第11話 異常事態(4)
マーヤはいよいよ避難所の探検を始めます。
アントニー様を先頭に坂を下へと降りて行く。
マーヤとポリィーはチョコチョコと斜めに歩いて、それでも滑りそうになりながらついて行く。
「ゴォゴォゴォゴォー、ゴゴゴゴゴゴゴォー」音が一段と響いて少し大きく聞こえる。
下へのスロープは螺旋に成っていて意外と深かった。
10ヒロ(15m)は垂直に下がったと感じる頃、やっと下に付いた。
村人の避難場所の地下1階は高さ2ヒロ(3m)、広さは柱が沢山あるので分からないが結構広い。
「ここに村人が千人収容出来たそうじゃ、地図じゃと柱の大きさは直径が3ヒロ(4.5m)在るそうじゃよ。」
「こんな地下で生活するって大変だったと思うけど、灯りとか空気の入れ替えや水ってどうしてたの?」
「幸いカカリ村は昔から魔女が多く出る村での、魔女の使う土水風火の魔術で賄ったと聞いとる。」
「女の人の魔力だけしか使わなかったの? 男の人も魔力を使えばいいのに」
「ははは、痛い所を突かれたの、今もそうじゃが男の方がどうも魔力が少なくての、シノビの術で使う分ぐらいしか無いんじゃ。」
「女の人が地下での生活を支えて、男の人がシノビの術で戦ってたのね」
「まぁ、逆の場所で活躍した者もおるがの、おおむねその通りじゃ。」
「イスラーファ様から教えて貰った魔石への魔力充填のやり方で昔の3倍は魔力持ちが増えたから、今なら余裕じゃよ。」
カークレイ爺様の話だと、今魔女が10名と魔女見習いが50名ぐらいいるから、5から10倍増えた事は秘密なのだろうか?
男の人のシノビ術の人数を入れての話かもしれないけど怪しい。
怪しいなぁと思いながらカークレイ爺様を見るが、顔色一つ変えない
さすがの領主経験者だと思う。
あ、でも、おばば様が言う上っ面しか見て無いってこの事でも言えるのかも反省しなくっちゃ。
地下室の空間を支える柱の上部は天井へ末広がりに広がり、アーチが沢山見える。
右と左の壁は離れているのか暗視でかろうじて見える。
正面の先は光球を前方へやって見たが、暗視が在っても見通せない。
この空間の中で不気味な音は反響して何処から聞こえてくるのか分からない。
しかし、マーヤには空間把握が在る。
空間に満ちる振動の波が更に下の階から響いていると直ぐに分かった。
「カー爺様、音がさらに下から聞こえるのか先に確かめましょう、下への出入り口は何処ですか?」
とカークレイ爺様に聞けば、地図を持っているので直ぐに教えてくれる。
「此の広間は長方形の型をしておる、地下2階への出入り口は壁沿いに何ヶ所も階段があるが、一番大きく長い坂は正面の先じゃな。」
「地上は村人の避難口に繋がっとるし、下は地下2階へ行ける。」
「第1城塞の広場に在る集会所が入り口へ繋がっとるんじゃ。」
「イガジャ邸の在る本丸の前に、第一城塞の大きな広場があるじゃろ、その下が此処に成るんじゃ。」
「集会所は魔女の城塞の反対側に在る」
「領兵の詰所にある螺旋の坂と同じ作りじゃ。」
次の下へ行く坂の在る場所まで行くと、音が聞こえてくるのは坂の左手、下からだった。
右手側は通路でその先が上への坂になっている様だ。
ほとんど真っ直ぐに来たので此の避難場所が広い事は分かったけど石で作られた柱と柱の間の洞窟の様な空間しか無かった。
カークレイ爺様は長方形と言われたけど、正方形に近い長方形の様だ。
それに少し此方の坂が在る方が下に在る様に感じる。
カカリ村の形はイガジャ邸を山頂とした尾根を元に作られた山城だ。
それから推測すると、この坂は大手門を通った広場の下に作られているのが納得できた。
音が下から聞こえる以上坂を下りて行くしかない。
