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小さなエルフの子 マーヤ  作者: 迷子のハッチ
第1章 イタロ・カカリ村
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第24話 神の恩寵型ダンジョン

 ダンジョンの罠は大きな口を開けて待ち構える。

 マーヤはダンジョンコアが在るだろう部屋のドアと見つめていた。ドアと言うより両開きの扉で、内側に開くのだろう。

 これで引き戸とかじゃあないよね?


 「カー爺様? ダンジョンは、最も守られているはずのダンジョンコアの部屋に私達を誘い込んでどうする積りでしょう?」

 「分からんが、ダンジョンを操る奴が居るのかもしれん。」


 ここまであからさまな罠は誰かの意図が有ったとしか考えられません。問題はそれがだれか? だと思います。

 ダルトシュ様には意図的な罠が人為的だとは思えなかったのか聞いてきます。


 「ご隠居様、それでは私達を何者かが此処へ誘い込んだ、と言うのですか?」

 「分からん、ダンジョンを操る様な存在が居るのかも含めてな。」


 ここでこの神の恩寵型ダンジョンについてマーヤの知っている事を話す事にします。


 「エルフの年長者なら、ダンジョンを操る事だってできます」


 皆がぎょっとしてマーヤを見ました。マーヤはラーファから聞いている神の恩寵型ダンジョンの成り立ちを説明する事にした。


 「私が母から聞いた話です」

 「今から1万年前、聖樹島のエルフで森ダンジョンを研究する人たちが、地下の魔脈の先端に魅力の大きな物を作用させて、新しく森ダンジョンを作る事に成功したそうです」


 「なに! ダンジョンを作るじゃとぉ!」


 カークレイ爺様が驚いて声を上げた。アントニー様もダルトシュ様もポリィーまで口を開けたまま固まっている。


 「はい、ダンジョンは魔脈と魅力の大きな物が在れば作れます」

 「これは、自然に作られた森ダンジョンも同じ過程をへて出来た物だからです」


 森ダンジョンは魔脈の先端に魔結晶となった魅力の大きなコアが出来、それが成長して共鳴している聖樹の性質を受け継ぎ誕生した物です。エルフの研究者らはその事を突き止め応用したのです。


 「そして作られたのが、最も小さな森ダンジョン、黒の森ダンジョンです」

 「あれで小さいのか?」


 黒の森ダンジョンを知ってるのか、アントニー様が呟いています。最初は小さかったけど、だんだん大きくなって今の規模まで成長したそうです。


 「彼女達は次に聖樹の物質供給システムをまねた管理型ダンジョンを作ろうと動きました」

 「最初に創った神の恩寵型ダンジョンは今は存在しませんが、エルゲネス国に創ったと聞いています」


 ほんとに不思議です。お互いに憎しみ合っている男女が一つの目標に向かって協力したのです。それ程管理できるダンジョンは魅力的だったのでしょう。


 「男女で戦争に成りかけた程、仲の悪いエルフの男女がどうやってダンジョンを作る事で協力出来たのか、わかりません」

 「でも仲の悪さを克服して、エルゲネス国に最初の神の恩寵型ダンジョンが出来ました」


 エルゲネス国にはダンジョンが有るとは聞いていませんが、私的で極小規模な神の恩寵型ダンジョンが幾つもあるのかもしれません。


 「魅力が比較的小さいとダンジョンの大きさも小さくなるらしく、逆に管理しやすいそうです」

 「エルゲネス国に創った神の恩寵型ダンジョンは地下5階までの小さな物だったそうです」


 さすがにラーファも神の恩寵型ダンジョンの作り方までは知りませんでした。これから話す部分はマーヤの推測も入っています。


 「神の恩寵型ダンジョンを作るには、聖樹のシステムを取り入れるため、聖樹の一部、枝や葉が使われています」

 「女エルフ達は、使用するコアに森ダンジョンが範囲を広げるための子ダンジョンを作る時出来る”ダンジョンコアの成かけ”と呼ばれる魅力の大きな物を使いました」

 「作り方やコントロールの方法は詳しく知りませんが、推理は出来ます」

 「闇魔術の闇隠ダークハイドで使い魔に誘導させて魔脈へ近づく方法が考えられます」


 闇隠ダークハイドはインベントリと同じ原理で、人が入れる大きさの空間を作り、使い魔などに押させて移動できる。大魔女のおばば様がマーヤの前に、不意に出て来て拳固する時に使う、あれです。


