炎神フローガ
ルーミュたちの兄であり炎を司る神、炎神フローガ
その存在を知りへぇと対して興味なさそうに頷く三人をよそにアリアはただ一人後悔にうなだれていた。
「秘密だったのに・・・・・・」
「まぁまぁ、アレスもセイナも使徒なんだし、いずれ知るんだから隠さなくてもいいでしょ」
「信仰する神を隠す理由があるのか」
そんな疑問を持ったのは意外にも宵闇だった。
「ランディスはレンシア王国の公爵家、そんな家が国教で信じられている神じゃなくて他の神を信仰してたら大問題でしょ」
政治と宗教が関わってくる話に宵闇は納得した。
確かに公爵家自体が別な神を信じているとなると内側から見ても外側から見ても非常にまずい。ほとんどの国家が一神ないしは二神を信じている。だが、国家内で別々な宗教としてそれぞれの神を信仰する国はレンシア王国しかないのだ。
「お兄ちゃんは結構勝手だからね。私の所に来たのも、物資調達が面倒で戦に集中できるようにするためだからね」
「戦と聞けば分体でわざわざ現れて直で戦いを見ようとするから、あの馬鹿」
それはまた非常に珍しい神だった。炎神がルーミュの領域に来た理由は実に神らしいが、その性質は非常に珍しい。
神は人前にほとんど姿を見せない。小さな奇跡を見せその存在を認識させる。だが、フローガは違う。彼は戦と聞けば分体で人前に姿を現し、その目で戦いを見ようとする変わり者だ。それ故にランディスの者は神を身近に感じてしまう。アリアも例に漏れずランディス、女神を見て驚かなかったのはフローガという神を何度も見ているからだ。
「へぇ、神だね」
「神ですね」
神は人の視点から見れば変わり者が多い。フローガもその神らしい神といえるだろう。
「フローガ様のことより早くリーゼを助けないと」
フローガのことはもういいだろとアリアは話を本題に戻した。
「それもそうだね。セイナ、予定通りここで合流しよう」
「・・・・・・分かった」
セイナはウンディーネと共にラーヴェンへの報告のために帝城の中へと戻っていった。
「僕らはカムさんに報告を」
「そんな悠長なこと言ってて大丈夫なの」
「うん、敵の狙いは僕だ。でなきゃ僕らの前に姿を見せてリーゼを攫ったことを告げる必要はない」
リーゼロッテを攫うのが本当の目的だった場合、アレスに攫ったことを見せつけるなど無味、敵を増やすだけだ。
「それに僕が敵を見つける前に手を出したら人質の意味がなくなるでしょ」
人質として捕らえたリーゼロッテはアレスへの抑止力だ。抑止力がなくなれば待っているのは理不尽な蹂躙だと気づいているからこその人質だ。
「確かにそうかもしれないけど」
それでもまだ親友の安否が心配なのか僅かに疑いを見せるアリアに宵闇は呆れ混じりのため息を吐きはっきりと言う。
「あの小娘を救出しようにも情報が足らない。たった三人の足で情報を集められるわけがないだろ。なら、全部巻き込んで情報収集を始めないと助けに行くことはできない。分かったか」
どちらにせよ敵の拠点が分からない以上、情報収集を行うしかない。ならば、大勢を巻き込んだ方が得策だという考えだった。
「帝都中が夜中に大騒ぎ、こっちの知ったことではないがな」
「そこらへんは大人達に丸投げでしょ」
「アレス、そろそろ自分でどうにか出来るようにしないと」
そんな風にルーミュが心配しているとふとアレスの足が止まった。
「急ぐんでしょ」
「いや、なんでまだルーミュがいるの」
「早く帰れと言ったのだが」
「二人して酷い!」
急いでいるというのに女神と呪刀、少年という変わり者の三人が暢気に茶番を始めた。
「別にいてもいいじゃん」
「駄目でしょ、他の人に姿を見られたらどうするつもりなの」
「ウンディーネだって来てるじゃん」
「あれは帝国の女神でお前は王国の女神、宣戦布告にでも来たと間違えられるのが落ちだ」
