第36話・2 ミンストネル国境(2)
ミンストネル国の王都への街道で休憩するマーヤ達。
お昼を分岐点のやや広い三角形になった空地の側で食べる事にした。
うっそうとした森と川辺を通る道に山からの道が合流する場所なので、見晴らしは良くないけど、場所だけは開けている。この場所は利用する人もいるようで木が切られていて、馬車を止められるだけの広さが在る。
暖かいお茶を入れる分は部屋に魔道具があるので、皆で固まってスローニンで買い求めたパンとパンに挟むためのチーズやハムにジャムや玉ねぎ、ピクルスなどを取り出し、思い思いに半分に切ったパンに挟んで自分なりのパンサンドを作った。
「カー爺のは野菜が全然入ってないよ」私がジャムを塗りながらカー爺のパンサンドを見て言うと。
「儂はチーズとハムで十分じゃ。」、「そういうマリィーは玉ねぎが入って無いようじゃな。」
「生玉ねぎは辛いから嫌い、シチューだと甘くておいしいのに生だと辛いから」
「マリィーはピクルスも入れて無いわよ」ポリィーがマーヤのパンに挟んだ中身を見ながら、「野菜を食べなきゃだめよ」と言う。
「すっぱいのも苦手なの」仕方が無いと人参のピクルスをトングで掴んでパンに入れる。
「玉ねぎだって、キュウリだってピクルスにするとおいしいわよ」ポリィーがもっと入れなさいと、トングで追加して来る。
「スローニンで食べた蜂蜜入りの酢は美味しかったけど酢だけだと酸っぱくて苦手なの」私が言い訳するとポリィーが「慣れると美味しいわよ」と更にピクルスを追加しようとしたので、急いでパンを引っ込めて上に乗っかっている分のピクルスを食べることにする。
パンの上に乗せられたピクルスだけを急いで食べて、お茶で流し込む。ポリィーが仕方ないわねと首を振りながら男たちへもピクルスを追加する。ケンドルさんは黙って、カー爺は笑いながら、ダルトさんとアントさんは私と同じで先にピクルスを食べてから、盛大にパンサンドにかぶりついた。
昼食を食べながら川を見て時間が在れば魚釣りとかしたいな、と思っていた。
「カー爺、此の川の魚ってどんなのが居るの?」
「スローン川か? さぁてどんな魚が居たかな?」
「カー爺、此の川はドミナ川だよ、スローン川に成るのは国境を越えてオウミ国に入ってから呼び名が変わるから。」
ダルトさんが川の名前を訂正します。呼び名は国によって違うようです。
「ふん! ミンストネルの奴らがドミナと呼びたきゃ呼ぶがいいさ、儂はスローンとしか呼ばんぞ。」
「名前より魚だよ! どんな魚が居るの?」
「スローン川ならでっかい鮭が上って来るぞ。」
「その魚は釣れるの?」
「うんにゃ、大きすぎて網で捕まえる魚じゃったかな? 獲れるのは秋だったような?」
カー爺は釣りはしないのかしら? 私は釣りがしたいのだけどカー爺は大きな魚しか知らないようです。
「釣れる魚は居ないの?」
「フカが居ったような?」
「フカ?」
「サメの小さい奴じゃったかな?」
「サメって海に居る怖い魚?」
「川にもサメは居るぞ、確か卵の塩漬を食べた事が在る、身も上手かった気がするな。」
魚釣りは諦めた方が良さそうです、元々時間も無いので釣りは時間が在る時まで保留です。昼ごはんの後は王都ミンストへと進みます。王都への街道だと思うのだけど、相変わらずデコボコ道が続きます。
馬車が通るのだから王都への主街道だと思うのだけど、それにしてはこの道は整備もされていない。せめて倒木や道のデコボコ位い埋めてほしい。
森の中の道なので、時々木が倒れていて道をふさいでいる。倒木は馬車が通る時以外は放置されるのが通常のようだ。馬車だといちいち倒木を処理して行かなければいけないので時間が掛かる。
倒木は手間暇がかかるけど、薪用の木が手に入ると思えば少しは労力の対価になるかもしれない。私やポリィーは伐採を見てるだけだけど木を切るのはカー爺たちだ。
最初、私やポリィーが倒木を処理しようと土槍で木を破壊したら、彼らから薪にならないからやめてくれと言われてしまった。
鋸で輪切りにしてから斧で割って薪にするらしい、倒木はそのままでも中が空洞になっていてバラバラになりやすく土槍で木を破壊したら、その破片を薪にするには手間がかかると言われれば手出しをしない様にするしかない。
そうやって作った薪は、ケンドルさんの作業用の部屋に収納している。
何回か不本意な街道整備をしながらも、その日はミンスト丘陵の上まで上り、比較的通りやすい道が続くようになった。森は辺り一面を覆っていて見晴らしも利かず、時折谷間が見える時だけ下の様子が見えると、四方に木々が見えるだけの景色から少しは人の住む場所や畑などの集落が在るのが見える。
日が傾き、そろそろ今日の野営場所を決める必要があり、アントさんがゴーレム馬で偵察に行きました。
街道が在る道から遠く下の方に数件の家が見えますが、街道沿いに家は無く私たち以外にすれ違う馬車や人もいません。随分さびれた街道の様です。
丘陵の上を通る街道沿いにアントさんが見つけてきた、比較的平な場所までやってきた。今日はここで野営します。木が切られた場所が在るので、広場を作るために切り開かれたようです。
人の手が入った後が在る場所は街道を利用する人が野営のために切り開いたのでしょう。
マーヤも旅に慣れて来て、少しは心に余裕が出来て来たようです。
次回は、ミンストレル国の貧困と山賊の襲撃です。




