第33話・1 ラーファ行方知れず(1)
マーヤが神聖同盟を彷徨う切っ掛けとなったラーファ誘拐後の行動です。
ラーファがさらわれた事は、神域にいつまでたっても来ない事から気になって調べたので徐々に分かって来た。
貿易港ウラーシュコまではビチェンパスト国の船でラニ川を下って着いた事まで分かっている。
15日の朝神域で久しぶりの朝食をラーファと二人で取っていたからだ。
その時マーヤは、船の事が知りたくて船の構造や帆の操り方に船員の仕事上の呼び名とか、ラーファに沢山質問して呆れられた。
ラーファからは、地下室がダンジョンに成った事件から始まるダンジョンでの冒険が主な質問だった。
闇魔術師らの暗躍とダンジョンを使った罠。
決戦となったダンジョンコアの部屋でのドラゴンと闇魔術3人との死闘など、ラーファが質問しマーヤが答える形だ。
地下室へ調査に行く話はラーファが船に乗る日の朝にも話しているので、主に細かな部分やその後の話が主だった。
他には、ラーファからはビチェンパスト国の船団の事。知り合った船長や船団を率いる船団長の話をしてくれた。
その後、町の散策に出た後、行方不明となった。
ラーファが夜に神域に来なかった事から、マーヤは何かあったと直ぐに分かった。急いでラーファが最後に神域を出入りした場所に使い魔を出して調べさせた。
使い魔は港近くの広場に出た。そこがラーファが最後に神域を出た場所だ。
マーヤは臭いをたどれる使い魔なら、ウラーシュコの町中でラーファを探す事はたやすいと思っていた。しかし、匂いは歩道の途中で切れていた。
恐らく密閉式の高級馬車にでも乗せられたのだろう。
使い魔ではラーファ以外の匂いはどれを追いかければ良いのか分からず、使い魔での捜査はそこでパタリと止まった。
人に認知もされない使い魔では聞き込みなど出来はしない、残念ながらそれ以上の手がかりを見けられなかった。
マーヤは胸騒ぎが徐々に確信へと変わっていく内、居ても立っても居られなくなり一人暗闇に沈むウラーシュコに降りた。
港近くの広場からマーヤ自信がラーファの探索する事にしたのだ。
急いで匂いが消えた街角の場所へと移動しようとして、広場を出て町中への道に入る直前に襲われた。
どうやらウラーシュコに巣くう破落戸の一団の様だった。夜に一人で彷徨う幼子など格好の獲物だとでも思ったのだろう。
ニヤニヤと笑乍ら細い路地や広場近くの暗闇から出てくると、マーヤを取り囲んだ。周りは人通りの少ない港近くの道でマーヤを取り囲んだのは10人程だった。
「お嬢ちゃん、こんな夜中にどこへいくのかな?」
「お兄さんが案内してやるよ。」
普段のマーヤなら手加減していたかもしれない。思っても居なかった災難にラーファが行方知れずになり焦っていた事で、手間取る煩わしさが加わり爆発した怒りを魔力として彼らにぶつけてしまった。
「ヘボォー!!」「グハッ!」「ゲボッ!?」「ギャァー!!」「・・・!」
純粋な魔力の衝撃波をぶつけられた破落戸らは、10人とも一瞬で飛ばされ、次の瞬間地面や建物へ叩きつけられた。
マーヤは前に立ちふさがった男らが重症を負った事は分かっていた。後遺症が残ったかもしれないと思いながらも、彼らの事はあえて無視する事にして町中へと急いだ。
マーヤにとって今は男らも単なる障害物でしかなかった。立ちふさがればぶち破って通るだけだ。後はどうなろうと知らない。
使い魔がラーファの匂いが消えたと知らせてきた場所までやってきた。
匂いの消えた場所で通りを歩く人に声を掛けようとしても、子供だと分かると無視されたり、押しのけられて「邪魔だ!」と罵倒された。
夜の闇の中では魔女の白いロープは黒く見え、マーヤは怪しげな物売りにでも見えたのかもしれない。結局マーヤの声掛けに取り合ってくれる人は現れず、聞き込みは失敗に終わった。
その日の夜7時(午前0時)に笑い猫の闇隠の中に入ってカカリ村へ帰った。
(ラーファが神域を出た場所にマーヤも出たため、神域の入口が移動した。そのためカカリ村へ帰るにはウラーシュコからカカリ村へ移動する必要が在る byマーヤ)
正式な行方不明の報告は、16日に成って、ビチェンパスト国の船団から連絡がウラーシュコの町に在り、ラーファが船に帰って居ない事で騒然となった。その後の町の警備隊の調べで、怪しい誘拐事件が在った事が判明。貴族の馬車がかかわっている事が疑われた。
ただし警備隊の報告は、事件が在ってから3日が過ぎた17日の時点での報告だった。
カカリ村へは、9月20日の昼過ぎに知らせが入り、マーヤへその日の夕食後に知らされた。
淡々とラーファが行方不明に成った事と、捜査の中から浮かび上がった事柄を言うサンクレイドル男爵様。
マーヤが知らなかったのは、ラーファが乗せられたと思われる貴族の馬車が南へ行ったと門番の話から分かっただけだ。