マーヤ達は隊列を整えて坂道を下りて行く、此処は領兵詰所の坂より勾配が緩いので歩きやすい。
降りて行く途中からひんやりとした湿気を少し感じた。
湿気はどこかに水が在るのかもしれない、乾燥していた上の階と違って少し湿気を感じる程度だ。
地下2階は左右の小さな小部屋が中央の通路となる洞窟で繋がった作りの様だ。
「此処は、上の階で暮らす村人への食事を作ったり、トイレや風呂が在るんじゃ」
「こんな地下でどうやったら煮炊き以外に水を大量に使用するトイレや風呂に洗濯が賄えたのか分からんが、先ほど言ったように魔女が魔術を使って賄っていたんじゃ。」
マーヤが想像するのに、トイレも風呂も洗濯も大して水を使わなかったと思う。
トイレは土魔術や錬金術に分解が在るし、お風呂は蒸し風呂だと思う、洗濯は少量の水と土の魔術で汚れを落とす分解洗浄が使える。
地下2階は上の階が住む場所とすると、共同生活を行う地域毎の場所が幾つも連なる間を物資補給道路の洞窟が通っている。
今は乾燥しているが、昔の名残か湿気を感じる。
地下3階はこの炊事などの場所から個別に階段で下がる先に在るそうだ。
小部屋が在るそうだが、小部屋同士は繋がっていないとの事。
坂を下りた場所で音の聞こえる方を探ってみる。
ここから音の発生源は近い。
空間把握では音の発生源は地下3階に在る、そこの空間が揺れ動いて安定していない。
どうやら、不安定な空間が部屋の壁を揺れ動かす事で音の発生源になっている。
マーヤ達が近づいたからなのか、たまたまその時だったのか。
音が唐突に消えた。
いきなり音が消えると、しばらくは音が続いている様に感じてしまう。
だが、マーヤの空間把握では、揺れ動いていた空間が固定され、地下に響いていた音が無くなったのが分かる。
「おや、音が止んだ?」、「いや聞こえるけど、遠い?」、「聞こえているようで聞こえない。」
みんなも気が付いた様だ。
耳に残響が残っているのか、聞こえている様に思ってしまうのだろう。
いち早く異変に気が付いたのはマーヤだった。
「カー爺様、其処のかまどが在る小部屋の下へ降りる階段から急に魔力が湧いてきた」
マーヤが魔力を感じてカークレイ爺様に報告する。
「なんだと、魔力とは音が止んだ事と関係するのか?」
「良し、行って見よう。」
カークレイ爺様は決断が速い。
厨房跡とみられる小部屋へ入ると、下への階段が壁に開いている。
アントニー様を先頭に注意深く階段を下りて行く。
後ろに続くマーヤ達も少し間隔を開けて何時でも何が在っても対応する積りで降りて行った。
下は食料などの倉庫だったのか、5人がゆっくり立てる程の広さが在る。
全員その部屋に降りたが、目は壁にくぎ付けだった。
階段の反対側の壁が洞窟への入り口に成って居る。
その洞窟は壁が光を発して暗視を掛けた状態では眩しいぐらいに光り輝いている。
灯りの魔術を更に弱めると下へ降りる階段が見えて来た。
「「「ダンジョン!」?」じゃ。」、「何これ」、「何かしら」
男と女で反応が分れてしまった。
「間違いないじゃろう、こいつは神の恩寵型ダンジョンで間違いなかろう。」
カークレイ爺様も興奮したのか、間違いないと2回も言ってる。
「魔女っ子、この洞窟から魔力が出ておるのじゃな?」
「はい、カー爺様、此処が魔力の発生場所です」
「音が止んで、ダンジョンが在る、音はダンジョンが出来るまでの音じゃったと言う事か。」
「傲慢な男らと意固地な女」が始まりましたので、「小さなエルフの子 マーヤ」の進捗を合わせるために、投稿を不定期にします。と言っても週に1,2回投稿する予定です。
次回、ダンジョン探索です。




