第38話・1 ミンストの傭兵ギルド
ベロシニアを追ってミンストの傭兵ギルドへやってきたマーヤ達。
ダンジョン城塞の前までやってきました。
朝食後、昼3時(午前8時)に宿を引き上げ、ミンストに来た時に見た王城の下に在るダンジョン城塞までやってきました。
傭兵ギルドは通りを隔てた反対側にあります。
ここまでの道筋でもそうでしたが、早朝からダンジョンへ入ろうと人が多く集まって来ている。ミンストの町中からダンジョン城塞へと武装した集団が群れを成している。
傭兵ギルドに入ってもその混雑の一部は続いていた。
私は傭兵ギルドに入るのは初めてです。ギルドへの登録はイガジャ男爵様にお願いして裏からギルドへ行かずに手続きして貰いましたので、今日が生まれて初めて入る傭兵ギルドに成ります。
入り口から混雑しているので、ポリィーと手を繋いで入りました。赤ん坊を抱いては入れないので、マイセル君は宿を出る前からポリィーの部屋の中です。
私の身長だと人混みの中に埋没してしまい、今居る場所が何処だかさっぱり分かりません。ポリィーと繋いだ手が唯一の道標です。
ギルドの開いたままのドアから人をかき分けて入り、人でごった返した混乱の中をカー爺の後ろに付いて行き、奥にあるギルドのカウンターまでやってきました。
導き手のポリィーが立ち止まり、ポリィーの前に居るカー爺が、カウンターの奥に居た男性に声を掛けた。
「クランの移動登録にきた。」
カー爺が受付の男性に言ったので、ここが目的のクランが活動場所の移動を登録する受付だと分かりました。
「いらっしゃい。クランの移動登録だね。」
声は普通だけど、彼の肩が動いているので、書類でも出しているのかもしれない。
「人数とクランの名前を言ってくれ。」
受付の人が手続きに必要な事だけをテキパキと知らせてきました。
「6人じゃ。名前は”緑の枝葉”と言う。」
カー爺も必要な事しか言いません。お互いに愛想は無いけど効率は良いかも。
「はい、では、これからクランの方の確認を始めます。」
そう言って何やら書き込みをしてからこちらに次の事を知らせてきた。
「ではクラン”緑の枝葉”の方は一人づつ私に札渡してください、その時お名前も言ってください。」
「分かった、儂がリーダーのカーじゃ。」と札渡して名前を言う。
「はい、次の方。」紙に素早くタグの情報を書き込み、終わると再度確認して返してくれる。
「アント。」、「ダルトです。」、「ケンドルと言いますだ。」、「ポリィーよ」、「マリィーです」
私が名前を言うと、吃驚ような顔をしていましたが、声には出しませんでした。
マイセル君は、クランの一員ですが、傭兵ギルドには登録して無いので今回は関係ありません。
こうして、クラン”緑の枝葉”はミンストへの再登録を全員で済ませました。
「ダンジョンへ入る手続きはこの受付でも出来るのかな?」カー爺が聞くと。
「申し訳ないけど、別の窓口です。お金の支払いが毎回入る度に必要なので、入り口に近い方に今皆が並んでいる場所に在りますよ。」
見ると5列の順番待ちの列ができていました。先ほどの混雑はこれが原因なのでしょう。
「ギルドではクランなどの人数が分かる場合はまとめて手続き出来ますので誰か一人が代表で手続きすると良いですよ。」
受付の人が教えてくれたので、ダンジョンへ入る手続きのためカー爺が代表して受付へ行きました。
カー爺はこの国のダンジョンへ入るための手続きと注意を聞いて、一人銅貨5枚を払って1回入る切符を買っています。またもや銅貨30枚の出費です。
カー爺が行っている間、混雑を避けて壁際に一塊になり、帰りを待ちます。
朝から大勢がダンジョンに入ろうと、皆順番を守って並んでいるようです。
ダルトさんが誰も来ないで暇そうな受付の人に話しかけています。しばらく話した後帰って来て受付の人から聞いた話を教えてくれました。
「傭兵ギルドが作られる前は、ダンジョン城塞の門に在る受付でしか手続きする場所が無かったけど、それが、ここで傭兵ギルド会員への手続き代行が行える様になって、だいぶ混雑が解消されたらしいね。」
「他にも傭兵ギルド会員だと城塞の中に在る買取所でダンジョンから持ち帰った物を買い取りをしているので、ぜひ利用してくれと言われたよ。」
ダルトさんの話で、そう言えば昨日の打ち合わせでは魔物の話はしたけど、落とす物の話は出なかったなぁと思っていると、ポリィーも同じ思いだったようで。
「此処の魔物が落とす物って、魔石以外に何が有るのかしら?」
「あまり変わりは無いと思うぜ、狼系なら毛皮だし、蜘蛛なら魔糸かな。」
アントさんが思い出しながら言います。
「他には、ゴブリンやコボルトにワーウルフなら武器や爪が有ったな。」
ダルトさんも教えてくれた。
「此処の特徴的な物ってないの?」興味が出たのかポリィーが、更に詳しく質問する。
「うーん、なにがあったかなぁ 確か草とか木の魔物が居たと思う。」
「居た居た。草原に生えている奴で、群落全体が迷路の罠に成っていて迷い込むと混乱を掛けてくるのがいたよ。倒すと言うより刈り取ると穂の部分が残って麦とかコーンとか色々落としてたな。」
「他にも牛っぽいのやヤギっぽいのがいたよな、上手く魔石を先に砕くと肉が手に入ったのを覚えているよ。」アントさんとダルトさんが思い出しながら話してくれた。
なんと! 麦やコーンを落とす植物の魔物がいるのね? それに魔石を先に砕くと魔物の肉体は残るから肉も手に入るわけね!
