第27話 ドラゴン
神話に成るのか? 英雄物語になるのか? ドラゴン退治!
ポリィーの土槍9本はドラゴンに手痛い傷を負わせた。左の前足の付け根を中心に土槍が深く刺さっている。
前の攻撃で土槍が急所に刺さったのか右前足はあまり動かせない様だ。
ドラゴンが左前足を床に着いた。カークレイ爺様が右から体の奥へと剣を深く体毎ぶつかる様に刺し込んだ。
「ギァッグゥゴァーーアッ」
ドラゴンが首を曲げて、カークレイ爺様を噛みつこうとする。アントニー様が左側から首に切りつけた。ダルトシュ様が倒れたドラゴンの上に飛び乗り、尻尾を根元から切り離そうと剣を斧のように何度も切りつけている。既に背に乗られていても、気が付かないのか振り落とそうとする動作も無い。
マーヤとポリィーでカークレイ爺様たちの邪魔をしない様に、頭やお腹に土槍を撃って行く。ドラゴンの動きが弱くなってくると、カークレイ爺様とアントニー様が左右からドラゴンの首に切り付けて行く。
ドラゴンの首が落ち、尻尾が落ち、ドラゴンは動かなくなった。
静寂が部屋の中に広がる。
ドラゴンの体全体が光り、魔力と成ってダンジョンコアに吸い込まれた。ドラゴンをやっつけた?
「うぉぉぉーーっ」
最初に雄たけびを上げたのは、カークレイ爺様だ。アントニー様とダルトシュ様は心底疲れたとばかりに剣を下ろし、顔だけ討伐が本当なのか戸惑いの顔をしている。
でもだんだん倒したのが本当なのを実感すると、「「うぉぉぉーー!!!」」と雄たけびを上げた。
勿論マーヤもポリィーも抱き合って喜びを表した。
「やったー、終わったのね!」、「ドラゴンスレイヤーよ!!」
「私達、ドラゴンスレイヤーなのよ!」
確かに人族の中で、ドラゴンが住む地下55階より下へたどり着いた猛者は少ない、いや居ない。恐らくドラゴンと遭遇した事も無いだろう。神話に描かれる英雄物語並みの快挙だ。
でもマーヤは、ドラゴンもダンジョンコアも闇魔術師らに使嗾された、哀れな魔物としか感じられない。
ダンジョンコアを見る。ドラゴンの魔力が戻っても、酷使されたダンジョンコアはひび割れ、今にも割れ落ちそうだ。
ドラゴンの居た場所を見る。ドラゴンの残した物は死ぬ前に切り落とした首と尻尾以外は魔石と爪やドラゴンの皮だけだった。ドラゴンの皮には鱗が付いているけど、此のドラゴンの鱗はあまり強くなさそうだ。土槍で穴がぼこぼこ開いたし、剣で前足の指を切り飛ばしたり出来た。
ドラゴンの魔石を拾う、上級の3級だった。
闇魔術師にダンジョン作成をコントロールされ、魔物のポップや構造を無理やり変えるなど、酷使されたダンジョンコアが生み出せた、全力が3級のドラゴンだったのだろう。
とは言え、ドラゴンはドラゴン。決して卑下するような存在では無い。地下室探検隊を改名した、ダンジョン探検隊隊員5名はドラゴン退治を成功させたのだ。
ひどい目に遭ったが、今心は落ち着いている。光結界・闇の否定”は既に消した。ダンジョンコアの部屋を出て今は通路にポリィーと私の二人で立っている。
ドラゴン討伐後、部屋で休んでいる時に、カークレイ爺様にお願いして、あることを確かめる事にした。
私のミスでポリィーが魔力暴走一歩手前まで行ってしまい、慌てて応急処置でポリィーの魔力受容体を増やした事。後遺症が心配で、何度かポリィーに触って調べてみたけど、今の所能力の向上以外の変化は見られない。
ポリィーの能力の向上は主に魔力が大きく上がって、自然治癒力が向上しているのが分かった。その事はドラゴンへの攻撃が有効だったことから分かるけど、体への負担がどのくらいか実際に魔術を行使させて調べたい。
