリィーはそのまま担いでいる様に。」
カー爺からの指示で皆は背嚢を降ろして、壁際にまとめて置いた。ケンドルさんと私は担いだままだ。皆で壁になって下した荷物を他から見えなくすると、ポリィーが纏めて部屋に入れた。
その間に、皆は武装を再度点検して何時でも戦えるように気持ちも切り替えていく。
私もナイフを腰にちゃんと装備しているか、靴や服に違和感が無いか再度確認して、どこにも異常が無い事を確認した。
点検するだけで気持ちが引き締まったような気がする。皆も気合の入った顔をしている。
いよいよダンジョンへの侵入を開始する。
ちなみにダンジョンの中は右側通行が暗黙の決まりだ。ダンジョン城塞の門からして、全て右側通行だった。
私たちは、ダンジョンへ入るに当たり、先頭をカー爺、中に私とポリィー、左にダルトさん、右にケンドルさん、後ろがアントさんと言う配置でダンジョンを進む事にしている。
ダンジョンの入り口はカカリ村に出現した入り口より大きく、しかし作りは同じ黒いレンガで出来ていた。入り口から下り階段があるのは同じで、私たちはその階段を下りて行った。
全てカカリ村のダンジョンより大きく作られているミンストのダンジョンだが、形は同じだった。階段を下りた先は通路になっていて、その先から神の恩寵型ダンジョン特有の部屋が並んだ作りになって居る。
私が空間把握で把握したダンジョン1層は1つのブロック内に3つの通路とその左右に5部屋づつ全部で30の部屋がある同じ形をした作りだ。
ただし、其のブロックが縦横2づつ合計4ブロック存在する。1層から結構大きなダンジョンだ。
ミンストの1層はコボルトが出るようで、各部屋1匹、奥のボス部屋にコボルトとゴブリンが居る。
一層全体では、20組ぐらい約100人程の人が部屋を攻略している。10級のコボルト1匹なので4,5人で囲んで棒などで殴れば倒せる。
落とすのもほとんど10級の魔石ぐらいなので此処に居るのは初心者なんだろう。
ボス部屋まではどのブロックを進んで行っても、出口も入り口と同じような大きな通路で繋がっているので迷う事は無い。
相変わらず歩く音が響かない薄暗くても遠くまで見える通路を、私たちは部屋を開けることなく進む。
2つブロックを越え、その先の通路脇にあるボス部屋を無視して、2層へ進んだ。
途中ですれ違う攻略中の男らは私たちを見つけると右手の壁に寄って、私たちを避ける。どうやら向かい合った時、自分の右手側に避けるのは争いを避けるための、このダンジョンの仕来りの様だ。
「今の傭兵ギルドが出来るだいぶ前に此処へ入った時も同じじゃった。」
「あん時は、傭兵ランクがまだ銅級じゃったし、10層以上を狙って10人ぐらいの仲間を集めて荷物持ちも同じぐらい雇ったと思う。」
「私とアントも一緒でしたよ。」とダルトさんが付け足した。
カー爺が「そうじゃったのう。」と相槌を打った。
「まぁ偵察を兼ねた腕試しの仕事じゃったからの。」
「12層まで7日も掛かって、やっとたどり着いたんじゃ。」
「バジリスクを倒して持ち帰った初めての探索者と成ったんじゃよ。」
「それで傭兵ランクが銀級に上がったんじゃ。」
「当時は、国が傭兵や傭兵団のランク付けをしとったから評価は国毎にバラバラじゃったが、金ランクと銀ランクはどの国でも同じランクにしていたようじゃな。」
「おかげで傭兵ギルドが出来ると、最初から5級に格付けされたんじゃよ。」
カー爺が昔を懐かしむような顔をしている。その時の仲間の事でも思い出している様だ。
直ぐに気を取り直すと、「そん時も今の様に右側による事をしとったわ。」と言い。
「儂の考えでは、右利きは左腰に剣を下げ右手で抜く。」
「右手側に寄るのは右手で抜きにくくなるから、攻撃しないと意思表示を先にする事で、争いを避けているのじゃろう。」
「ここミンスト独特のやり方じゃで、他ではしとらん。」
「そうなの?」私が不思議に思って聞くと。
「ああ、他じゃと、すれ違ったりはせん。」
「知り合いでも無ければ、必ず部屋に隠れるか分岐まで戻って避ける。」
「それだけ他のダンジョンは物騒なんじゃ。」
「此処は、王都の食料供給のためもあってか争いが少ないダンジョンと言えるんじゃ。」
「少ないとは言え襲われない訳では無いがな、その時は体を中央へと向けて抜刀するんじゃぞ。」
カー爺の説明から、争いが少ないのは荷運び人が多い事も影響していそうです。荷運び人は武装していないかナイフぐらいしか持って無いから。
もし、すれ違う時不意打ちされたら、体の向きを中央へ向け抜刀すれば迎え撃つ事ができるんだって。ほんとかな?
ダンジョン内は無法地帯なので、そう言った仕来りが無ければ血で血を洗う争いが絶えないだろうと思う。
争いが多かったら、ミンストレル国も税収に影響するから軍を送り込むぐらいはするだろう。そもそも争いが在ると商人が損をするから、争うような探索者から買い取りしないと思う。
下の階から来る人の流れには獲物を運ぶ専門の荷運び人とその護衛の人がぞろぞろとやって来るので、何度かすれ違った。
当然だけど私たちも右手側に避けてやり過ごした。
地下2層はゴブリン、3層はスライム、4層はコボルトとゴブリン、5層は狼とゴブリンとスライムが出る様だ。
途中休憩を挟みながら魔物と戦うことなく地下へと降りて行った。
5層のボス部屋に挑戦しようかと思ったけど、部屋の前にはどこかのグループが張り付いていて、私たちを睨んでくるので、争いは避けて6層へと降りる事にした。
始めて入った6層は草原になっていた。
カー爺の不意打ち時の対応は、慌てないための心構えと言えます。実際に不意打ちされた時にあわてて何もできないより、体の向きを変えて剣を抜くだけでも対応が違ってきます。
次回は、6層でキャンプしながら6層を探索します。