ひょっとして、ミンストはダンジョンからの食料で食べて行けるんじゃぁ無いかしら?
でも、それならここまで通って来た村や集落の飢えた目をした人たちは、何であんな目をしているのか分かりません。
道中を思い出して、何処かおかしいけど、私には分からない、いったい何かが在るんだろう? と、考えていると。
お邪魔虫が物思いに沈みかけた私の方へとやってきた。
カー爺がクランを代表して手続きをしている間、私たちは後ろの壁際に一塊となって待って居ます。
ポリィーはマイセル君のお世話をするため、時々しゃがみこんで腕輪のインベントリの中へ、頭ごと手を入れています。
ポリィーのそんな姿を隠すためにも密集して立ってる訳です。
そんな私たちに、10人ぐらいの傭兵の一団が近寄ってくる。
彼らを引き連れ、先頭に立つ大男が話しかけてきた。
「おめぇら、何処から来たんだ?」
代表してアントさんが答えた。
「俺らはクラン”緑の枝葉”だ、オウミから来た。」
ジロジロと皆を見て、最後に私を見て嫌な笑いを浮かべ。
「小せえのが居るが、お貴族様が探していると言う、エルフじゃ無かろうな?」
アントさんがさっさと帰れとばかりに、拒絶の言葉を投げつけた。
「お前の知りたがりに、答える気は無い。」
沸点が低すぎなのか、いきなり腰の剣に手を当て、右手で剣の柄を握って脅してきた。
「なんだとう! 俺ら赤き血潮団をバカにしてんのか?」
「ふん、良く吠える犬だな。」
アントさんが馬鹿にした笑いで更に煽ったから、激怒した男はとうとう剣を抜いた。後ろの男ばかり10人程も同じように剣を抜くと私たちを囲むように左右に散った。
そこにカー爺が受付から帰って来て、男らの後ろから3人まとめて首を狩る様に一薙ぎで打倒した。容赦ない一薙ぎだった。
次に前で剣を抜いて威嚇しているボス? を拳固で「ドガッ」と上から下へと殴り倒した。
4人とも床に潰れたカエルの様に、無様に転がって痙攣している。
「馬鹿者が! ギルドで何を騒ぎを起こしておるか!!」
「すいません、つい相手が鬱陶しい奴だったので、対応が雑になってしまいました。」
アントさんががカー爺に頭を下げてあやまります。
周りの男らはカー爺の金剛身の力技を見て慄いているようです。戦意も失せたのか、少しづつ後ろへ下がりカー爺から離れて行く。
カー爺がその動きを見ながら、「手続きは終わった、引き上げるぞ。」と私たちに言いました。
ギルドの中も今の騒ぎさえ入り口付近の混雑が大きすぎて、大した騒ぎにもなっていないようです。移動手続きをした受付も一人しかいないので何も動く様子は在りません。
カー爺はその様子を伺ってギルドを出る事にしたようです。
カー爺の言葉で、ポリィーがするりと前に出て倒れた男らに触れた。そして、何事も無かったかのようにマリィーの横に戻ってきた。
軽くうなずいたので死ぬほどのケガではないようです。ポリィーも診察に安定感が出て来て魔女として一段と成長しているようです。
みんなはカー爺の後に続いて傭兵ギルドを出た。男らは追いかけて来なかった。
この後、ダンジョンへ入るため急いで道を渡った。一時はどうしようかと思ったけど大した事も無く済んで良かったです。
次回は、ダンジョン城塞へ移動してダンジョンへと入ります。




