天才影守の影物退治
月が輝く空の下、深緑のコートを着た少年が郊外にある古びた神社の前に立っていた。
「ここだな」
彼の名は影森亮。影物と呼ばれる怪物を討伐する影守と呼ばれる忍びであった。
「……そんじゃ、行くとすっかな、」
亮はそう言うと、荒れ果てた境内に入っていった。
「うへぇ、空気が澱んでやがる……」
辺りを見回しながらそう呟く。ふと、月が分厚い雲に隠れ、辺りに霧がたちこめはじめた。
「……霧が出てきたってことは、そろそろだな、」
そう呟くと、低い獣の唸り声が辺りに響き渡り、霧の中から黒く大きな、獅子に似た獣が姿を表した。
「へっ、これまた、でけぇ影物だな。……一体、何人食ってきた?」
亮が勝気な笑みを浮かべながらそう言うと、影物は前脚を高く上げ、勢いよく振り下ろした。
――ビリィッと、布地を裂く音が響く。
しかし、裂かれたのはコートだけで、亮の姿はなかった。
「……ったく、何すんだよッ」
急降下しながらそう言うと同時に、亮の体が黒いモヤのようなものに覆われていった。黒いモヤは徐々に形を成していき、やがて、黒い忍者服に変化した。「あの服、気に入ってたのに、さッ!」
亮は、そう言うと地面を勢いよく蹴って、影物に向かって突っ込んでいった。
グパァ……、と影物の口が開き、口の中から触手が、ゾワワワッと、伸びて亮に襲いかかった。
亮は、
「へっ、当たるかってんだッ」
と、言って触手を軽々と躱していくと、人差し指と中指を立てた手を影物に向かって、
「喰らえッ!影手裏剣ッ」
と、叫びながら勢いよく振り下ろした。立てた指の間から黒い刃のようなものが、ヒュッと、飛び出し、影物の身体を斬り裂いていった。
「……仕上げといくか」
亮は地面を強く蹴り上げて高く跳躍し、空中で身体を捻り、体勢を整えると、懐から一枚の札を取り出して千切った。すると、札は三鈷剣へと姿を変えた。
「……これでトドメだッ!」
そう叫ぶと、亮は虚空を力強く蹴り上げて弾丸のようなスピードで急降下しながら剣を振り下ろし、影物を斬り裂いていった。
影物が、凄まじい断末魔を上げながら消滅したのを確認すると、亮は剣を軽く振った。すると、剣は霧のように掻き消え、千切れた札が地面に落ちた。
「……よっし、任務完了っと、」
そう言いながらへへっと笑うと、忍者服が風に舞う花びらのように、ひらひら、と剥がれていき、元の服装に戻っていった。
亮は、ボロボロになったコートを拾って、そのまま夜闇に消えていった。