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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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戦馬鹿

 雲が空を覆い隠し、さらに暗くなった中庭でルーミュが発する淡い光のみが明かりとなる。神を灯火代わりにするとは失礼極まりないが、今は仕方ない。

 

「これからどうするかだけど、僕は一度カムさん、引率の教師に事情を説明してくる。セイナはラーヴェンさんあたりにこのことを伝えて」

「分かった」

「それじゃあ、伝え終わったらここで合流―――」


 そこまで言いかけたとき、城壁の奥から足音が聞こえた。足早な反響音が響く。

 二人は会話を止め警戒、新手に備える。

 道の先まず見えてくるのは薄明かりでも分かりやすく燃えるような紅の長髪、魔力の輝きを宿す紅の瞳

 

「待ちなさい」


 まだ荒っぽい身体強化魔法を発動させながら走ってくる少女はアリアだった。

 アリアはいつもと違って髪を結っておらず無造作に背中にかかる長髪を振り乱し、急いで飛びだしたのか寝間着姿に片手に剣を握っていた。息が上がって肩を上下に揺らす。


「あれは、小娘ですね」


 走ってきたのがアリアだと分かった二人は警戒を解く。


「待ちなさいって言って・・・・・・アレス?」


 アリアは中庭に辿り着き、目の前の奇妙な光景に目を瞬かせる。


「アリア、どうしてここに」

「あ、そうよ!リーゼはどこ!こっちに攫われて!」


 どうやら攫われたリーゼロッテを追いかけてきたらしい。

 慌てているようでアレスの肩をつかみ揺さぶった。


「落ち着け、小娘」


 宵闇は闇を放ちながら主をつかむ少女を睨み付けた。

 その迫力にアリアはハッと我に返り、すぐさま手を離した。


「それで何があった」


 アレスが聞くまでもなく、イラついた宵闇がアリアを睨みながら尋ねる。

 肩をつかんで揺らしただけなのにどうして嫉妬交じりの睨みを受けなければならないのか、だが、宵闇が睨みと共に発する闇を強めたことでそんな疑問消し飛んだ。

 アリアは最初から説明した。

 アリアが眠ろうとしているとき、隣の部屋から窓ガラスの割れる音が聞こえたそうだ。アリアの隣はリーゼロッテの部屋で何かあったのかとアリアは飛び起き剣を取り急いで隣の部屋へと向かうと、リーゼロッテが眠らされた状態で街灯を纏った人物に抱えられていた。

 アリアはすぐさまリーゼロッテを助け出そうと剣を抜こうとしたのだが、その前に謎の人物が窓から外へと出て行ってしまったのだ。これは一大事だとアリアは謎の人物の行方を見失うわけにも行かずカムに報告する前に独断でこうしてここまで謎の人物を追いかけてきたのだ。

 帝城への侵入は正面突破ではなく壁を登ってきたそうだ。


「誘拐犯の足が速くて、見失ったところであなたたちを見つけたの」

「そうだったのか」

「それにしてもどうしてアレスがここに、それに・・・・・・」


 ここにいるのはアレスだけでなく何故かセイナに加え謎の美女二人がいる。しかも片方はとても美しく微妙に光っている。


「ちょっと殺し合ってただけだから気にしないで」

「は⁉殺し合ってたってどういうことよ」


 至極当然の反応、皇女と英雄の殺し合いなどしゃれにならない。


「私が呼び出した」

「なんで」

「殺そうと思ってたから」


 それはそうだ殺し合いをしていたのだから。

 なんとなくセイナの性格を察知したアリアは唯一まともな説明の出来そうな宵闇へと目を向ける。


「別に今はそんなことどうでもいいだろう」


 だが、宵闇には説明する気がなく、モヤモヤした気持ちを抱える事になるがこの話はもう聞かないようにする。

 それよりも気になるのは謎の美女二人、何故か浮いているあげくどこか神々しい。明らかに人間でないと悟ったアリアはこっそりとアレスへ聴く。


「ねぇ、この二人ってどちら様」

「蒼い方がウンディーネ、金色がルーミュ」

「へぇ、ウンディーネにルーミュ・・・・・・ん?」


 アリアは固まった。文字通りの硬直、その名前どこかで聞いたことがある。そう女神たちの名だ。


「え、まさか本物の女神」

「そうだよ」


 嘘でしょと思いつつ思考を整理する。

 目の前の美女たちが女神なのは信じられる。だが、どうしてこんな所にいるのか理解できない。

 しかし、そんな疑問を抱いてすぐアリアの前にルーミュが嫌そうな顔をしているウンディーネの背中を押しながら近づいた。


「初めましてアリア、私はルーミュよろしくね。でこっちが」

「何で“ランディス”に挨拶しなきゃならないのよ」

「えぇ、そのくらいいいじゃん」

「絶対嫌」


 断固拒否と腕を組みながら目をつむりそっぽを向いて子供っぽく拒絶する妹に姉は頬を膨らませた。


「もう、仕方ないな。こっちの機嫌が悪そうなのがウンディーネよろしくね」

「はぁ、こちらこそよろしくお願いします」


 アリアは混乱しながらも頭を下げるだけで最低限の礼儀は見せる。


「・・・・・・驚かないの?」


 そう尋ねたのはセイナだった。


 女神を初めて見た反応にしてはアリアの反応はあまりに淡泊だった。セイナでさえ初めて神を見たときには驚いたというのに、この反応はおかしい。そんな指摘にアリアは自分の態度が客観的に見ておかしいことに気づくとすぐさま誤魔化すように頭を振った。


「ち、違うのよ。驚かなかったわけじゃなくて」

「セイナ、今すぐその蛮族から離れなさい」


 ウンディーネが慌てて二人の間に割って入り、セイナをなんとかアリアから話そうとするも自分が実態を持たずセイナに触れられないことを強く悔やんだ。


「戦馬鹿のところの子に関わるとろくな事なんてない」


 女神の戦馬鹿という言葉にアリアは心臓が跳ねる。


「こら、お兄ちゃんをそんな風に呼んだら駄目でしょ」


 ルーミュが兄と呼んだことで聡いセイナは気づいた。


「ルーミュはあの馬鹿を味方につけたからいいだろうけど、私はあの馬鹿から見たら良い標的よ」

「う~ん、それはないんじゃないかな。お兄ちゃんがまだウンディーネは若すぎてやり合っても楽しくないとか言ってたし」


 ウンディーネがやだやだと首を振っていると嘘偽りのない兄の本音をルーミュがポロリと零してしまった。

 ウンディーネが思い起こすはあの戦馬鹿の姿、そんな彼が嘲笑しながら未熟だと言ってくる姿が容易に想像できる。当然ながら苛立ちが湧き上がる。先ほど少しセイナと歩み寄れたばかりなのに操りきれない激情を爆発させる。


「あんの馬鹿が!散々ちょっかい出してきてその評価は何よ!」

「はいはい、落ち着こうね」


 そんな女神の雑談を傍から聞いていたアレスと宵闇もまた疑問を覚える。


「ねぇ、ルーミュその兄って誰?」


 その質問にぎょっとしたのはアリアだった。


「ルーミュ様」


 アリアは懇願するように首を横に振り言わないでくださいと手を合わせたのだが、ルーミュは何を思ったのか


「私たちのお兄ちゃん、炎神フローガ、ランディスが信仰する神だよ」


 そんな神がいるのかと三人が理解している中でアリアだけは彼女が神であることに注意しなかったことに後悔した。


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