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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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メルト

 カムへと事情を説明したアレス達は中庭へと戻ってきた。

 出発前に寝間着から着替えたアリアは制服姿でいつも通り紅の長髪を後ろで縛っている。いつもと違うところがあるとすればその腰に白の鞘に収まる長剣を提げ、スカートの下に二本の短剣を仕込ませていることだろう。

 

「ふわぁ、遅いですね」


 退屈なのか宵闇が欠伸を漏らした。

 

「何かあったんじゃ」

「セイナに限って対処しきれない何かが起きてるとは考えにくい。まぁ、どちらにせよ。そろそろ来るはずさ」


 そのアレスの予測通り一分としないうちにセイナが片手に使徒剣を持って城壁の上から飛び降りてきた。セイナは水をクッション代わりに石畳の上に生成しその上に着地した。

 

「・・・・・・お待たせ」


 いつもと変わらぬ無表情で大胆に登場したセイナは水を消し、使徒剣を消した。

 

「・・・・・・邪魔が入った」

「暗部かい」

「!?当たってる」

「君も気づいていただろ。暗部が関わっていることは」

「・・・・・・うん」


 セイナはラーヴェンへとリーゼロッテが攫われたことを伝えてここに戻るまでに一度、黒装束の人間に襲われた。魔人にこそ成らなかったが得物には毒が塗られており、陰から狙うやり口は暗部のもの、ただセイナ相手にそんな手が通じるわけもなくちょっとした時間潰し程度で切られ、今はどこかで倒れているだろう。

 城壁の上から来たのは思った以上に時間を食ってしまい移動を短縮するためだ。

 

「・・・・・・私にアレスを殺すよう最初に言ってきたのはシェイ」

「シェイ、暗部の長か」


 その答えにセイナは小さく頷いた。

 

「大方、思考を誘導されて、洗脳されていたようなものですか。未熟ですね」

「未熟ってね。セイナはトラウマを負った兄のために・・・・・・・・」


 セイナと一緒に来ていたウンディーネが宵闇に反論しようとしたとき、ふと思い出す。セイナがアレスを殺すことを決意した決め手は兄であるメルトがトラウマにより発狂した時だ。だが、よくよく考えるとタイミングが良すぎる。

 ウンディーネは分体で常にセイナの側にいたため全てを見ているわけではない。

 だが、“神としての勘”が何かあると訴えている。

 

「おかしい」

「何が?」

「おかしいのよ。メルトが発狂したのはシェイがセイナにアレスを自分の手で殺させる決意させようとしていた最中、タイミングが良すぎる。それに、メルトはここ最近発作を起こしてなかった。だからって、誰かがアレスが来ていることを伝えるとは思えない」


 論理的に、皇太子であるメルトは帝国にとって失うわけにはならない存在、そんな存在に対して誰かがトラウマを抉るようなことをするとは考えられない。

 

「利用できる者は全て利用する」


 アレスはメルトと呼ばれた人物のトラウマが自分であることを知るも特に何も思うことはない。そうではなく、帝国暗部の性質を改めて知りとある可能性に気づく。

 宵闇もウンディーネの、神の私見を聞き胸糞が悪いと表情を歪めた。

 

「まずいかもね。一旦予定変更だ」

「これからリーゼの所に行くんでしょ」


 アリアはアレス達が気づいた可能性に気づけていない。

 それも仕方ない。アリアは帝国暗部の残虐性を知らない。

 

「リーゼは安全だ。それよりも、そのメルトの所に行こう」


 それに衝撃を受けたのはセイナだった。

 

「駄目!」


 セイナが珍しく声を張り上げた。これにはウンディーネも驚き固まってしまう。

 

「兄様には、会わないで」


 メルトがアレスと出会ってしまえば戦争のことを思い出してしまい再び発狂してしまう。そんな心労、兄にはかけたくない。

 お願いだからと懇願されるも、そんなことアレスにとっては些事だ。

 

「いや、行くよ」

「でも」

「メルトの部屋を教えてくれ。早くしないと殺されるぞ」

「え・・・・・・・あ」


 一瞬で熱が冷め、冷静な思考を取り戻したセイナはアレスと同じ考えに至る。

 ウンディーネの私見通りなら、帝国暗部なら利用した皇太子を殺すだろう。アレはそれほどまでに残虐で人を道具としか見ていない。シェイと接していてその一端を垣間見ている。シェイの作戦は捨て駒として人を利用するものばかりだった。

 ならば、自分を焚き付けるために使われたメルトがどうなるか、容易に想像できた。

 

「分かった、なら急ぐよ」

「うん・・・・・・」


 不思議な気分だった。

 兄のトラウマの原因であるアレスが、その兄を救おうとしていた。何とも不思議な巡り合わせ、やはりアレスのことを理解できない。だが、その根は温かい人なんだと思った。

 

「ちょっと待って、利用されてるってどういうことよ」


 アリアはそもそもの材料を持っていない。そのため何一つとして理解できていなかった。

 

「行きながら話そう」


 アレス達はセイナの案内でメルトの部屋へと向かう。

 だがその道中、T字となった廊下を走っていると前方から鈍色の線が見える。

 それに反応するのはセイナ

 足を止め、魔法を発動、水弾が生成され発射、目の前から迫る鈍色の線と衝突すると爆ぜる。その衝撃で鈍色の線、もとい針は衝撃により後方へと回転しながら落下する。

 セイナはそのまま何も言わず水弾をさらに四発生成、奥にいるであろう人物へと発射した。

 水弾は真っ直ぐ突き進み、垂直に曲がると死角に隠れているであろう人物達を急襲する。

 だが、手応えはない。

 

「・・・・・・手練れ」


 水弾を躱されるとは思っていなかったが、躱されたのなら仕方がない。

 

「みたいだね。左に三、右に一か」


 敵は逃げていない。ここでアレス達を食い止めるつもりだ。

 

「僕とアリアが前衛、セイナは後衛で僕らの援護を、使徒剣は温存だ」


 使徒剣は永遠に顕現させられるほど便利なものではない。当然力を使うのに魔力を支払うだけでなく、体が使徒剣から得られる力により常に負荷がかけられた状態になってしまう。こんな相手にそんな疲労許されない。

 

「こんなお城の中だと、あんまり効果を発揮できないんだけど、まぁいいわ」


 アリアは白の鞘から紅の長剣を抜いた。

 その紅の長剣は明らかに普通の剣ではない。ほんの僅かに魔力が宿っている。

 背中にぴったりくっついていた宵闇から闇があふれ出ようとするのをアレスが制止

 

「宵闇は待機だ」

「あの程度、私が花弁を舞わせれば殺せます」

「僕の神力も無限じゃない。向こうが何を用意してるか分からない今、消費は最低限だ」

「むぅ、分かりました」


 アレスの体に宿る力の正体が魔力よりも濃密なエネルギーを持つ神力だと分かったが、それでも神力は魔力と同様有限、こちらもまた温存だ。

 

「アリア、身体強化魔法を、二人は任せる」

「分かったわ」

「それじゃあ、押し通らせて貰うよ」


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