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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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誘い

 アレスは魔人に襲撃された件をカムにすら伝えることなく翌日を迎えていた。

 結果

 

「どうして、私に報告をしなかったのですか」


 朝からカムに呼び出されていた。

 ここは宿でのカムの部屋、朝食を食べ終えた後で生徒たちは投稿の準備をしている頃だろう。

 カムは椅子に座り珍しく腕を組んでいた。その態度から怒っているのがよく分かる。しかし、今のアレスには記憶の中にすらないカムの姿に唯々困惑していた。

 

「えっと、どうして呼び出されたんですか」

「そこからですか、はぁ、昨日魔人と交戦したでしょう」

「はい、しました」


 素直に答えるアレスに本当に何故呼び出されたのか分かっていない事を悟り、頭を抱えた。

 

「いいですか。そんな大事なことしっかりと報告してください」

「でも、昨日来たラーヴェンさんが報告を受けているはずです」

「ええ、受けましたよ。それはもうしっかりと」


 その怒りはアレスには伝わらない。

 

「そんなに怒っていたらストレスで死ぬぞ」

「・・・・・・ご忠告痛み入ります」


 現れた宵闇の珍しい忠告に、今ばかりは怒りがこみ上げてくる。宵闇も主と同様で誰のせいで怒っているのか分かっていない。

 

「ふぅ、次からはこういうことがあればすぐに私に報告してくださいね。ここでの責任者は私ですから」

「だけど、帝国の偉い人に伝えればカムさんにも伝わりますよね」


 なるほどと、何故アレスが自分に報告しなかったのか分かった。

 確かにアレスの理屈ならカムに報告しなくてもカムへと伝わる。だが、それは時間が経った後の報告だ。そんな報告を求めているわけではない。


「その場合も私に報告してください」

「え、でも」

「でもではありません。報告、いいですね」


 強く言われアレスは頷くほかなかった。

 それから幾分かの小言を言われ、部屋を後にした。

 アレスはリーゼロッテたちと共に学院に登校すると、すでにセイナがいつもの席に着いていた。


「おはよう」

「・・・・・・」


 アレスが挨拶をするもセイナはぼうっと山積みになった本をゆっくり手に取り表紙をめくって眺めるだけ

 アレスの存在に気づいていないわけがないのだが、意図的に無視され手いることに気づくとアレスはそれ以上は何も言わずに席に着いた。

 それから一日の授業が終わってもセイナがアレスに話しかけることはなくとっとと帰ってしまった。


「おかしいですね」

「そうだね」


 帰り道、宵闇もまたアレスと同様の違和感を感じていた。


「どうかされたのですか」


 独り言を呟きだしたアレスが宵闇と会話しようとしたのに気づいたリーゼロッテが話に入ってきた。


「ちょっと気になることがあってね」

「気になることって」


 アリアも気になるようで顔をのぞき見てくる。


「たいしたことじゃないけどね。セイナの様子がおかしい気がするんだ」


 リーゼロッテとアリアは目を瞬いて、アレスの言葉をかみ砕き理解する。

 セイナの様子がおかしい

 セイナの様子の違いが分かるだけの関わりを持った。

 セイナと仲良くなった

 と、段階的にかみ砕き理解しようとしたのだが二人して首を振って否定しようとしたのだが、アレスならあり得るという根拠なき理由で納得してしまった。


 それよりと


「いつの間に仲良くなったのですか」


 どこかすごみのある声にアリアの表情が引きつるも言われている本人は何も思わないのか、平然と答える。


「昨日かな」

「く、あの時ですか。ちゃんと警戒しておくべきでした」


 一生の不覚と悔いるリーゼロッテにアリアはそこじゃないだろと突っ込みたかったが余計なことに口出しすることになりそうだったので本題に戻ることに


「それで、皇女の様子がどうおかしかったのよ。数日しか関わってないから何ともいえないけど、あの皇女の表情が変わる所なんてあんまり見たことないわよ。表情が変わってもちょっと変わるだけじゃない。違いなんてさっぱり分からないわ」

