第56話 マーヤの決意
ラーファが軛から抜け出した。予想に反して遠い南の国に連れさられていた。
時間にして2刻(4時間)ぐらい神域の家に居た。
神域から確認すると、神域の出口はみんなが居る船室の中だった。
船だから動いているかと思っていたけど、そう言えば夜なので停泊していたのを思い出した。
私は神域へ入った時から今まで母だけしか見なくて他の事は忘れていた。
私が神域に入った場所は船室のドア近くだったが、出て来た時は少しずれて船室の窓際になっていた。
「ただいま~!」少し照れ臭く感じながら皆に帰った事を知らせた。
「「「おかえり!!」」」、「やっと帰ったか!」、「イスラーファ様は如何した?」
皆が口々に話すものだから、何を言われているのか分からない。
「ごめんね、インベントリの中で母に在って来たの」
「思ってた通り首輪を嵌められて、今まで連絡も出来なかったんだって」
「その首輪も先ほど自分で外したそうよ」
私がそう言うと、皆もやっぱりそうだったんだと喚声が上がった。でもすぐに声を押えた。船室とは言え薄い壁で区切られた船室は少し大きな声だと隣の部屋に声が聞こえるのだ。
「マリィーの腕輪の部屋へ皆で行こう。」
カー爺の提案で私の部屋に全員を招き入れた。
私の部屋は皆の食事を作るためカカリ村を出てから改造を何度もしてきた。
今では、ポリィー夫婦の腕輪の部屋より大きくなった。
改造の大半は厨房と保管庫の拡張で、今ではベッドは別の部屋を作って置いてある。
部屋の中央には食材を加工したり、盛り付けをするためのテーブルが置いてある。
幅は1ヒロ(1.5m)ほどの横長で私の胸ぐらいの高さがある。
ケンドルさんに無理を言って作って貰ったから、何枚かの板を並べて1ヒロ(1.5m)の幅にしたので少しデコボコが在る。
皆はそこらに置いてある箱や樽を持ち寄ってテーブルの周りに座って貰った。
ポリィーと私でお茶と摘まめるお菓子を用意してみんなに配った。
皆が好きな場所へ座ると、ポリィーは私の横に座ってそうっと肩を抱いてくれた。
「ここだと話しても誰にも聞こえんから安心じゃ。」
カー爺が何やら良い事を思いついたとばかりに笑顔で言った。
この部屋を集会所にしようと考えている気がする。
「教官が自分で首輪を外したと聞きましたが、さすがです」
ポリィーが母を教官と呼ぶのを久しぶりに聞きました。
母が慕われている事にこそばゆさと嬉しさが混ざって又涙が出そうになりました。
「如何じゃった? ラーファは元気にしてたかの。」カー爺が代表して様子を聞いて来た。
「はい、元気にしてました それどころかプンプン元気に怒っていましたよ」
母が神域でベロシニアと闇魔術師について根掘り葉掘り細かな事まで聞いて来た事を思い出した。
あれは相当頭に来ている様だ。
「一体どこの国がイスラーファ様を攫ったのじゃ?」カー爺の疑問は皆の疑問でもあります。
「キク・カクタン国だそうです」私も母から聞くまで知らない国でした。
皆もポカーンとした顔をしてます。私が名前を出しても誰も心当たりが無い国の様です。
「キク・カクタン国じゃと? う~ん、30年前ぐらいにビンコッタ海戦を引き起こした国じゃと記憶しとるんじゃが、違ったかな?」
私も知らない国なので、カー爺の質問には首をかしげるしかできません。
「マリィー それは何処にある国ですか?」ダルトさんが首をひねりながら聞いてきました。
「中の海に在る国で、中の海の東の奥だそうです」母に聞いた場所を言います。
「なんだかとても遠い国に連れて行かれたんだな。」アントさんは何処の国か思い出すのを放棄したようです。
「なんにせよ、無事で良かっただ。」ケンドルさんの言う通りです。
「イスラーファ様が解放された事は大きな安心じゃ。」
「憂いは無くなったが、マーヤお前は今後どうする積りじゃ?」
カークレイ様が私の真実の名前を出して、今後の事を聞いてきました。