マーヤはラーファを探してすでに動いていた。だからウラーシュコの警備隊からの報告を聞く前から行方不明に貴族が関係している事やそれがベロシニアだと言う事は知っていた。
マーヤ自身は、事件の在った9月15日には事件を察知している。男爵様が話す知らせは、その事の追認に過ぎない。
既にマーヤは色々と動いていた。
使い魔を召喚して、怪しいと思える場所へ調べに遣っている。使い魔の移動速度だと最も遠いロマナム国へも往復1刻(2時間、使い魔は最高音速で移動できる)程度だ。
ベロシニア子爵、ロマナム国、ル・ボネン国、オウミ国の王宮へも行かせたが、オウミ国の王宮は影の守りが居て入り込めなかった。
成果が在ったのはベロシニアだけだったが、それで十分だ。集中してベロシニアの周辺を探った。
調べた中から浮かび上がって来たのは、ベロシニアの家にはベロシニアは居ない事、あわてて出て行ったようだと言う事が分かった。
部屋に処分されずに残った手紙や書類から、彼はラーファとマーヤの情報を王家の中枢から手に入れ、ル・ボネン国へ売っていた事も分かった。
ベロシニアが情報をル・ボネン国に流し始めたのは、ラーファの誘拐未遂事件が在ってしばらくしてからだ。
彼の部屋を探し、王宮のガランディスが彼の情報源となっている事。集めた情報をル・ボネン国と闇魔術師のアルデビドへも流していた事。彼から眷属(彼の子孫だそうだ)になる2人の男の闇精霊使いが、情報の対価として彼の元で働いていた。
2人の闇精霊使いのやった事は、カカリ村への潜入、それが失敗に終わるとオズボーン商会長の洗脳と従業員複数の簡易洗脳を実行していた。
この件はイガジャ男爵の手の者かおばば様に阻まれたらしく、2人はル・ボネン国に逃げている。
イガジャ侯爵様もイガジャ男爵様もベロシニアとル・ボネン国の繋がりをうさん臭く思っているとベロシニアがガランディスから知らされている事も分かった。
彼が行方不明だと言う事とラーファの情報が彼に漏れている事から考えて、今回ラーファが行方不明に成った件はベロシニアが行ったと考えて間違いなさそうだ。分からないのは、首輪を何処から手に入れたのかだ。
マーヤはラーファが殺されたとは考えていない。もし殺されたのなら心の繋がりの在るマーヤがわからないはずが無い。更にラーファが神域に入れない事態は首輪をされたに違いないと確信している。
ラーファがマーヤに連絡が出来なくて神域へ入れないなど、首輪の存在を抜きにして考えられ無いからだ。
オウミ国が持っている首輪を確認する必要が有る、マーヤは貿易港ウラーシュコに繋がったままになっているラーファの神域の出入り口から出て、王都へ密かに忍び込んだ。
忍び込むのに使い魔の笑い猫を使えば、移動する時間はかかるが、確実に誰にも知られずに入り込める。場所さえ分かれば、一瞬で判別がつくだろう。
宝物庫、首輪の保管場所だ。オウミ国のなかでも特に厳重に守られた場所だが、位置は良く知られている。
周りは王宮に沿ってある広場の中央で塔の最上階にある。遠くからでも良く見える目立つ場所で、厳重な見張りと魔道具が仕掛けられている王国で最も重要な保管庫だ。
しかしマーヤにとっては、使い魔で移動する距離が長いか短いかの違い位しか無い。目的は、首輪の確認だ。塔の上空から侵入し、宝物庫の中へ入る。そこに保管されている首輪を空間把握で直ぐに見つけた。
『思った通りだった! 首輪は見た目だけ似せた偽物だ!!』
マーヤはその首輪を見ながら、裏切り者のガランディスとベロシニア、そして今回手助けしたに違いないエルゲネス国の闇魔術師らへの怒りに、体全体が震えるほどの憤りを覚えた。
オウミ国の首輪がラーファに使われたのは間違いない!!
一人残っているガランディスはラーファの行方を知らないだろう。彼は王の約束したイスラーファの情報を知らせると言う、5年前のロマナム国との停戦の際にロマナム、ル・ボネン、オウミの3国で結ばれた秘密の約定を履行していたにすぎない。
正式にロマナム国との約定が終わったのは、戦争が再開された去年の6月だけどル・ボネン国とは続いていた。
それもル・ボネン国が約定を破りラーファをとらえようとした、今年の6月の時点で約定は破綻していたはずだ。
その後もマーヤとラーファの情報を流し続けていたのは裏切りに等しいと思っている。
マーヤはオウミ国の裏切りを強く険悪しました、マーヤが旅立ち二度とオウミ国へ帰らなかったのはオウミの裏切りが在ったからです。それに反してカカリ村を愛してやまない故郷として、その後も密かに手助けをしています。エルゲネス国と神聖同盟の国々は敵として認識しているので、オウミ以上に憎まれているのは仕方が無いでしょう。
次回は、マーヤの決意と男爵様への願い事です。




