第37話・1 王都ミンスト(1)
王都ミンストへ色々ありましたが到着です。
襲って来た商人の一団を全てパライズで痺れさせ、一網打尽にしました。
実は、カー爺はある程度商人の行動を読んでいたそうです。馬車で側を通った時、馬車の後ろにいた私を見て騒ぐ男を見たのだそうです。私が商人の一団を見ていた時、逆に私も彼らに見られていた訳ですね。
こうなりそうだとは思っていたらしいけど、分かっていたのなら教えてほしかった。
まぁ予想だけで相手を手玉に取る作戦を、その場で作れるんだからカー爺ってすごいけど、悪だよねぇ。
商人の護衛とみられる男ら(53人いました)は武器と防具を取り上げ、後ろ手に縛り数珠繋ぎにしました。縄が必要分無かったので、魔糸で後ろ手にした左右の親指を結んでいます。
魔糸だから力自慢の人でも引っ張った位では切れないし、数珠繋ぎにしたので動きにくいと思います。
馬鹿旦那の方は使用人と見られる2人と一緒に馬車の横へと連れて来ています。これから彼らを締め上げてベロシニアの事を聞く、何て事はしません。
積極的に知ろうとする事は逆に勘繰られる訳で、バカ旦那の勘違いで済ませたい私たちとしては好ましくありません。
結局、今回の動機としてベロシニアから聞いたと言う話を、軽く聞いただけです。
若旦那は、オースタンと言うらしい。彼が言うには。
「ミンストで同宿した時、ベロシニア子爵と知り合い、その時同行しているイスラーファと名乗るエルフの女性が攫われた娘を探していると聞いたんだ。」
「ベロシニア子爵たちは、娘さんを攫った一団をミンストネル国まで追いかけてきたが見失ってしまい、必死に探している所だったんだ。」
「その時、見つけたら保護してほしい、保護が難しければ連絡してほしいと頼まれたんだ。」
「謝礼はダキエ金貨を渡すと言って、ベロシニア子爵がダキエ金貨を実際に見せてくれたんだ。」
「初めて見たダキエ金貨は凄かった、刃物で力いっぱい突いても傷一つ付かないんだ。」
カー爺もダキエ金貨には驚いたようで「偽もんじゃないか?」とからかっていました。でも、話から本物のダキエ金貨だと思われます。
動機は分かったけど、ここに来て始めて母の情報が出てきた。ベロシニアに連れ去られたのはこれで間違い無いでしょう。
話からベロシニアらは既に王都ミンストに居る事が分かった。オースタンたちは2日前に王都ミンストを出たらしいので、3日前まではミンストに居た事になる。
ダキエ金貨は母が持っている物を取り上げたか、前にイガジャ領への投資に使うため売った物をベロシニアが手に入れていたのかどちらかだろう。
他に考えられるとしたら、エルゲネス国の闇魔術が持っていたのかもしれない。
それにしてもベロシニアらはえげつない。ダキエ金貨はオウミ金貨6千枚で売れた事を考えると、このミンストネル国ではそれ以上の価値に成ると思う。
オースタンが攫って迄して手に入れようと襲って来る訳だわ。
話を聞いた後オースタンらに馬車の中を見せ、カー爺たち男4人以外に誰も居ない事を分からせました。今回、勘違だったと言う事をオースタンに納得させ落とし前を付けさせるつもりです。
ポリィーとマイセル君と私は腕輪の空間収納に隠れていました。
今回の襲撃で不思議なのは、馬車の後ろから覗いている姿だけで、エルフの子だと分かったのでしょうか? 特徴的な耳は魔道具の髪飾りで隠していましたから人族と変わらない姿だったのに。
もし、髪の色や目の色で疑われたのなら、髪と目も魔道具で変装する事にした方が良さそうです。
オースタンたちは、馬車の中を見て男しかいない事を理解しました。馬車の後ろから見ていた子供は何かの見間違いと言う事になり、「申し訳なかった。」と謝罪しましたが、謝罪だけで済むはずが在りません。
悪い顔をしたカー爺たちが、手ぐすね引いて目の前に居るのですから。
「攫われた子供がいるかもしれないから襲った。」のが今回の顛末な訳ですが、それにしてもあんまりな襲撃です。
何処の修羅ですか? かもしれない、だけで襲うなんて。
今回の襲撃未遂はオースタンの勘違いが起こした事件(私たちは勘違いで終わらせたかったので)なので散々カー爺たちに脅されたオースタンは弁償する事に同意したので、生きて返す事(最初から殺すつもりはありません、山賊と違うのですから)にしました。
彼らも疑問や知りたい事は色々あるでしょうけど、オースタンが人質に成っているので、森から一人で出てきた男(護衛隊の副長でした)も、率直に父親の商人の元へ顛末と解放の条件を伝える使者として行ってくれました。
オースタンの父親で商人の一団を率いる商人も、お金の支払いで済むのならと、ロマナムの棒銀での支払いに応じました。棒銀にしたのはミンストネル国のお金だと他国で通用しないからです(商人は支払い用に棒銀を持っているのが常識だそうです)。
銀棒30本、今回商人から巻き上げたお金です。大した金額では無いそうですが、オウミ銀貨1500枚分に成ります。カー爺に拠ればオースタンの身代金としては格安らしいです。
この中には、捕らえた護衛の武器や防具の代金も入っています。幸い進む方向が逆ですから、私たちが出た後に彼らの武器と防具は残して行く事で話が決まりました。
厄介なのは、ベロシニアが噂をばら撒いている事です。よりにもよってベロシニアは「攫われたエルフの子供を連れた賊が、オウミ国から神聖同盟の国へと逃げた。」と言い触らしているのです。
しかも報奨金(ダキエ金貨)まで用意して探しているとなると、今回の様に襲って来る者が他にも出てきたら厄介です。
朝方に身代金を受け取り、オースタンら一行を解放しました。と言っても護衛の人達は数珠つなぎのままです。彼らが自由になるにはしばらく時間が掛かるでしょう。
私たちはその間に、彼らの武器と防具を空地に放置して直ぐに出発しました。ゴーレム馬を見られたのは仕方が無かったけど、商人からは「売ってくれ。」とは言ってきませんでした。不始末の後ですから言えなかったのでしょう。目だけはギラギラとゴーレム馬を見てましたけど。
私は、マイセル君と腕輪の空間収納に閉じこもったままです。ゴーレム馬を起動する時も、ケンドルさんにゴーレムの魔石を土の所まで持って行ってもらい遠隔で起動しました。
馬車が動き出し、ポリィーが馬車の中に出て行った後も部屋に籠って、髪と目の色を変える魔道具を作っていました。
魔道具は今回は首飾りにしました。首から上の色素を少し濃くする魔道具です。これで私の髪は栗色と成り、目も茶色っぽくなりました。肌色も少し色黒に成ったと思います。
ミンスト丘陵を下り終えた私たちは、開墾された平野を王都ミンストへと進みます。平野部になったおかげか街道を王都に着くまで襲われる事はありませんでした。
平野部は刈り取られた麦畑が広がり、農業が盛んなのが分かりますが、うらぶれた農村の風景が広がっています。集落の人々は痩せていますが飢えては居ないようです。
遠くに王都ミンストの城壁が見えてきました。
次回は、王都ミンストでは一波乱も二波乱もありそうです。




