第61話・3 会議前(3)
貴族との争いで、魔女薬を落とした事から捕まったマーヤは覚悟を決めます。
捕まえられたままだと身体強化(金剛身)だけでは何もできなかった。
ただ魔術を使えばどうとでもなるのだが、これだけ大事になった場所で魔術の行使を行って良いのか考えてしまう。
無詠唱で麻痺を私の腰に回した大男の腕に行使すれば、最弱でも腕の麻痺ぐらいできるだろう。
問題は、今騒動は一応の決着が(私が捕まって)ついて収まっている状態だ。それを私が抜けだせば騒動は再び始まるだろう。
私を捕まえている大男は金剛身を使っている。魔術の行使が分かるかもしれない。
その時魔女だと分かる事を危惧するし、抜け出せても騒動は終わらない事も問題だ。
これだから傲慢で高慢ちきな貴族は大嫌いなんだ。奴らは何処にでも居る、オウミにもミンストレル国にも此処オースネコン国にも居た。
嘆いても何も進まない、今は何が良いか選択の時だ。
カー爺たちがやって来るまで待つ方が良いのか? 抜け出してもう一度戦う方が良いのか?
迷ってしまう。
迷った時点で詰んでいた。考えるより思ったままに行動する方が良かったのだ。
大男が大きな手を首に伸ばして締め落とそうとした。崩れ落ちたのは大男だった。
首に手が伸びて来た時、反射的に麻痺を無詠唱で行使していた。
大男から転がりながら抜け出ると、貴族の一団から距離を取った。
逃げる先は上への階段だ。
「気を付けろ、そ奴はエルフの眷属かもしれん」
「今、魔術を使ったぞ!」
サロメとか言う貴族が護衛たちに、先ほど私のやった事を勝手に解釈して言い出した。
魔術が見破られたのは痛い、それにエルフの眷属じゃあないけどエルフだ。
見当はずれじゃ無い所が惜しいけど、正解でも無い。
問題はそこじゃ無い、私が貴族の言葉に気を取られている間に、階段への道を邪魔できる位置まで護衛の一人が出て来た事だ。
彼を排除するのに魔術を行使して良いのだろうか?
迷っている内に睨み合いに成ってしまった。
これだけ騒ぎになったのだから貴族側も話を聞いてくれるだろうか?
サロメと言う貴族の後ろの方には他にも貴族が護衛に囲まれて此方を見ている。
彼らが、この騒動に関わって来る様子は今の所無い。
サロメが魔術を使うと言ったからか、護衛たちが直ぐに襲って来ることは無くなったが、依然として此方の隙を伺っている。しかも魔術と聞いてからは腰の剣に手を掛けている。
そろそろ手加減の範囲を超えて、殺し合いに成りそうだ。
私はこれから魔術の行使で彼らを排除する事に恐怖した。
その心が言い訳を考え、思わず言葉が出た。
「サロメ様! このままだと殺し合いになってしまいます」
「その前に何とか落とし前を付けられませんか?」
「少しぐらいなら善処しますよ!」
こちらは話し合いを提案したと言い訳できると思ったのだ。貴族が無視して殺し合いになっても!
「ふん! 泣き言を言いよって」
「じゃが、落とし前を付けるとな・・・」
「良し、それではお前の持って居る魔女のポーションを寄越せ」
サロメと言う貴族が思っても居なかったほど早く返事をしてきた。しかも落とし前の条件さえ付けて。
ただ、此方も無条件では降伏と同じだ、相手にも譲歩させなければ!
「寄越せって言っても、タダでは渡せません、幾らかは払ってください」
「ふん、では金貨5枚で買おう」
「・・・ まぁそうですね、それで手を打ちましょう」
先ほど箱を見た男が金貨10枚もすると言ってたし、半分の金貨5枚ならどちらも金貨5枚の得になる。
まぁ向こうは此方が損をしたと思っている様だけど、私が作った薬なので金貨5枚は丸儲けだ。
しかも見た所オース金貨のようだ。これで宿代で両替しなくても延長料金が払える。
倒れている3人の男を挟んで、昇降機側に魔女薬の入った薬の箱を蓋を開けて中が見えるように置き、階段側に金貨5枚を置いて交換した。
金貨を拾った後、階段へゆっくりと移動した。階段の上ではカー爺たちが待っているのは空間把握で分かっていたので、貴族側が襲って来ても何とかしてくれるだろう。
階段を上った踊り場にカー爺が待っていた。
「良く土壇場を凌げたの、しばらく前から見ていたが殺し合いになる前に収めることが出来て安心したぞ。」
「うん 私も向こうの貴族が乗って来てくれてホッとしました」
「ここは未だ人が多い、儂たちの部屋へ行こう。」
そう言って、私を押して階段に待機している皆へと押してくれた。
3階の部屋へ入って、へたり込んでしまった。そう私は彼らを殺す積りだった。
貴族へ提案したのはダメ元で、殺した後の言い訳に言っただけ。あの時貴族の返事が無ければ私は用意していた土槍を行使していただろう。
本当に殺さないで良かった。
今になって思えば、私は簡単に殺す事を選択していた。よく考えれば彼らを殺さずに制圧する方法は幾らでも在った。
使い魔に麻痺を付与して彼らを襲わせても良かったのだ。
それとも神域へ逃げても良かった。彼らは絶対に私を追って来れないのだから。
今考えれば幾つもの方法があったにもかかわらず、身体強化で殴り合うなど最も泥臭い方法しか思いつかなかった。
思えば最初から使い魔を召喚していれば、彼らなんかどうとでもなった。
ポリィーがそっと抱きしめてくれた。そして涙を拭いてくれた。
ハンカチで拭かれて初めて泣いていたのを自覚した。
「マーヤ、ロビーで勇敢に戦ったあなたは、私とマイセルの勇者よ」
「そして理性的だったわ」
「彼らは殺気を隠さなかった、それなのにあなたは相手を殺さなかったのよ」
「殺せる相手を殺さず、話し合いで決着をつけたの、嬉しかったわ」
ポリィーが言う事は一言一言が心に沁み込んだ。
そうか私は相手の殺気に反応してたんだ。あれが殺気なんだと思った。
そしてサロメと言う貴族は私が彼らを殺せることを理解していた。だからこそ、ダメ元で言った事に返事をくれたんだ。
カー爺が嬉しそうに言った。
「あの貴族は勘違いで良い事を言った。」
「エルフの眷属だとな、マリィーと共にいる儂らはイスラーファ様の眷属じゃわい。」
サロメはまた出てくる事でしょう。
次回は、この騒動のその後です、厄介な貴族はまだ残っています。




