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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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全力

 アレスの雰囲気が変わった。それは魔人との戦闘で見せた変化とは違う。そこからさらに一段階至った。そう思うほかなかった。

 セイナは警戒を強め、化け物じみた再生能力に彼が何者か分からなくなる。

 セイナもアレスと同様に本物の使徒だが、あのような再生能力は持たない。強力な加護による身体強化と使徒剣召喚に、水を自在に操る力の行使くらいだ。

 

「主様お一人ではやはり限界でしたね」

「そうでもなかったと思うけど」

「いえいえ、向こうが二人ならこちらも二人で応戦するのが筋というモノでしょう」

「そういうもんか」

「そういうものです」

「そっか」


 アレスからの許しを得た宵闇は自らの力を行使する。

 アレスを取り囲むように発生していた闇が宵闇へと集まり、花弁のように散り散りになりひらひらと宙を舞う。

 

「なんで“神力”を持たない呪刀が神力を」


 ウンディーネが宵闇の周囲で舞う闇の花弁を見て困惑する。だが、ウンディーネと違いセイナには驚愕している余裕などなかった。

 花弁が一斉にセイナへと襲いかかる。

 水を生成し、防壁を簡易的に作りだし宵闇の攻撃を防いだ。

 

「固いですね。もう一度、ん?主様」

「どうした」

「魔力切れみたいです」


 宵闇はアレスから貰っていた力が切れたことにより闇が放てなくなっていた。

 宵闇はアレスから受け取った力を用いて闇を生成しているため、宵闇自身の力は持っていないのだ。そして、回復方法もたった一つしかない。

 どこか楽しげな声に、アレスは気づかない。

 

「・・・・・・させない」


 セイナはそれが隙だと直感的に気づき地を駆けるもすぐにアレスと視線が合ってしまった。

 だが、それでも果敢に切り込もうと使徒剣を振るうが今のアレスに対しそれは悪手

 軽く振り上げた呪刀でセイナの剣を完璧に受け止めると、その虚無の瞳で蒼の瞳を射貫く。

 

「軽いね」


 その言葉通りアレスはセイナの剣を軽く弾き、空いた懐へと蹴りを叩き込もうとしたのだが、セイナが自ら退いていき攻撃に失敗する。

 

「躱されたか。それにしても、お前の剣は軽すぎる。やっぱり俺とは違って、まだ人間みたいだ」

「・・・・・・どういうこと」

「お前も気づいてるだろ。俺が人間離れした化け物だって事」


 あの再生能力はいくら何でも使徒にしては異質すぎる。であるなら、彼が人間ではなく化け物なら、その理屈は納得できるかもしれない。だが、アレスの言う化け物は比喩として使われているわけではない。本心から自分が化け物へと成ったと思っている。

 人が怪物になることなどあるのだろうかと、女神へと尋ねようとするがその前に女神の口が開かれた。


「どうして、人間が神力を持ってるの」


 鋭く混乱しながら告げられる神の問いにアレスは首をかしげる。


「神力って知ってる」

「さぁ、私も聞いたことがありません」

「とぼけないで!」


 ウンディーネの声が中庭に響く。


「あなたが持ってるその力は私たちと同じモノ」

「そうだったんだ」


 アレスは魔力の代わりに手に入れたこの力が神力と呼ばれるモノだと初めて知る。神力は魔力と同じように体に内包され、魔力と同様に好きに操ることができる。

 魔力よりも濃密なエネルギーを持った力が神力、神が持つ力、なかなかに興味深いと昔のアレスなら思っただろうが、今のアレスにはただの事実としてそれが受け止められる。


「じゃあ、やっぱり俺はもう人間じゃないんだね」


 人は皆魔力を持っている。だが、その魔力が神力へと変わり、本来持てるはずのない異常な再生能力を得て、味覚を失ったのならそれは果たして人といえるのだろうか

 そんな答え決まっている。否だ。

 この世界はそんな化け物じみた存在が人として許容される世界ではない。化け物に許される選択肢は恐れられるか、英雄という皮を被り栄光をつかみながら畏怖を受けるかの二択のみ

 その中でアレスは英雄と成ったのだ。

 

「少しすっきりした。自分が何者かをやっと理解できて」


 アレスは闇夜を見上げ、女神の言葉を自分なりに解釈し自身の存在がなんなのかを理解する。

 

「宵闇」

「はい、主様」

「全力だ」

「ふふ、はい」


 宵闇は頬をほんのりと染めアレスの目の前へとでると、主の頬をそっとなぞり、そのまま口づけを交わした。

 アレスの中にある力を貪りながら熱く、何度も後方の二人に見えない角度で何度も交わす。

 すると徐々に宵闇の漆黒の長髪が揺らめき、神力があふれていく。


「ぷは・・・・・・ふふ」


 妖艶に微笑むとそっとアレスの肩に手を乗せ軽やかにその背後へと移るとゆっくりと首に手を回し背中に体を預けた。


「誇れ、お前たちは主様が全力を見せるに値すると評した数少ない強者だ」


 実際戦闘中にキスしてまで宵闇へと力を分け与え敵と対峙したことなどあの死戦場においても数度しかない。ヴェイグと戦ったときでさえそれがなかったのだ。セイナは紛れもなく強者、警戒に値する人物だというアレスが送る最大の評価に宵闇は小さな嫉妬を覚える。

 光神の使徒のはずなのに、今は背後に闇を背負い、禍々しい圧を発している。


「お前が俺を殺すというなら、俺はそれに全力で抵抗させて貰おう」


 アレスは呪刀宵闇の刃先をセイナへと向けた。

 そこには虚無の中に確固たる意志が宿っていた。


「俺は死ねない。死ぬわけにはいかないんだ。それが約束だから」


 それは友と最後に交わした約束の一部、生きろという心を壊したアレスにとって生きる意味の一つであり、死ぬことが許されない呪いでもあった。


「だから、気が済むまで相手してやる」

「っ・・・・・・」


 その迫力に気圧されそうになるがセイナは使徒剣を強く握りしめ、アレスから放たれる戦士の圧を振り払う。

 戦場での経験、それがアレスの迫力を強めている。

 だが、それで諦めるわけにはいかないのだ。成し遂げなければならない。アレスを今ここで殺さなければ、誰も・・・・・・・・本当にそれは必要なのだろうか

 不意にそんな疑問を浮かべてしまう。

 覚悟が揺らぐ。

 

「・・・・・・相手してやるって」


 傍らのウンディーネが堪えきれない怒りに声を震わす。

 彼女の度し難い怒りが力と共に流れ込んでくる。

 そうだ。彼は、あの化け物は帝国の人々を恐怖に陥れ、あの戦場で全てを滅したのだ。そんな存在許しておけるかと、女神の怒りに呼応されるようにセイナの中に植え付けられた憎悪が燃え出す。

 

「・・・・・・私は」

「セイナ、やるよ」


 ウンディーネの声にセイナは唯々頷くことしか出来ない。

 

「来なよ」


 どこからでも受け止めてやるからと、余裕を見せつけた。


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