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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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ラーヴェン

 襲撃者を捕縛し終えてしばらくすると城から騎士が派遣された。

 夜と言うこともあり、最低限度の人数が送られてくるかと思えばやってきた騎士の人数は十人を超えていた。

 しかも、その中心にいたのは

 

「姫様ではありませんか。レイン大司教から話は聞いていましたがまさか、彼と一緒にいるとは」


 そう言って驚いた声を上げるのは帝国騎士団団長ラーヴェン・ロンドだった。

 アレスはラーヴェンが何者かを知らない。ただ、目の前の人物が強いことくらいは理解できる。

 

「この国の騎士団長でしょうか。ドランと同格くらいでは」


 宵闇がそう評すとアレスもそれに頷いた。彼がこの国の現騎士団長で間違いなさそうだと

 

「・・・・・・ラーヴェンがなんで?」


 ラーヴェンほどの男が何故動いたのかとセイナは首をかしげる。ラーヴェンの人は校庭の護衛も含まれておりそう簡単に持ち場を離れることはできない。しかし、現にラーヴェンは目の前にいる。

 

「すぐに動けるよう準備していたまでです」


 それはカムからアレスの警告を聞いたアッシュがもし何かあった時にラーヴェンや他の騎士たちがすぐに動けるよう調整した結果だ。

 そんなことを知らないセイナはほんの僅かに焦りを浮かべたが普段からあまり表情が変わらない彼女の表情の機微に気づくことはできない。

 ラーヴェンは一通り話すとアレスへと視線を向けた。

 そして直感する。


 強い


 そう簡潔に、どこか虚無的な不気味さを孕んだ強さを感じる。

 だが、ここは戦場ではない。戦うわけではなく、仕事をしに来たのだ。

 

「ラーヴェンだ。よろしくアレス君」


 自己紹介をする事なく名を知るラーヴェンが正体を知る者だと気づいたアレスは警戒することなくラーヴェンと握手を交わした。

 

「よろしくお願いします」


 彼は自分の存在を知ることを隠さず明かしてきた。ならば警戒しなくてもいいだろうと、あの死戦場時からは決して考えられなかった帝国騎士団団長と握手をしている。

 

「それで、捕縛したのは彼らでいいのか」

「はい。襲ってきた奴らは全員ああして縛って自殺できないようにしています。後の処理はお任せします」


 処理というあの死戦場で嫌というほど聞き慣れた言葉を平然と発する少年に、やはりこの少年が英雄であることを再度認識させられたラーヴェンは縛られている賊たちを見る。

 あまりにも貧弱な装備、よくこれで帝国軍を全滅させた英雄を殺せると思ったものだと首謀者に呆れる。だが、同時に侮れないとも思った。アレスのかぶる灰、これは間違いなく魔物が死んだ後に発生する灰だ。そしてここは帝都、ダンジョンではない。当然魔物は出てこない。出るとするならば―――

 そこまで考えが至ったラーヴェンは部下たちに目を向ける。

 

「あいつらを牢に運んでおけ、目を覚ましても縄は外すな」


 そう命令して部下たちが捕縛された賊たちを持ってきた荷台に乱雑に乗せていく。

 部下たちの関心が賊へと向いている間に話す。

 

「その灰」

「ああ、これですか。これは魔人の灰です」

「やっぱり」


 何気なく答えるアレスに対して何の疑問も抱くことなくラーヴェンは受ける。彼がこういう性格になってしまったことはとうに知っている。

 

「魔人は帝国暗部が最初に作り上げた代物、条約に基づいて禁止された兵器の一つ。しかも僕が見た物は粉末状のものではなく液体状の物だった。明らかに“発展”してる。ねぇ、どういうことですか?」


 帝国は条約破りを起こしたのではないかと、帝国上層部がそれに関わっているのではないかとアレスはふるいをかけた。

 目の前のラーヴェンがそんなことに関わっていないことくらい予想がつく。だからこそのふるい、自分が黒幕に対し敵意があるという事を伝えるための意思表示

 だが、ラーヴェンにはその意志はどこか虚無的で仕込まれた動きの一つでしかないように見えた。

 

「私は帝国騎士団団長、そのような王国との約定を破るようなことはしない」

「そうですか」


 敵意を収めたアレスはまっすぐラーヴェンを見る。

 

「なら、暗部は今どのように」


 暗部とは国家にとって汚れ仕事や諜報を行う組織、そう簡単に他国の人間に情報を渡すわけにはいかないのだがラーヴェンは苦笑しながら答えた。

 

「暗部は大戦時よりも規模を縮小されている。私が言えるのはここまでだ」

「ありがとうございます」


 答えてもらえただけでもありがたい。これ以上の情報は求めずアレスは引き下がった。

 

「それでは、僕はここで」

「ん、そのまま帰るつもりか」


 アレスは灰まみれ、そのまま帰れば何かあったと怪しまれるだろう。しかし、アレスは首をかしげるとああと気づいたのか口を開く。

 

「回収してませんでしたね。この灰」

「いや、そういうことでは・・・・・・なんでもない。回収はしなくていい。魔人の灰を回収したところで分かることは微々たる事だからな。だから帰る前に一度その灰を払って行きなさい」


 灰をかぶったまま帰らせるわけにはいかないラーヴェンは不慣れにアレスの体に着いた灰を軽く払う。

 だが、灰を払う必要性を感じないアレスは首をかしげる。

 

「灰くらい普通にかぶるはずじゃ」

「・・・・・・一般常識で考えたらその認識は普通ではないからな」


 それは休息のない戦場での常識だとは口に出さず、言葉を和らげる。

 

「そうだったんですね」


 アレスはそれで納得したのか自分で灰を払い始めた。

 一通り灰を払い終わったアレスは失礼しますとラーヴェンに頭を下げるとそのまま帰ってしまった。

 

「ラーヴェン」

「大司教、どうしましたか」

「あの少年を見て、どう感じました」

「歪だと」


 ラーヴェンはアレスの異常性を感じていた。表面上取り繕っているのは帝国に対する感情ではなく感情そのもの、彼の奥底から感じる虚無は隠しきれていなかった。

 

「やはりそう感じましたか」


 レインもラーヴェンと同様の印象を抱いていた。

 

「彼はまだ幼いというのに、少年らしい感情が欠片とも見えない。こちらの反応に対し受動的に答え決まった動きしかしない。あの戦場があのような少年を生み出してしまったのかと思うと、あの戦争に意味があったのか分かりませんな」

「あの戦争の意義など、ありはしませんよ」


 あの戦争に意味があったなどと、決して思うことはできない。あの戦争は無意味に命を散らす最悪の死戦場としかいえなかった。

 そんな大人たちの会話を聞いていた少女は自らの認識の甘さを静かに悔いていた。

 

「姫様、そろそろ帰りましょう。我々がお送りします」

「・・・・・・」

「姫様?どうかされましたか」


 反応のないセイナにラーヴェンが困惑していると、セイナはハッとして気づいた。

 

「・・・・・・うん、お願い」


 静かに、いつもと変わらない声音の姫にラーヴェンは何も気づかない。

 少女が自らの行いの正義を疑っていることに・・・・・・・


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