「う~ん、わかりやすいと思うけどな」

「え、それあんたが言う」


 素で驚かれるがアレスは何に驚いているのか分からない。そもそもアレスは表情から読み取れる感情の違いではなく表情筋の動きの違いで表情の変化を見ている。着眼点が少し違うのだ。


「少し緊張してるように見えたんだよね」

「話続けるのね」

「緊張とは無縁のように見えましたけど」


 リーゼロッテから見たセイナはどこかポカンとしていて緊張などの感情とは無縁ののほほんとした人物だと思っていたが、アレスの話を聞きその認識を改める。


「ですが、それがどうかされたのですか」


 セイナが緊張していたところで自分たちとは関係ないのではと、鋭いところを着いてくるリーゼロッテは笑みを浮かべている。


「ちょっと気になっただけだから気にしないで」

「そうですか」


 頷きこそしているが、リーゼロッテは納得していない。絶対に何かあると今までのアレスの行動から簡単に予測していた。

 だが、この場では聞かない。どうせ聞いたところで答えてはくれないと分かっているから


 それから数日、結局セイナが話しかけてくることはなかった。


 学院交流、最終日前日、授業が終わるも今日もセイナと一言も会話はなかった。


「明日で終わりですね」

「そうだね」


 宿の自室にて、アレスは来るであろうモノを待ちながら宵闇と話していた。


「それにしてもやはり今日ですか」

「間違いないだろうね。明らかに監視の数が増えてるし」


 今日は朝から感じる視線の数が増えていた。ただ、この前の襲撃の前触れのような増え方ではなかった。監視の数は増えたが感じる視線の数は変わらない。

 この監視はアレスに着いたものではなく、“アーク学院一行”に着いた監視なのだろうと予測をつけていた。

 その目的は分からないが、何かしら起きるような気がしていた。


 その時不自然にドアが動いた。


 するとドア下の隙間から一枚の紙が中にすっと入れられた。


「わざとにしても露骨すぎますね」


 宵闇が扉の前にいたであろう人物を酷評する中、アレスは入れられた紙に目を通した。


『午後十時、帝城の中庭で待つ』


「どう思う」


 アレスはその紙に書かれた内容を宵闇にも見せる。


「十中八九罠、と言いたいところですけど、途中までは罠ではないと思います。敵意を見せるには

 純粋すぎますし、それにわざわざ罠が必要だとは思っていないでしょう」


「だよね」


 この書状を送ってきた人物に二人して心当たりがあった。

 指定時刻は午後十時、しかも監視の厳しい帝城ときた。そんな場所に呼び出せる人物は限られる。


「それにしても十時か。微妙な時間を指定してきたね」

「夜にしてはまだ明るいですからね」

「それにカムさんの監視があるからね」


 カムはアレスが魔人との交戦を報告しなかった日からアレスの勝手な行動を制限しようと監視を強めていた。そのため教師としての宿内の夜の巡回が午後十一時まで続く。抜け出すにはカムの目を騙す必要がある。

 だが、そこはさして問題ではなかった。


「私の闇があれば簡単に抜けられますよ」


 宵闇がいればカムの監視、帝城の警備だろうが簡単に突破することができる。


「あれはこのことに気づいているのでしょうか」

「まぁ、“仕掛け人”が何か吹き込んだんでしょ。でなきゃ、そもそも君の存在すら気づくわけがないんだから」

「で、どうされるのですか」

「もちろん行くさ」

「そうではなく」


 宵闇は真剣な表情で


「どうなさるおつもりですか」


 それはこの誘いに乗るのかという質問ではなく、この件をどう処理するつもりですかという問い

 

「さぁ、行ってから決めるよ」


 アレスは肩をすくめ、ごまかすのだった。


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