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小さなエルフの子 マーヤ  作者: 迷子のハッチ
第2章 神聖同盟の国々
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第37話・2 王都ミンスト(2)

 王都ミンストは何処でも一波乱ある様です。

 王都の城壁が遠くに見え、街道沿いに家が増え始めた。


 実りの秋で収穫があったはずなのに、街道から見る人達はこれまで見てきた集落の人達と同じ飢えたような目をしています。

 飢えた目の人達が通り過ぎる私たちの馬車を、隙あらば襲い獲物にしようと伺っている気がします。


 この国は何処へ行っても油断が出来ないのかもしれません。正直に言うと、彼らの目が怖い。


 けっしてベロシニアが広げた噂や報奨金の事だけではありません、ミンストネル国の国民すべてが私を狙っている気がして気が休まらないのです。

 変装の魔道具ができて、見た目ではエルフとは分からない姿に成れたので。これで少しは安心できるといいなぁと思っています。肌の色とかはポリィーを見ながら若干調整し直す必要が有りましたが、おおむねうまく行きました。


 大河ワーカムの上流部に当たる、川幅が広く流量の多い川を渡し舟で渡った。渡った先に在るのが王都ミンストです。橋は在りません。

 渡し舟は人だけ渡せる小舟と馬車も渡せる桟橋から桟橋へと移動する渡し舟が在ります。私たちは、馬車をインベントリ(マーヤの神域)に入れて7人で小舟に乗って渡りました。


 渡し賃は、私鋳銭、鐚銭、欠けた銅貨などが混ざった銅貨で、ある程度重ければ良いようです。船頭さんが手に乗せられた渡し賃を一目見て、受け取ったり跳ねのけたりしているので、どうやって見分けているのか不思議です。

 私たちは銅貨21枚を払いました。受け取った途端、吃驚したような顔をしたのですが、渡し賃一人に付き銅貨3枚と板に書かれていたから払っただけです。

 何故か船頭さんは、特別に私たちだけで船を出してくれた。渡し賃の銅貨21枚が、よほど嬉しかったにしては、定額なのにこれも不思議です。


 「オウミの正貨じゃからな、ここらへんで通用している私鋳銭の数倍の価値が有るからじゃよ。」


 カー爺は特別扱いが当たり前だと、そんな事を教えてくれました。この国は経済的に既に終わっているんじゃないかしら? 王都に入る前にそう思いました。


 渡し船を下りた先は、整備された(それでも土がむき出しです)道です。道の先に見える王都ミンストの城門へと歩いて向かいました。

 門では人と馬車で分けられ、更に人も住民か近郊の集落からの人とそれ以外(小規模商人とか傭兵とかの旅人)で分けられた。


 傭兵の私たちは王都に入る税として一人銀貨2枚です。


 入都税で銀貨を14枚払いました。高い入都税ですが、払わないと王都に入れず、ベロシニアのその後の様子がわかりませんから仕方ありません。


 税を払う時、意外にもオウミ国の銀貨がこの国でもそのまま通用したと言うより歓迎された、門を守る衛兵さんに。


 カー爺に入都税を払えと係の衛兵さんが近寄って来た。

 「オウミの銀貨しか持ち合わせておらんのじゃが、それで払いたいが、良いじゃろうか?」


 一応殊勝な態度でカー爺が聞くと、涎を垂らしそうなほど顔を歪ませた衛兵さんが歓迎してくれた。

 「おう! オウミの銀貨か! 良いぞ良い良い、何人だ?」


 「おう助かるわい、それで人数じゃが7人じゃ。」

 「そうか、ちょっと待て!」


 そう言って衛兵さんは持ち歩いている板に書かれた絵を見た、板には人と馬で分かれていて、どちらにも、数字が二つ並んで書かれています。

 簡単な金額早見表のようですが、文字は少なく「数」と「金額」とかしかありません。数字は左側が人数か頭数で右側が金額の様です。

 「銀貨14枚じゃ。」板を見て衛兵さんが答えてくれました。


 「オウミの銀貨で14枚で良いですかの?」

 「おう! 良い良い。」


 カー爺が支払う銀貨を机の上に置いて確かめるために数えながら、3枚ぐらいの銀貨を摘まんで衛兵さんにだけ見えるように手で隠しながら知りたい事を聞き出そうと声を潜めて質問します。

 「所で、教えてほしいのじゃが、何故オウミの銀貨でも良いのじゃろうか? ミンストネルの銀貨に両替する必要は無いのかの?」


 「爺さん、内緒だが我が国の銀貨はあんまり銀が入っとらん、オウミの銀貨よりずっと少ないんじゃ、それでも両替では1対1で両替する事になるし、両替税が銅貨10枚別に必要となる。」


 衛兵さんがすごい目つきで、カー爺が右手の指に挟んだ銀貨を見て言いました。顔をカー爺に向けたまま、目だけが右下を見ているのは不気味です。


 私はこの国にオウミ国と違ったこれじゃないと言うかこれで良いの? みたいな違和感を入国からずうっと感じています。

 今話している衛兵さんもそうですが、この国の人達は私が知っている範囲ですが、自分さえ今を生きて行ければ良しとする刹那的な生き方をする人(山賊や村人)だらけです。


 今目の前に居る衛兵さんも青白い病的な顔色なのに、目だけがギラギラと油断なく此方を見ていて、値踏みして、つけ入る隙を常に探っているのだろうなぁと感じます。

 絶対私たちの払った銀貨をミンストネル国の銀貨と入れ替えて納めるのでしょうね。人数は別の人がカー爺の言った人数を控えていたので、金額は誤魔化せないでしょうから。


 衛兵さんが入都税で払った銀貨を数える振りをしながら、恩着せがましく色々話してくれました。

 「カネは掛かるが安心できる宿なら王宮へ向かう道の中程に集まっているぜ。」

 「ただし飯は食うなよ、外で食うか自分で作る方が安心できる。」

 「おめえら傭兵だろ、王宮の丘の下にダンジョンがあるが入りたいなら、傭兵ギルドでダンジョンに入る手続きを代行してくれるぜ。」


 カー爺から追加で銀貨を何枚か、手から手へとこっそりと貰って、笑顔の崩壊する衛兵さん(ちょこっと話して銀貨3枚になったのですから)を残して門を潜りました。


 門を後にしながら振り返ると、衛兵さんたちが先ほどの衛兵さんを取り囲んでいます。ニタニタしている人が多いので、衛兵さん皆でグルになってピンハネしているのかしら?


 次回は、門の先での門番の言葉への疑問と一騒動です。

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