 「魔脈に”ダンジョンコアの成かけ”を使い魔に取り付けさせ聖樹の一部を魔道具にして一緒に取り付けます」

 「”ダンジョンコアの成かけ”が魔脈と繋がり成長が始まれば、魔道具を通して錬金術の制御コントロールで成長を誘導できると思います」


 「母の話では、神の恩寵型ダンジョンは、聖樹の訓練場を真似しているのだと言う事です」

 「構造も魔物が沸くのも、魔石を落とすのも似ているそうです」


 「それは! 神とはエルフの事か?」


 呟いた、アントニー様が信じられないと言った顔でマーヤを見ています。そういえば、多神教のこの地域ではダンジョンにも神様が居るのでした。


 「最初に”神の恩寵型ダンジョン”と言い出したのは人族らしいのでエルフは知らないでしょう」


 アントニー様が大きく首を振って顔を顰めています、そうじゃ無いと言いたいのかな? 分からないので話を続けます。


 「大陸の西に神の恩寵型ダンジョンが多いのは、それだけ闇の森ダンジョンが多くの”ダンジョンコアの成かけ”を作るからだと思います」


 やはり、聖樹の側は魔脈が活動的ですから。聖樹島にある氷雪の森ダンジョンは闇の森ダンジョンに次ぐ大きさだとラーファが言っていました。でも神の恩寵型ダンジョンは一つも在りません。エルフは聖樹島に更にダンジョンを作る事を忌避したのでしょう。

 それとも何か企む事が在って聖樹島に神の恩寵型ダンジョンを作らなかったのかもしれません。


 「エルフのダンジョン派と呼ばれるようになった集団はダンジョンを育てて、そのダンジョンコアを手に入れる事を繰り返し、より大きなダンジョンコアを手に入れようとしたらしいです」


 「闇魔術師の最高レベルのエルフなら途中の階層をパスして、直接ダンジョンコアの部屋へ行けるのかもしれません」


 闇隠ダークハイドを長時間続けるには魔力が大きく無ければ、途中で魔力切れしてしまいます。もう一度闇隠ダークハイドを使うのは無理です。ダンジョンの中では次元の折りたたまれた空間を新しく開く事は出来ません。

 外から持ち込む分には問題ないけど、中ではダンジョンその物が空間を使っているため新しく開く空間が無いのです。


 ダルトシュ様が青い顔でうなだれて、顔を覆ています。


 「まった! もうやめてくれ! 神の恩寵型ダンジョンがエルフの、その 何だったかダンジョン派だったか、そいつらに作られたのは分かった。」

 「分かったから、もうそれ以上は頭に入らん。」


 ダルトシュ様が頭を抱えて、蹲ってしまいました。そんなに衝撃的な事だったでしょうか?


 「マーヤ、それはイスラーファ様から聞いた話なんだな?」


 カークレイ爺様が深刻な顔をしてマーヤに聞きます。もうカークレイ爺様は名前を隠す気が全然ないようです。


 「はい、母が教えてくれました」


 そこまで聞くとカークレイ爺様はマーヤ以外の皆に向かって強い口調で言いました。


 「みんな良っく聞いてくれ、今聞いた話は外部へ話す事を禁ずる。」

 「儂から、サンクレイドルとイガジャ侯爵へ話すから、今は近々に迫ったこの危機に立ち向かわねばならん。」


 そうでした、ダンジョンコアの部屋へ誰かに誘導されて来ているのでした。


 「状況から考えて、この部屋の向こうにはエルフの闇魔術師が待ち構えていると言う事じゃ。」

 「ダンジョンコアの前にはコアを守るダンジョンボスが居ると聞いています。」


 アントニー様が気持ちを切り替えたのか、やけくそなのか元気に教えてくれます。空間把握が閉じた扉の向こうに、1匹のドラゴンと3人の男を把握した。

 ドラゴンがポップするまで、無人だったのでドラゴンのポップを待って居たのでしょう。いよいよ準備が整ったので、闇魔術師も姿を現したようです。


 「カー爺様、中にドラゴン1匹と男3人がいます!」

 「なんじゃとう! ドラゴン!」


 マーヤの報告に、一瞬考えた後、カークレイ爺様が指示します。


 「マーヤ、魔女殿、男3人の方を頼む!」

 「儂らは、ドラゴンじゃ!!」


 ダンジョンコアの部屋の扉が開き始めた。


 次回、決戦。

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