第34話・2 マーヤの旅立ち(2)
出発したマーヤ達はイガジャ領を南下します。
カカリ村を出る集団は傭兵ギルドに緑の枝葉と言う名のクランとして登録された傭兵たちだ。幌馬車1台と馬車を引く馬は2頭立てで引いている。他に馬に乗ってカー爺たち3人が馬車の前と後ろで護衛に就いている。
馬車の中ではポリィーと御者をしている夫のケンドルさんと息子のマイセル君の一家3人、それにポリィーの妹としてマリィーが居る。
母が船に乗る時に上げた腕輪を緑の枝葉の全員が腕に付けている。個人登録が終わっているので聖樹の文様が緑の枝葉の様な入れ墨に見えるから、クラン”緑の枝葉”の証の入れ墨と言う事にしている。
みんなの部屋は中の部屋を少し改良して、トイレと風呂を別室にして小さいがチョットした作業が出来る机とベッドを入れている。魔道具の湯沸かし器を標準で付けたからお茶ぐらい飲めるようにしている。
ポリィーとケンドルさんの夫婦にはポリィーの腕輪の中を広げて対応した。子供用のベッドと夫婦のダブルベッドを入れられる大きさにしてある。ケンドルさんの腕輪の中は鍛冶や修理が出来て作業道具や消耗品をしまう部屋に成っている。
私としては1才児を一緒に連れて行くので、親子に負担を掛けない様に精一杯頑張った。
ベロシニアを追うためにあまり時間を置けないため、馬車は1台で人も私を入れて6人に絞られた。マイセル君は1才児なのでクランの構成員だけど員数には入れて無い。
カカリ村を出て、オイラートの集落へ向けて移動する。今後の予定は、オイラート集落から尾根に沿って南下すると放牧地になっている高原が在る。その前を南北に流れる川を越え、高原の山裾を南へと進むと王都から南の大公領への街道に出る。
護衛でカー爺たち3人が乗っていたゴーレム馬は、カカリ村を出た後私の神域に入れた。イガジャ領内でなら護衛は必要無いのでみんな馬車に乗っている。
馬車の中は前後の出入り口を帆布でふさいでしまえば、周りの景色が全然見えなくなる。私を覗いて皆部屋の中に引っ込んでいる、中は揺れる事も無く快適だから馬車の中は空っぽだ。
ケンドルさんが座っている御者席は魔道具の矢除けの結界でカバーしているから矢が襲ってきても大丈夫だし寒さ除けにもなる。
私自身は母を探す使命感やそれにつき合わせてしまった皆への焦りはあるけど。彼の方の知識から、私一人が焦ってても物事は改善しない事などを知っているので、母を信じて大丈夫だと思う事にしている。
私が座っている馬車の中は、真ん中に通路が在り、左右に3席づつの椅子席がある。椅子は向きを自由に変えて固定できるように作った。馬車の進行方向右からカー爺、マリィー、アントさんの順番。左はケンドルさん、ポリィー、ダルトさんの順になる。
キャンプ用の道具は馬車の両サイドに仕舞えるようにしているので、中は人が座る場所だけになる。座っていても外が見えないので、私みたいに空間把握で把握できなければ退屈なだけだ。
ゴーレム馬2頭で引く馬車は悪路でも4コルで15ワーク(23㎞/h)も進むし、快適さも維持できている。朝カカリ村を出て昼前にオイラート集落を通り過ぎ、休む事無く道を南下している。
その日の内に川を渡り、日が沈む前に高原の入り口でキャンプした。
その夜、焚火の前で寛ぐ団員に、ポリィーと私が作った食事を配る。焚火の横にカー爺たちが石や枝をアッと言う間に集めて作ってくれた竈に枝を積み上げて火を熾してくれた。
おいしそうな匂いがしてくる器の中身は、竈にかけた鍋で作ったブラウンシチュウだ。
「お疲れ様、アントさん、ダルトさんにケンドルさん」クランの関係に少しでも早く成れるために偽名で呼ぶようにしている。
今日一日交代で馬車を走らせてくれた3人にねぎらいがてら夜の食事を渡す。
「今日は最初の日だから御馳走なんだよ」大きく切った牛の肉が入ったブラウンシチュウとカカリ村から持って来た小麦粉とライ麦が半々のパンだ。男衆にはそれ以外にお酒が付く。
私とポリィーは飲みたいとも思わないけど。カー爺様やアントさんそれにダルトさんとケンドルさんはありがたそうにお酒の入ったカップを受け取っていた。
「やっぱり夜は酒だな、飲んだら早めに寝るよ、しかし夜の警戒をしなくて良いとは楽過ぎるな。」カー爺は、私が張る結界が常識と違うと言いたい様だ。その効果をダンジョンの中でしっかりと感じているからこそ安心して寝れるのだが。
「カー爺さん、楽できるんなら楽な方が良いでしょう。」アントさんはカー爺さん呼びが慣れないのか、言葉が丁寧になっている。
馬車の点検が終わったのか、ケンドルさんが食事に加わる。
「美味な、こりゃ始めっから豪勢だぜ。」
「だろう、ケンドルの奥さんは料理上手だぜ。」
ポリィーを褒めるダルトさんだけど、私も一緒に作ったんだから無視されてはたまらない。
「マリィーだって作ったんだから無視しないでよ」
「わりーな、でも見てたけど材料を切ってただけの様だったが、小麦をバターで炒めてルーを作ったのはポリィーさんだったし、塩加減とか煮込み具合を見てたのもポリィーさんだったぜ。」
「私だって、ワインとかローリエの葉っぱとか入れたんだから」
そこにアントさんが割り込んで来た。
「そう言えば、景気よくワインを入れてたけど、ワインはもう残って無いのか?」
「残ってるわけ無いでしょう、1本丸ごと入れたわ、それにお酒はカップ1杯だけよ」
「そりゃ残念じゃ!」
最後はカー爺が名残惜しそうにお酒が入っていたカップを眺めながら言った。
次回は街道を南下するマーヤ達にある出来事が起きます。




