第35話・2 スローニン(2)
領都スローニンで泊まった宿での出来事。
入都税が一人銀貨1枚で、赤ん坊も入れて銀貨7枚もする。大門前の広場で入都税を払い、大門を通り過ぎたので、カー爺に聞いて見た。
「ねぇカー爺、門で取られる入都税ってカカリ村には無いよね」
「ああ、そんなもん無いぞ、カカリ村は村への出入りに税金は取っておらん。」
「そんなことをすれば村人から石を投げられるわい。」子供へ知識を授ける時の大人の顔をしたカー爺が、少し呆れたように言う。
カカリ村は周りの集落に比べ人が多く、日々食品を村へ入れなければ村で採れる食材だけでは食料が足りなくなるらしい。だから税金を掛けると値段が上がって村人が困るので暴動が起きると言う事らしい。
「なぜスローニンの町では門から入る時に税金を取るの?」
「此処は城壁で囲った都市じゃでの、城壁の中は安心して暮らせる分税金が掛かるのじゃよ。」
「生活費は高いが、安全に暮らせる方が良いからの、みんな無理をしてでも都市に住んでいるんじゃよ。」
「町の外は、そんなに治安が悪いの?」
長閑な田園地帯だと思っていたが、盗賊が多いのだろうか? そんな事を考えていると、ダルトさんが教えてくれた。
「この地域はモルバ族やヤーシ族の国が有った昔から、西のミンストネル国が侵略してくる事が多かったんだ。」
「そうそう、ミンストネル国はロマナム国に次いで拡張主義が強い国でね、大アントナ山脈に沿って侵略して来るんだよ。」アントさんが話を継いで、「略奪を免れるため、城壁内に住むのさ。」結論も言う。
「ふん、弱っちい国じゃから、一度も勝てた事が無いがの。」と最後はカー爺が締めくくった。
スローニンの町は宿も多く、カー爺たちが選んだのは白い壁が目立つ値段的に一人銀貨2枚する、中クラスの宿だった。部屋を2つ、ポリィーの家族とマリィーで一部屋、カー爺たちで一部屋だ。
カー爺たちとケンドルさんは部屋に荷物を置くと直ぐに傭兵ギルドへ様子見に出て行った、昼食は外で食べるそうだ。
カー爺たちがそれぞれ出て行った後、私とポリィーは私のインベントリの台所でお昼を作る事にした。
きゅうり、パプリカ、人参、玉ねぎなどの野菜を食べやすい大きさに切ってリンゴ酢と蜂蜜を混ぜた液に漬け込む、量は二人分だから直ぐに漬かるだろう。ハーブティーを用意して後は黒パンを薄くスライスしてバターを塗り、卵をスクランブルにして器に盛れば終わり。野菜と甘酢の浅漬けとスクランブルエッグを切った黒パンに乗せて食べるだけ、御馳走様でした。
昼食の後お腹が空いてぐずり出したマイセル君の離乳食を作る事にした。ポリィーがなかなか乳離れでき無い事に悩んでいたので、食べやすい牛乳のおかゆを作って食べるか試してみる事にしたのだ。
作り置きできるので豊富にある黒パンに乳糖と少量のバターと牛乳を入れて火にかけ、おかゆを作り冷ました簡単な物だ。乳糖は私が錬金で牛乳から取り出した物で甘みを増すために入れた。
「食べてくれるかしら?」
ポリィーは抱っこしたマイセル君を見て気弱に言った。私が匙でマイセル君に一口食べさせると、嫌がらずに食べた。カミカミゴックンした後。
「ダァー、ダァー」と声を上げ小さな手を振るので美味しかったのだろう。
「あら、食べたわ、続けて食べてくれるかしら?」ポリィーがその勢いに驚いたように言う。
更に一口食べさせると、私はマイセル君がカミカミゴックンと飲み込んだのを確認して、次の一口を食べさせた。意外と意欲的に食べてくれたので用意した牛乳のパンがゆがほとんど無くなった。最後は嫌がったのでポリィーがお乳をのませたが少し飲んだだけで飲まなくなった。
「牛乳が入るだけで、こんなに食べてくれるなんて、ありがとうマリィー助かったわ」
「母が私の離乳食を作った時のレシピなの、簡単だからポリィーも色々工夫してみると楽しいよ」
「作る時、気を付ける事とかある?」
「そうね、もう1才を過ぎているから、基本大人と同じ物でも大丈夫だけど、幾つか注意する必要はあるわ」
「まだ蜂蜜は食べさせないほうが良いわね、それから基本は柔らかく火を通した物かしらね」
「後は、刺激の在る食べ物はだめね、辛い、苦い、熱いとかかな?」
私とポリィーはマイセル君が離乳食を食べて寝ると、男たちが帰るまで薬を作る事にした。今後の旅の事を考えると薬は多く有っても困らないから。
作る薬は、傷薬を一番多くしている、次に多いのが解毒薬、解熱薬と風薬は作らなくても回復魔術で対応する時間的余裕が在ると思う。
傷薬と解毒薬を人数分作り終わる頃、ケンドルさんだけ早めに帰って来た。帰ると「ただいま。」と言っただけで、そそくさとインベントリを開けた。
「中に置いてある鍛冶や修理用の仕事道具を整理している。」と言って入って行った。早く帰ったのは道具の整理をしたかったようだ。
馬車の集団と一緒に移動している時、ケンドルさんが修理が出来ると聞いた商人や御者たちから修理を頼まれたのだ。馬車の車軸や道具の修理をしたので、足りなくなった物が無いか確認しているのだろう。足りない物があれば、スローニンの町で購入する予定にしている。
カー爺たちが帰って来たのは昼の11時(午後4時)位、傭兵ギルドへ行ってたそうだ。そこで貴族が泊まる様な宿を調べて、今夜にでも出かけて調べるそうだ。4人で手分けして宿の近くの酒場で聞いて回るらしい。
帰るのは夜遅くに成るので、ポリィーと私は先に寝ていてほしいと言われた。私は付いて行きたかったが、酒場で7才の子供がウロウロするのも変だし危険らしいので、大人に任せる事にした。
アントさんによればこの辺りはビールが美味しいらしく、男性陣は半分ビールが目当てのように思えるのは置いて行かれる者のひがみかも。
全員で夕食に下の食堂へ移動する。マイセル君は離乳食のパンがゆが気に入った様で、それを食べさせてインベントリの中に寝かせている。この様子なら乳離れは時間の問題だろう。
私たちの今朝の食事は慌ただしい出発のため、美味しい匂いを出せなくて貧弱だったので少し豪華にした。
ゴーレム馬を知られたくないし馬車だと大門で混雑するらしいので、時間を取られる食材を豊富に使った料理が出来なかったのだ。
夕食は、男たちにはワインがボトルで、ポリィーと私は栽培しているベリージュースを頼んだ。料理は牛の肩肉をじっくりと遠火で時間を掛けて焼いたステーキ肉がメインで玉ねぎやニンジンなどの野菜とキノコを炒めた添え物付きで小麦のパンが食べ放題という豪華な献立だ。
カー爺たちはこの後お酒を飲みに行くのに、食事の時からグイグイと飲んで食べてその健啖ぶりを披露している。ポリィーも食べる方だが、男たちには呆れている様だ、ポリィーと私は食べ終わると男たちを置いて、部屋へ引っ込む事にした。
マーヤたちも旅に慣れて来て、余裕が出て来たようです。マーヤもラーファを気にして鬱々として過ごすより、何かをして気を紛らわしています。
次回は、聞き込みの成果です。