そこでどのくらいの魔力を使うと体に負荷がかかるのか調べるのが、カークレイ爺様に頼んだことなのです。
調べる相手は、コアの部屋のボスを退治したけど、まだ通路の先には魔物が残っています。この魔物を倒す事でポリィーの魔術の行使時、体への負担を調べようと言うのです。
通路の前後に張ってある聖光を消す。通路の魔物が結界を消すと、襲って来たが待ち構えているポリィーが全て返り討ちにしていく。
ポリィーの無詠唱で行使される土槍がつるべ打ちで行使されて行く。ポリィーの前では、この階の魔物は狩の獲物だった。
マーヤは常時ポリィーの腰に手を当てて、ポリィーが魔術の行使をしている時の体の様子を観察している。体内の魔力受容体は生成と消滅を繰り返しているけど、その総量は変わらない。増えた魔力も体になじんでいるようで自然治癒力に回復の魔術がプラスされた状態を維持している。
恐らくマーヤが回復の祈りを込めて魔力受容体を増やした事で付与されたようだ。ポリィーは樹人並みとは行かなくても、受容体の量からして500年ぐらいは寿命が長くなりそうだ。
カークレイ爺様やアントニー様にダルトシュ様はその間、後ろで見守ってくれていた。マーヤから3人に頼んだのだ、「見守っててください」と。
魔物を全て倒し終わってもポリィーの体調に変化が無い、魔力過多の後遺症の心配は今の所無い様だ。
魔石とドロップ品は7級から10級まで出たが蜘蛛の魔物が落とす魔糸が目を引いた。全て拾い集め、念の為聖光を門の前に張ってある。
襲って来る魔物もいない、闇魔術師らも逃げた。と言う事でテントを出して休憩する事にした。勝利の祝杯とはいかないが、勝利のお茶パーティーをしながら、今後の事を話し合う。
テントを出し、身だしなみを整え、今度はマーヤもシャワーを使った。カークレイ爺様たちも一息いれた。今は、部屋の椅子に座り、テーブルの上のクコ茶とクッキーでお茶パーティーの最中だ。
「地下4階への階段が消えた以上、別の脱出手段が必要だ。」
ダルトシュ様が深刻な表情で問いかける。
「脱出は考えてあるよ」
マーヤがそこにドアでも在って開ければ家の中だとでも言う様に、何でもない様に言った。
カークレイ爺様がマーヤに聞いてきた。
「どうやってこのダンジョンから抜け出すのだ?」
「3人の闇魔術師らが脱出した方法を使うの」
「でもダンジョンの中では闇隠は使えないよ」
ポリィーが出そうとして出せなかったのだろう、実感がこもった否定をした。
「ダンジョンの中では闇隠が使えないのは、ダンジョンが先に使っているからなの」
「外から持って来る分には問題無いわ」
「今なら闇隠に住む使い魔を召喚できるから」
そう言って、笑い猫(迷宮茶縞猫)8級を召喚した。この笑い猫は闇隠が住処で常にその中に居る。召喚しても闇隠から顔を出すだけだ。
これで脱出の用意が整った、いよいよ脱出へ向けて行動だ。ドラゴンと魔物のドロップ品もテントの中へ入れた。
ダンジョンコアは訳が有ってまだ取り出していない。用意が出来てから取り出すつもり。
みんなのいるテントごと、笑い猫の闇隠に入れもらう。マーヤもダンジョンコアを外したら、闇隠に入るつもりだ。笑い猫は闇隠ごと移動できるので、移動に問題はない。
もう一度確認して、ダンジョンコアを壁から短剣で抉り取る。
「ビィィィーーーェェェーーー」
ダンジョン中に響く音、これがダンジョンの悲鳴だろう。ダンジョン全体が揺れ出した、思った通りだ、ダンジョンが崩壊し始めた。外したダンジョンコアを持って闇隠の中に入る。
笑い猫に移動するように指示した、行先は、ダンジョンの入り口のあったあの地下室だ。
次回は、ダンジョン崩壊の説明とマーヤの反省です。