「必要になったらまた呼ぶから一旦帰って」
「私はやっぱり都合のいい女なんだ・・・・・・ちら」
顔を抑え悲しむふりをしたルーミュは指の隙間からチラリとアレス達を見やった。
しかし、当然昔のように二人からは以前変わらない冷たい視線を向けられている。
「うん、知ってた。知ってたよ・・・・・・・うぅ、アレスの馬鹿!」
そう叫んでルーミュは光の粒子と成って消えていった。
「やっと帰ってくれましたか」
「そうだね」
「あなたたちすごいわね。あんな風に神をぞんざいに扱う人なんて初めて見たわ」
三人の関係性をよく理解できていないアリアはアレスと宵闇の行動に若干引いている。
「別にいつも通りだけど」
「そうだ。どうせあの女、ケロッとまた出てくるに決まってる」
アレスは首をかしげ、忌々しい女神がと宵闇がほんの僅かに殺意を見せ拳を握りしめる。
なるほどと、アリアはこの三人の関係性がおかしなものだと理解した。
そんな茶番はさておき、アレス達が宿へと辿り着くとカムは自信の部屋におらず、すでにカムが犯人につながる手がかりはないかとリーゼロッテの部屋を調査していた。
「カムさん」
「アレス、それにアリア嬢」
カムは部屋の中に散らばっていた窓ガラスの破片を放すと部屋に入ってきた二人へと向き直る。
「どうしてここへ、いや、今はそれどころでは」
「リーゼが攫われたんですよね」
その直球にカムは悩んでいたのも忘れ目を見開いた。何故それを、そう疑問に思った時二人の姿を見る。アリアはその手に剣を、アレスは呪刀宵闇を闇に紛らわすことなく見せている。それで悟った。
「今リーゼロッテ殿下はどこへ」
「それは分かりません。ただ、命の危険はないでしょう」
「それはまさか犯人の狙いはリーゼロッテ殿下以外」
熾烈な死戦場を何年もくぐり抜けてきたカムはそこまでの説明で大体の状況を読めた。
「はい、敵の狙いは僕です。なので、僕はこれから敵の拠点に向かおうと思います。カムさんは帝国騎士団と合流して雑兵の相手をお願いします」
「雑兵?誘拐犯は一人では・・・・敵はまさか、帝国暗部とでも言うのですか」
「今までの戦闘からみても十中八九そうだといえます」
ダンジョン襲撃の際使用された『魔粉』、ヴェイグ襲撃の際雑兵に持たせていた『ヒュドラ』、そして大聖堂での使用された液状にされた魔粉と同等の力を持つ液体、これら全てを制作できる組織となればこの帝国では一つしかない。
それが帝国暗部
「皇帝はそのような素振り一切、いや独断による襲撃」
それならば今までの襲撃に全て合点がいく。アレスを裏から葬ろうとするそれはまさしく暗部の仕事、帝国暗部が持つ数々の兵器は条約によって禁止されている。それを皇帝自ら破ることなどあり得ない。あの皇帝はそこまで浅はかではない。ならば、暗部の独断による襲撃、これしか考えられなかった。
「そういうことですか。分かりました。私はすぐにラーヴェンのところへこの件の報告を」
「あ、それなら必要ありません。セイナにお願いしたので」
「・・・・・・」
カムが固まり視線だけアリアへと向けた。
また何か面倒ごとに巻き込まれていたのか、しかも皇女が関係するのかと、ありありと伝わってくるアレスへのある種の信頼の視線にアリアは苦笑するほかなかった。
それで納得したカムは呆れ混じりのため息、目を離した自分が悪かったと反省する。
「その件、後ほど報告してください」
「え、必要ですか」
「必要です」
力強く、カムが一歩前へ出て普段穏やかな表情が一変、今は胃が痛いと、軽く顔を青くしてこれ以上の面倒ごとは許さないとばかりに凄まじい迫力でアレスへと迫った。
そんな珍しいカムに記憶の中のリーゼロッテの姿と重なり唯々頷くしかなかった。
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