第37話・5 王都ミンスト(5)
王都ミンストの宿は従業員まで油断が出来ません。
ミンストの宿では、油断も隙もできません。
事件が起こったのは、カー爺たちが出かけた後の私たち女と子供の3人だけになった時でした。
カー爺たちが出かけた後しばらくして、部屋のドアを「コンッコンッ」とたたく音がしました。
空間把握を使って部屋の外を確認すると、正面に2人、左右の壁際に2人づつ、計6人の男らが居ました。
カー爺たちが出かけたのを見て、早速残った私たちに、何かチョッカイを出しに来たようです。
ポリィーの方を向いて、両手で6人と示し、2人づつの意味を込めて指2本で両サイドの壁と正面を指示しました。
ポリィーが頷いて、ドア越しにドアを叩く人へ向けて言い放ちます。
「誰だか知らないけど、何の用だい!」
するとドアの前に立って居る男がおずおずと答えました。
「宿の者ですが、お出かけのカー様から伝言がございましてお知らせしたいのですが?」
どうやら宿の従業員もグルだったようです。宿泊時に傭兵の札を出して名簿に書き込んでいますから名前は知られています。それでカー爺の名前を出せば、ドアを開けると思ったのでしょう。
ポリィーが呆れたような声で返答しました。
「はぁん! カー爺からの伝言だって! 彼奴が他人に伝言を頼むなんて、寝言を言ってんじゃ無いよ!」
「いいかい、ドアは開けないよ! 開けたきゃぶち破るんだね、これでも女だてらに傭兵やってんだ、真っ先に死にたい奴から入って来な!」
ポリィーの迫真の演技と言うより本気でしょう。言い方は酷いですが。盗賊団退治の時から真面目な一面を見てきましたが、カカリ村のダンジョンでの一件以来戦いに物怖じしなくなったようです。
今もドアが破られたら、魔術を行使しようと待ち構えています。私もポリィーの横で散弾を何時でも行使できるように魔術陣を構えています。
ポリィーの迫力ある物言いに怖気づいたのか、正面の男の合図で、6人の男らはさっさと引き上げていきました。
空間把握で彼らが引き上げるのを見ていたけど、自称両替人の時も、今の従業員にしても、人数だけは多いけどいざ戦いとなると弱気になって逃げるようです。
ポリィーが何やら考え込んでいます。今の出来事に何か思う事でも在ったのでしょうか?
「マリィー、今の男らは引き上げたようだね、他に誰かいたかい?」
「今の6人以外? 居なかったよ」
「確認するけど、扉の前と左右の壁際に2人づつ居たんだよね?」
「うん、左右に2人づつ壁に張り付いていたよ、扉の前はノックした男と後ろに一人居た」
ポリィーが何やら深く考え込んでいます。何やら不安になってポリィーに聞きました。
「ポリィー? 何かあったの」
「うん? いや、ちょっと扉の前の男に魔力視で見られたような気がしたのよ」
「そうなの? 私たちが魔術陣を作ったのが見られたってこと?」
「まぁそうかも、それで逃げたのかもしれないけど、引く判断が早いなと思って」
私は気が付かなかったけど、今度から目に魔力が多く流れていないか空間把握で確かめる時、気を付けようと思った。
「ベロシニアのダキエ金貨の件も在るから、見張られていると考えた方が良いわ」
ポリィーはドアを見ながら吐き捨てるように言った。
空間把握では、両隣の部屋にも人が入っているし、廊下を行き来する人も絶える事は無い。監視している人なのか、ただの宿泊客なのか判別はできない。
常に空間把握で監視する事は疲れるから無理だし、今までの様に何かあった時に使うしかない。
結局、ポリィーからカー爺に、後で此の件の話をする事になった。
夜になる前に、ほとんど同時に皆が帰って来ました。私の部屋に在る台所で作った夕食を出して腹ペコさんたちの食欲を満たしてあげます。
ちなみに宿の食事を断ったのは、最初から食事は自分たちで作る予定だったからです。門の衛兵さんから言われた事だけで断った訳ではありません。
台所が在って煮炊き出来るのに、美味しい方が良いに決まってるとポリィーは自分の作る食事に誇りを持っています。
男共はお酒は外の方が美味いと言い張りますが、ポリィーの目が光る場所だと量が飲めないので外へ行きたがるのだと、ポリィーは言っています。
今夜は香辛料(神域産)を効かせたカリーです。彼の方の異世界でよく食べられているちょっと辛みの在るルーをたっぷりな牛肉や野菜と炒めてシチューにしたものです。
ポリィーには沢山の香辛料を混ぜ合わせたカリー粉の入ったビンを母のレシピと材料だと言ってレシピの紙毎渡して作った物です。
もちろん私も人参、玉ねぎ、ジャガイモなどの野菜を切って一緒に作りましたよ。
お米は見た事が無いので、小麦にミルクとバターを混ぜ棒で広げて薄焼きにしたナンを作りました。
カリーとナンで食べる食事は香りと言い、刺激的な味と言い、さすが彼の方の世界を魅了するだけの料理だと思いました。
宿中に美味しい匂いが漂っている事でしょう。部屋を見張っている連中に、この美味しい匂いをたっぷりと味わってほしいと思います。
そして、指をくわえて、匂ぐだけで分かるすごくおいしそうな料理を食べたい! と悶えちゃえ。
カリーは皆にも大好評でした。
普段の倍は食べた男共は、食べ終わった後ハーブ茶を啜りながらくつろいでいます。
・・・・食後のまったりとした時間が過ぎます・・・・
カー爺がダルトさんとケンドルさん組に聞きます。どうやら打ち合わせを始めるようです。
「それでどうだったそっちは?」
「噂は直ぐに耳に入りました、ベロシニアたちは鳴り物入りでダンジョンへ入った様ですから。」
「そっちもか、儂らも同じ話を何回も聞いたぞ、よほど噂になる様に仕向けたかった様じゃ。」
「傭兵ギルドでダンジョン探索に経験がある傭兵を幾組か雇ったようです。」
ダルトさんの組は傭兵ギルドへも行ったようです。
カー爺とアントさんもその話は知っているようです。「それからどうした。」と続きを聞いてます。
「それで、酒場で盛大に酒盛りをして、ダンジョン制覇をぶち上げた、と。」
「30人の傭兵と荷物持ち20人と共に、ベロシニア一行10人もダンジョンに入ったそうです。」
「それが、10日前だと聞いたけど、まだ出て来たとは聞いて無いです。」
最後はケンドルさんが締めた。
「と言う事じゃ、儂らもダンジョンへ入るかの?」
カー爺が私の方を向いて、質問してきた。
私は直ぐに、「はい」と答えます。みんなも頷いています。
60人が待ち受ける罠でしょうけど、行かないと言う答えはありません。
留守番している間に起こった宿での騒動でした。
今回の件はダンジョンに入る前に、閑話で男らの話が出ます。
カリーの匂いにひもじい思いをしたのは、何人もいるようです。
次回は、ミンストのダンジョンについて説明します。




