第61話・4 会議前(4)
宿の支配人から呼び出しを受けた。
サロメとか言う貴族の女性と争いになったが、魔女薬を言い値で売る話で争いを納める事ができた。
カー爺たちの部屋で先ほどの事を話し合っていると、宿の従業員が部屋へ来た。
宿の支配人と言う人がカー爺に争った件について話がしたい、と言う事らしい。
私は支配人と話すカー爺に付いて行く事にした。
宿の従業員に案内されて廊下をカー爺と歩いて行きながら頭の中では、ロビーのドアや絨毯は少しは汚れたかもしれないとか壊したり、破れたりはしてなかったはずだとか、弁償しろと言われるのかな? などととりとめの無い事を考えていた。
貴族と争っていた時は、色んなことが次々に起こり、それに対処するだけで精一杯だった。
後の事を悩むより、その時の私は殺し合いに成りかけた事態に周りの事など考える暇など無かった。
だから弁償とかになったら、貴族へ売った金貨5枚で収まってくれたら助かる、などと思っていた。
だけどカー爺は私の不安を他所に機嫌よく歩いていて、何を思っているのか窺い知る事ができません。
支配人の部屋に入り、お互いに挨拶をした。
「私が当宿リバティーの支配人をしていますドゥ・リットルと申します。」
恰幅の良い、服装も商人でも成功した裕福な人が着るシャツやズボンに無地ながら艶のある生地の胴までのベストを着ていた。
「そうですか、儂はクラン”緑の枝葉”のリーダーをしているカーと申す。」
「そしてこちらは当事者のマリィーじゃ。」
「マリィーです」
お互いに軽く礼を交わし、「お座りください。」と言うので、応接室の低いテーブル越しに対面して座った。
「お呼び立てしたのは、先ほどの騒動についてお詫びと其の後の事をお伝えするためです。」
「騒動になった時、直ぐに止めるため行動出来なかった事をお詫びします。」
謝ろうと思っていたのに、向こうからお詫びされてしまった。
「分かった、騒動になる前に止めに入らなかったのは、相手が貴族故と言う事か?」
「いいえ、受付に居た者が出て行こうとした時、玄関に居た別の貴族のお方に止められたのです。」
「なるほど! その貴族が何故止めたか分かるか?」
「実は、お呼び立てした本当の理由は、マリィー様がお売りになった魔女のポーションについてでございます。」
「止めた貴族のお方からその後問い合わせがありまして、その件でご相談したいと思った次第なのです。」
「ふうむ ・・・」カー爺が考え込んでしまった。
その貴族は何か考えがあって、仲裁に入ろうとした受付の人を止めたのだろうか?
「魔女のポーションだ!」と護衛の人が大声で叫んだから、かもしれません。
初級回復薬は一箱がオースでは金貨10枚で売られている様だけど、金貨5枚で売れとでもいいたいのかな?
わからないなぁ~。
貴族ならお金ぐらい幾らでも在りそうだから、わざわざ傭兵から買いたたこうなどしないだろう。
「その貴族のお方が、魔女のポーションはまだお持ちか、お聞きしたいとの次第でして。」
「ふん! どうせその貴族から持ってるか聞き出せ! とでも言われたのだろう。」
「一つ念を押して置こう。」
「外務大臣ガルーティア殿と面会する件に関係あると言ったらどうする?」
「ええーッ!? お持ちの魔女のポーションと外務大臣様とが関係しているのですか?」
「あるともないとも言えない、その件は話すわけにはいかない。」
「貴族への返事は、国の要職にある人との面会が在るため何も話せない、と伝えて置け。」
「それは魔女のポーションを持っているけど、外務大臣様と話すまで言えないと言う事ですか?」
「はいともいいえとも、言わないと言う事じゃ。」
「反対に聞きたい。」
「何故魔女のポーションに拘る?」
「アリィーともめた貴族も魔女のポーションで矛を収めた。」
「ドゥ・リットル支配人を通して聞いて来たのも、魔女のポーションについてじゃ。」
「魔女のポーションはそんなに手に入りにくいのか?」
カー爺の問いに、待ってましたと話し出した。
「そうなんです、オース商人が手に入れた魔女のポーションは最初一粒が金貨1枚で売り出されました。」
とんでもない高値ですが、それで1箱10粒が金貨10枚したのですね。
「たちまち評判となり、あっという間に売り切れてしまいまして。」
「何せ大ケガでも、病でも一粒飲めば、あっという間に治してしまうのですから。」
「評判が評判を呼び、今ではオークションで1粒金貨10枚以上の値が付きます。」
「ただそれも出品が在ればですけどね。」
実は支配人も私たちが魔女のポーションをまだ持っているのか知りたいのでしょうか?
支配人が興味津々でこちらを窺っていますが、ノーコメントですよ。
しかし、売りに出した値段の10倍になっていました。1箱だと金貨100枚以上です。
話から初級回復薬をオース商人が手に入れたようです。
カカリ村なら初級回復薬が銀貨1枚ですから、売り出した値段は其の100倍です。
恐らく王都で仕入れたと思いますから、1粒銀貨10枚ぐらいだと思います、それでも10倍です。
頭の中にミンストネル国の伯爵領で見た、船積みする袋に入った箱を思い出した。
あれが魔女薬ならそろそろオース市で売りに出される頃合いでは無いでしょうか?
それとも高値が付くのでオークションへ出すのかも?
どちらにしても、その魔女薬が出れば、魔女薬の事は解決するのでは無いかしら。
いえ! あれが魔女薬だとは分からないし、初級回復薬は魔女で無いと作れません。
オウミでも数が少ない初級回復薬を、あれほど大量に仕入れるのは難しいでしょう。
魔女見習いでも作れる、傷や解熱、解毒、風邪などの銅貨で売られている魔女薬かもしれない。
カー爺の言う通り、”何も答えない”が正解なんでしょう。
持ってると答えたら最後、有るだけむしり取られる未来が待っているし、持って無いと答えたら持ってるだろうとシツコク追及して来るのが目に見えています。
ここは外務大臣を利用して思わせぶりなふるまいをするのが正解だと私も思う。
私は魔女薬を大量に供給する事が出来るけど、それはスタンビードへ備えるためです。
カカリ村の人たちに敵対的な、神聖同盟の国に 増してや貴族に売る積りはありません。
私と争った貴族は既に宿を引き払い 国へ帰ったそうです。もしかしたら魔女薬を手に入れるためにオースへ来ていたのでしょうか?
支配人室から帰りながら、私は新たな事案の発生に胸を締め付けるような不安を感じたのです。
次回は、貴族から使いが来ますが、追い返すと捨て台詞を残して帰りました。貴族の報復を恐れるマーヤたちです。




