第35話・1 スローニン(1)
南の大公領都スローニンに到着、ベロシニア子爵を追います。
南の大公の領都スローニンに着いた。大きな川の側に作られたごちゃごちゃした町と言うのが始めてスローニンを見た時のマリィーの印象だ。
街道を通る馬車の列に前後を挟まれて進んできた。急ぎたくても前の馬車を追い越す事は、数十台が連なっているため諦めた。その時に御者席から見えた景色が、空と大地の2色から成る景色だった。
北の大公の領地は広大な麦畑が連なるライ麦の一大生産地だったが、ここ南の大公の領地は緩やかな起伏と間を縫って流れる川、丘一面に広がる小麦の一大生産地だと魔女学園で学んだ。
今は冬小麦のために土地が耕された一面の土ばかりが目立つ、空の青さと地面の茶色と言う2色の世界が広がる。
そんな景色を3日間も見て来たのだ。スローニンの印象が多少ごちゃごちゃした感じがしても仕方が無いだろう。
街道は馬車が止まる夕方から翌日の朝まで決まり事が有って、夜間は馬車が通れない。夜街道を通って良いのは徒歩の者か国の許可の在る馬か馬車だけだ。日が沈んで昇るまでは馬車は街道脇に設けられた休憩所(ただの大きな空地に幾つかの井戸が在る)か町の宿で夜を過ごす。
夜間に移動できるのは貴族や役人に兵士などの限られた人たちだけで、傭兵を偽装している私達は町の宿には泊まらずに、おとなしく休憩所に馬車を止めた。
理由は馬車の中と言うか部屋の中の方が居心地が格段に良いからだ。
理由はともあれ、私達は町の宿には泊まらずに野営を続けた。気は急くが、規則を守り馬車の集団と共に行くのは、良い隠れ蓑に成ると思う。そのためゴーレム馬も土に返さずに生き物のようにふるまわせている。
飼料を食べ水を飲む振りは出来るけど、馬糞は出ないのでせいぜい見た目を偽装するぐらいだ。それでも近くに寄って見なければ誤魔化せる。
おかげでゴーレム馬だと騒がれる事無く、休憩所で野営できた。4日間の内で初日以外の土に戻さなかった3回とも、騒がれる事無く野営が出来た。
休憩所で忙しかったのはケンドルさんだった。オイラート村からの間道で問題が出て無いか検査のため、私と馬車の車輪を外して点検していたら、鍛冶屋で修理も出来る事が知られてしまい。
ケンドルさんへの修理の依頼が意外に多く在って、折れたり曲がってしまった車輪の軸の修理依頼でてんてこ舞いしていた。
修理していたのは予備の部品だったので、別に今すぐ修理しなければ馬車の運行に影響在る訳ではなさそうだ。それで、依頼してきた人に聞くと。
「治せる時に治しておかなければ又何かあった時、今度は本当に立ち往生してしまう。」
と言う事だそうだ。私も錬金で治せるけど、そんな事は知らない依頼人はケンドルさんに直接頼み込んでいた。修理代は良い副収入になったようだ。私に頼まれても錬金で修理する事を知られると困るだけなので無視されるのは良いのだけど、何かモヤモヤする。
スローニンの町に着く前日、休憩所を日が昇る前に密かに徒歩で街道へ出た。ゴーレム馬と馬車は私のインベントリ(皆にはスキルの空間収納だと言っている)に入れてある。いち早く休憩所を出たのはスローニンに入る時ゴーレム馬や馬車で時間を取られたく無かったからだ。歩いても馬車でもスローニンまで掛かる時間は大して違いは無い。
ポリィーは息子のマイセル君がまだ寝てるので自分の腕輪の中に入れている。スローニンでは宿を取って町中を探索する予定だ。
6人の傭兵となったクラン”緑の枝葉”は、途中何度かの休憩を取りながら、南大街道をスローニンへと歩く。昼7前(午前中)に領都スローニンへ着いた。門に入る前にマイセル君を腕輪から出して抱えるとポリィーは夫のケンドルさんの後ろに隠れるように付いて行く。
私もポリィーの横でポリィーに合わせて歩く。夫婦と妻の妹らしさの演出だ。カー爺とアントさんとダルトさんが前後に並ぶ。カー爺がクランのリーダーなので先頭だ。
傭兵クラン「緑の枝葉」は、マイセル君を除く全員が傭兵の札を持っている、カー爺が最も高く5級、これは1級から10級まで在る傭兵の格付けで、上から5番目の位置に成る。アントさんとダルトさんが6級、ポリィーが7級、ケンドルさんと私が10級。
10級は木札で登録したギルド内だけの管轄で他の傭兵ギルドでは依頼が受けれない。ただし、ケンドルさんと私は初心者の10級だけど、クランの構成員なのでクランが受ける依頼なら受ける事が出来る。
ホレツァの町の傭兵ギルドはイガジャ男爵様の影の組織も利用するので、今回の様なクランの登録や新規のギルド登録なら簡単に出来るそうだ。イガジャ男爵様が手をまわしてクランの登録とケンドルさんと私の10級の札を用意してくれたのでありがたくいただいている。
スローニンの王都からの南大街道に繋がる大門で、歩いて入る人の列に並び順番が来るのを待った。大門の前に在る広場で門番の役人が座る机の前へカー爺が行き、「クラン緑の枝葉だ! スローニンに2泊する予定だ。」と告げる。
「人数は何人だ?」何度も繰り返して嫌気がさした感じでぶっきらぼうに話す門番。
「クランは6名と乳飲み子1名だ。」カー爺も無愛想に答える。
「乳飲み子?」と好奇心からかポリィーの抱くマイセル君を見て、次にポリィーを見る。
「大きいな、1才は過ぎているのか?」と聞いてくる門番はポリィーの胸を見ている様だ。カカリ村の女性なのでポリィーも立派な物を持っている。
「ちょうど1年経った、まだ乳離れはして無いがな。」とカー爺もポリィーの胸を見ている門番を咎めるように答える。
「そうか、入都税は銀貨7枚だ。」どうやら子供の歳で税金が違うのかな、怪しからん視線は子供の歳を計って居た様だ。当然と言うか私に対しては視線を向ける事も無かった。
お金はかかったが無事スローニンに入る事が出来た。
マーヤも車軸などの修理をしたかった様です。馬車を改造して作ったマーヤは、平穏な休息所の夜に退屈しているようです。
次回は、スローニンでの聞き込みから分かった事です。




