第38話・2 ダンジョン城塞
ベロシニアを追ってミンストのダンジョンへ向かうマーヤ達。
ダンジョン攻略に必要な物資や水はベロシニアらは荷物持ちを雇って持ち込んでいるけど。私たちには腕輪のインベントリも在れば私でもポリィーでも水を出せるので、用意する必要は在りません。
でも、それを知られる訳にはいきません。
ポリィーがマイセル君のお世話だけでなく、各自の背嚢を取り出してくれていたので、全員背嚢を手にギルドを出ました。
ギルドを出てダンジョン城塞に入る前に各自が手に持った背嚢を背に担ぎます。
私たちは傭兵ギルドを出て、通りを挟んだ反対側のダンジョン城塞(正式名称は、神の恩寵たる祝福されしミンストレル国ダンジョン城塞)へと首に入場用の切符を下げて乗り込みます。
カー爺が切符を皆に渡しながら使い方を説明してくれました。
「この傭兵ギルドで購入した切符は1回の入場に限って使えるそうじゃ。」
「入る時には必要じゃが、出る時は必要は無い。」
「だから、ダンジョンに入る前に取られん様にな。」
「ダンジョン城塞の中だけなら何度でも入れからの。」
「この切符は、ダンジョンの入り口で切符を渡すまで、切符の色が変わる9月まで何度でも入れるからの。」
「今なら10ヶ月間有効じゃの。」
「城内で商いをする商人は、此の切符で入っていると聞いたが、年間銅貨5枚じゃから安過ぎじゃな。」
門を守る城塞の兵士に切符を見せるだけで門内に入る事が出来ました。
門を抜けたそこは、ダンジョン攻略に必要な物やダンジョンから持ち帰った物を売り買いする市場があります。
市場はまだ昼5時(午前10時)なのにすでに人で溢れる混雑ぶりです。
混雑と喧噪の一部は自分を荷物持ちとして雇って欲しい人たちがダンジョンへ入る人へ大通りの前で一団となって声掛けをしているからです。
「俺を雇ってくれないか? 力はあるぞ! 銅貨70枚でも安いと思うぞ。」
「私は6階まで何度も言った事が在ります、銅貨60枚でも良いので雇ってください」
私たちに話しかけて来た人たちは、大手の探索者? が募集する荷運び人から溢れた人たちのようです。
規模の大きなダンジョン探索者(傭兵や冒険者などを含めたダンジョンで収入を得ている人たちの事らしい)の荷運び人の相場は1日で銅貨50枚から100枚のようです。
私たちの姿は大きな背嚢を全員が担いだ深部への探索者に見えるようです。荷運び人の人たちは日雇いで雇われているようで、あまり私たちに雇ってくれとは言ってきませんでした。
雇われ荷物持ちが屯している場所を抜けると、ダンジョンの入り口への大通りです。
城塞の門からダンジョンの入り口へかけて大きな通りが真っ直ぐに通っています。その通りの両側に並ぶ掘っ立て小屋がお店です。
勿論大通りだけでなくその後ろ側にも似たような店が所狭しと立ち並んでいます。
そんな大通り中を人が埋めつくしている光景は十分足を止めて見るだけの価値はあると思います。
でもカー爺は私の思いなど関係ないとばかりに、立ち止まってお店の商品を見る人をかき分けダンジョンへと進む足を止めようとはしません。
私たちは、カー爺を先頭にダルトさん、ケンドルさん、私とポリィーそして後ろはアントさんの並びで一列になって押し通ります。
私は出店をキョロキョロと見ながら、ポリィーに手を引かれて歩いています。
出店には、ゴザやざる、袋に紐が所狭しと並べて在ったり、保存食なのか干した果物や焼き固めたクッキーみたいな物を置いてある店もあります。
武器や防具は見あたりませんが、ナイフや鉈の様な物は在りました。
大通りの人の流れは、ダンジョンへと向かって流れています。
逆のダンジョンから出てくる人たちは大通りの裏へと流れているようです。出入りするのは人だけでは無くて、荷車や台車の方が多いぐらいです。
荷車や台車は大通りの裏にある倉庫へと行き来しているのが分かります。
お店を良く見てみると、大通りの裏側には、大きな倉庫を構えたお店が並んでるから、ダンジョンが落とす物を保管したり、買取する場所だと思う。
それに、アントさんが言っていた傭兵ギルドの買取所も城壁沿いに在りました。もし、ダンジョンで買い取りして貰えそうな物が出たら寄ってみるのも良いでしょう。
他にも、アントさんの仕入れて来た受付の人の話には、このミンストネル国ではダンジョンからの収穫物は法律によって、ダンジョンを囲む城塞の中でしか買取できないそうです。
城塞を出る時手荷物検査などはしていないそうですが、門番が見張って居るので、大量に物を持ち出そうとすると捕まるそうです。
持ち出し禁止はダンジョンに入る探索者だけが対象で、買取する商人は関係ありません。
ただし、王様はこれらの売り買いに税金を掛けていて、日々金貨で何千枚もの売り買いがあるそうなので、税金だけでも金貨千枚ぐらいは行くんじゃないかな。
傭兵ギルドが出来てからは、傭兵ギルド会員だと城塞の中に在るギルドの買取所でダンジョンから持ち帰った物を買い取ってくれるそうです。
買取所には商人が欲しい物を高値で買い取る依頼が張り出されている場所が有るそうで、運よく依頼品を持ち帰ってたら、高く売れる事も在るとか。
他にも貴重な出物が在ると王様が独占的に買い取る権利が在るそうです。
探索者から直接では無くて、商人が買い取りした物を王様が少し手数料を付けて強制的に買い取ると聞いています。
噂では、その品を売る時は買取の数倍の値段が付く事も在るとか。
王家にとってダンジョンは笑いが止まらない大事な収入源になっています。
以上がアントさん経由の受付さんの情報です。
これらの情報はクラン「緑の枝葉」の登録で奥に在るクラン専用の受付で登録した後、アントさんが聞いてきました。
市場の在る大通りを抜けると、幅のある長い下り坂が見えてきます。
その先がダンジョンへ入る入り口です。
下り坂を下りた先は奥へと開く両開きの鉄の門が在ります。鉄の門は大きく開いたままです。
今度は門番より重武装な衛兵が門前に柵をして人や荷車や台車の流れを入る方と出る方で分けています。
ダンジョンへ入る方は、荷車や台車を運んでいる人も関係無く一人一人衛兵に切符を渡しています。出る方は何のチェックも無く出ています。これがダンジョンへ入る最終チェックなのでしょう。
私たちも衛兵さんに切符を渡して開いている門からダンジョンの中へと入って行きました。
中へ入ったけど、まだ先が在りました。
次回は1階から5階へとダンジョンを下って行きます。