私が今の旅を始めたのは誘拐された母を助けるためです。
その母は自分で抜け出してきました。
旅の理由は無くなったのです。
私は別の目的が出来ましたけど、皆が付き合ってくれるかは別だと思います。
「カークレイ様、アントニー様、ダルトシュ様、ケンドル様、ポリィー先生」
私は立ち上がって、皆に深く礼をして言った。
「改めてお礼を言わせてください」
「母を救う旅に付いて来て下さってありがとうございました」
「母が解放されて旅の目的は達成されました」
「私のために命がけの旅に付き合って頂いて本当に感謝しています」
思えばカカリ村を出て一月近くに成る。盗賊や魔物のスタンビードなど危険な事が目白押しだった。
母から念話が着た瞬間その全ては報われた。
皆に感謝する気持ちと母の無事な姿を改めて思い出し、再び涙が溢れた。
様々な思いが溢れて涙が止まらない私を、ポリィーが優しく抱きしめてくれた。
皆も口々に「おめでとう!」やら「よかったなぁ!!」などと祝ってくれた。
しばらくして私が少し落ち着いた時、カークレイ様が声を掛けて来た。
「イスラーファ様の無事が確かめられた今、マーヤは闇魔術師の事をどうするつもりか教えて欲しい。」
そうでした、母の事は神聖同盟の国とは関係ありませんでしたが、闇魔術師は敵です。
ベロシニアに協力して母を誘拐しただけでなく、スタンビードを引き起こした主犯です。
神域で母から同じ事を聞かれた時に私は既に答えてます。
「カークレイ様、それに皆さま、私は闇魔術師を追いかけます」
「母は無事でしたが、私には母の件とは別に新たな目的が出来ました」
「闇魔術師の暴挙を止めるつもりです」
別に彼らを追いかける必要は無くなりましたが、それを闇魔術師に知られる事は避けた方が良いでしょう。
彼らの目的は私です。
追いかけてくると思って居れば、彼らは常に次に訪れる場所を示すでしょう。
私が追いかけないと知られれば、彼らは逆に私を襲って来るのは間違いないでしょう。
母からダキエには母を苦しめた首輪が後2つ残っていると聞いています。
他にも混乱の腕輪は幾つも在るそうですし、拘束するための魔道具は他にも在りそうです。
闇魔術師がそれらを手に入れ、私を捕まえるために使って来るのは目に見えています。
私は自分のためにも彼らを倒す必要があるのです。
「彼らが集めると言ってたダンジョンコアは私も必要な物ですが、急ぐ必要のない物です」
「彼らが言っていた聖樹を育てる魔道具の事も、母から教えてもらっています」
「材料の魅力の大きな物とは、森ダンジョンに入って魔結晶を探し出せば良いだけの事なのですから」
「他の錬金材料も教えてもらいました」
「彼らを追いかける必要は無くなりましたが、スタンビードを止める必要は在ります」
「それに彼らの目的は私です」
「追いかけなければ、襲って来るでしょう」
「守るより攻める方が、私はやり易いと思います」
「ですから、私は闇魔術師を追いかけ、倒します」
私の宣言に、カークレイ様がにやりと笑った。
「それで儂らにどうして欲しい?」
「これまでと変わらず傭兵クラン”緑の枝葉”は、私と共に闇魔術師の追跡と討伐をお願いします」
「良いじゃろう、我らはこのまま闇魔術師を追いかける。」
「良いな!」
「「ハッ!」」、「はい」、「はい。」、「ありがとうございます」
カー爺の決定に私を含めた皆が頷いた。
母から念話が来たのはそう言った話し合いの時だった。
カークレイ前男爵にとって、神聖同盟の国を探る良い機会だと考えています。
何せ向こうから王族が誼を結ぼうとやって来るのですから。
マーヤの考えはカークレイにとって渡りに船の提案でもあったのです。
勿論マーヤを手助けする事はオウミ国やイガジャ領にとって国益になるのも後押ししていますが、彼個人が手助けしたいと思っている事が大きいでしょう。
次回は、カー爺の助言とラーファの暴走? です。




