第36話・4 野営と山賊
ミンストネル国で野営するマーヤ達に山賊が現れた。
結界があるので、不寝番は一人づつ行う事にした様だ。
夜6時(午後11時)までをカー爺、夜8時(午前1時)までをアントさん、夜10時(午前3時)までをダルトさん、最後はケンドルさん。
マリィーが張った結界を馬車より大きめにした理由は、光の結界の中で不寝番を交代で務める男たち4人が歩き回れるだけの広さが必要だったからだ。
山賊みたいな連中が襲ってくれば、弓で撃退出来るように不寝番用に弓と矢の用意が焚火の側に置いてある。内側からなら外からの攻撃を防ぎつつ好きなだけ攻撃が出来るから、飛び道具が最適だとカー爺が考えたから。
結界が在れば山賊が何人来ようとも破られる事は無いけど、朝起きたら山賊に囲まれて吃驚は嫌なので、不寝番にカー爺たちが交代で見張ってくれています。
ポリィーと私はマイセル君も居るので免除されています。私も不寝番がしたかったけど、「マリィーが一人で夜起きてたら、子供しかおらんのかと山賊共が大勢湧いて来て、それこそ大変な事になりそうじゃ。」とカー爺からだめだと断られてしまった。
お約束のように襲撃されたのは、夜9時(午前2時)頃だった。起きて見張りに立って居たのは、ダルトさん。
何かが近づく気配にいち早く気が付き、部屋では無く、馬車の中で寝ていたカー爺たちに声を掛けて起こした。
弓で気配がする場所へ狙いを付けると声を掛けた。
「近寄るな! 誰だか知らないが、近寄れば撃つ!」
一瞬の動揺らしき動きが在り、大声がした。
「見つかった! やっつけるぞ!」、「「「ウオーッ」」」
そして馬車から降りたカー爺やアントさんやケンドルさんが見ている目の前で結界にぶつかった。
「フゲッ」、「ゴハァッ」、「ムギュ」・・・
結界に勢いよく突っ込んだのは10人程、馬車を取り巻くように木や岩陰に隠れている者が5人位居る。結界に突っ込んだ10人は見えない壁にぶつかり、悲惨な状態になっている。
私は山賊が近づく前から空間把握で気が付いて、その一部始終を把握していた。
私があれは痛そうだと思っている間に、襲って来て結界にぶつかり大ケガを負った山賊らをアントさんとカー爺が駆除するかの如く止めを刺して行った。ダルトさんは木に隠れている者を一人一人弓で始末していった。
ケンドルさんは馬車の後ろ側に回り、後ろから忍び寄る山賊にクロスボウで応戦している。
戦闘らしき戦闘は無かったが、襲って来た15名は返り討ちにされた。戦いが終わった頃を見計らって私は部屋の外へと出た。
ポリィーが部屋から顔だけのぞかせている。
私はポリィーに一つ頷いてから、馬車の中からカー爺へと声を掛けた。
「カー爺、もう外へ出て良い?」
「マリィーか、降りても良いが死体が転がっておるぞ。」
「ダンジョンで闇魔術師と殺し合いをしてるので今更よ、人の死骸ぐらい問題無いわ」
死体は傭兵崩れの山賊退治で嫌と言うほど見ている。あの時は母が山賊から逃げ出した村人を見つけるために母と同調していたから母が見聞きした全てが共有されていた。
馬車から降りて、カー爺が居る所へ行く、ダルトさんとアントさんが賊の遺体を引きずって並べていた。それを見ても気持ちの良い物では無いけど、拒否感は無かった。
死体を並べるのは、これから簡単に調べるためだろう。私もざっとだけど彼らを知るために見て回った。彼らを一目見て栄養失調の状態だと分かったから。
「カー爺、これで全部だったの?」
「ああ、そうみたいじゃ。」
「なんだか痩せていてお腹だけ膨れた状態で、服も着たっきり見たい、とっても臭いわ」
「だろうな、間違い無いと思うが、恐らく近くの集落の奴らじゃろう。」
来る途中で見た集落の人だったらしい。彼らが持っている得物は剣や槍にクロスボウだったから、集落の人には見えないんだけど?
カー爺様にはこの賊らが村人に見えるようです。私には凶悪な山賊としか見えません。でも痩せこけて髭もじゃで、体のあちこちに傷が在ってみんな極悪人にしか見えません。
「儂は何度か、援軍として南の大公領でミンストネル国の奴らと戦ったが、奴らの兵隊はほとんどこんな見てくれじゃった。」
「目ばかりギラギラさせていてな、この国の兵隊は真面に戦えるような者が在らんから直ぐ負けるが、逃げ足が速くてな、逃げる途中で目に入った家に押し入って、食い物を漁っていた所を何度も退治した事がある。」
どうやら兵士として従軍経験が在るこの国の集落の人に間違いないようです。農民が武装しているだけでは無く、痩せて服も着たっきりの様です。
それにしてもオウミ国の民に比べて、この国の民は悲惨と言うか飢え死にしそうな状況に置かれているようです。
死体の見分が終わり、彼らが着ていた鎧や持っていた得物を集めて使えない様に破壊して埋めました。剥ぎ取りはカー爺たちがしてくれたので、穴掘りや武器や防具の破壊は私が魔術を行使して行いました。
『わが身よりいずる力は、火! 全てを灰となす業火と成りて顕現せん』
「地獄の業火」
土魔術で掘った穴に入れた、山賊らの武器や防具を高温の火力で一気に焼き尽くしました。ある程度燃え金属も溶けだしたら、土魔術で土を寄せて上に敷き詰め火を消します。
これで、二度と山賊が使う事は出来なくなりました。
ケンドルさんが朝までの見張りに立つ事になり、他の人は馬車へ引き上げます。カークレイ爺様たちも馬車の中では無く、各自の部屋でゆっくり寝る事にしました。
賊の死体は並べて防具をはぎ取り身元などを調べた後、そのままにしています。彼らの知り合いが見つければお墓でも作るかもしれません。
私たちが彼らの事に関わる事はもうありません。冷たいかもしれませんが殺そうと襲った者たちに気を取られるよりも、母を少しでも早く探して助けたいから。
翌朝賊の死体は未だそのままです、集落からの仲間が来る様子は無かったそうです。
私たちは、ゴーレム馬を5頭用意すると2頭を馬車に軛で繋ぎ、急いで移動した。残りのゴーレム馬に鞍を置いて、カー爺たちが騎乗します。3人は馬車の護衛です。
朝食は移動しながら馬車の中やゴーレム馬に乗ったまま食べました。片手で食べられるように黒パンに挟んだチーズと大きく切ったハムです。
各自の水筒には寒くなって来たのでハーブティーが居れて在ります。野菜はお昼にでも食べようと思います。
この国は賊が多くて昼日中から襲って来る事が頻繁にあるそうです。この後も襲撃があるかもしれないと、警戒するに越したことはありません。
次回は、山賊の待ち伏せです。




