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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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未熟

 獣が再び雄叫びを上げると一歩踏み出したアレスめがけて突進を仕掛ける。

 アレスはそれを跳躍して獣を飛び越えると獣を背後から切りつけようとするが、横から強い魔力を感じ取り、獣の背を足場にして蹴ると、魔力を感じる方へと方向転換

 そこでは虫が足を地面に突き刺し体を固定していた。


 口には魔力がたまり魔法を打ち出す準備、さながら固定砲台と言ったところだろう。狙いをアレスに定めためた魔力を打ち出した。魔物の使う魔法は人間の使う魔法のように兵器を模していることは希、知性の低い魔物は魔法ではなく魔力で簡単な球体を作りそれを打ち出すのだ。

 ただ、魔力の塊だからと言って侮ることは死に直結する。

 その威力は殺傷能力を高めた人間の魔法と大差ない。効率はいいとはいえないが魔力量を多くすることでその威力を上げていた。

 白い魔力の塊が打ち出される。

 速度も相まって、もし大聖堂の壁にでも衝突すれば簡単にその壁を打ち抜くだろう。

 アレスは呪刀宵闇を腰に構える。



―――極致一刀 閃



 一刀を持ってその魔力を切り裂くと魔力は霧散して消えていく。

 

「後ろです」


 だが、それだけでは終わらない。

 突進を躱された獣は急停止して振り向きざまに腕を振り下ろす。

 アレスは空中におり、動くことはできない。だから体をひねり呪刀宵闇で獣の腕を受け止める。

 衝撃が腕に伝わるのと同時、呪刀宵闇を傾け受け流すと獣の硬い毛の間で火花が散る。

 完全に受け流すことができず着地した衝撃もろとも全身に受けるも、驚異の治癒能力により内部の傷はなくなる。

 体勢を立て直すために獣から離れようとするも獣がそれを許すはずなく腕を乱雑に振りアレスを潰そうとしてくる。

 

「っ、やりづらい」


 アレスは苦渋を漏らす。

 獣の攻撃は全て躱すも反撃には出ない。いや、出ることができない。

 アレスの背後ではこちらに狙いを定め魔力をためる虫がいる。普通の魔物とは違い魔人であるせいか多少の知能があり、今放てば獣も巻き添えにしてしまうと分かっているのか撃ってこない。このタイミングで極致一刀により獣を切ればそのタイミングを狙って確実にあの魔力を放ってくるだろう。

 極致一刀閃は一刀を持ってどんな相手も切り裂く技、故にその性質上連続して放つことはできない。アレスが使用できる極致の技はこの一刀のみ、刀の極致の攻撃、それも一刀による斬撃の技しか習得できていない。


 師匠の未熟という言葉が呼び起こされる。


 アレスに刀の技を教えた師ならば、この程度の相手すぐに切り裂き虫の攻撃も切り、虫本体も瞬時に切るだろう。

 だが、アレスにはそれはできない。

 そして何より、今のアレスの状況は非常にまずかった。


 アレスの技は自然体の状態から放つ技であり、乱れは技を放つ時に不調となって現れる。

師匠曰く、自然体でいることが全てにおいて万全な状態であり自然を感じることで相手の動きを読める。

 極めれば極めるほど極致に近づきいずれは全ての攻撃を最少の動きで裁くことができるという。だがアレスはその極致に至ってはいない。それどころか修行の際、極致一刀を習得するためにほとんどの時間を費やしたせいで初歩的な捌きしか学べていなかった。

 現状、アレスは自然体とは言いがたい状況だった。

 一度ずれてしまった呼吸はそう簡単に整うことはない。一度落ち着きたいが獣の息つく暇もない連撃に加え、虫の攻撃態勢にそう簡単に休むことはできない。


「主様、私も力を」

「駄目だ。さすがにこれ以上は見せられない」


 宵闇の力を使うと言うことは、手札のほとんどを見せるのと同義、そんなリスクをこんな相手で負うことはできない。


「ですがこのままでは」


 万全の状態なら、もしくはここが何の遠慮もいらない戦場ならこの程度あっという間に倒せる。しかし様々な制約の中戦い続けるのは難しい。


「一か八か、やるしかない。僕はこいつに集中する。宵闇は後ろの虫を警戒していてくれ」

「それではあの虫に隙をさらすことに」

「だから一か八かさ」


 今のアレスでは両者を相手取るのは困難、ならば片方に集中し、片方は意識の外に出す。それしかとれる手はなかった。

 本気ではあるが全力ではないアレスに一瞬宵闇は心配するも、いざとなれば自身の闇を持って守るしかないと腹をくくる。


「分かりました」

「頼むよ」


 アレスは虫を意識の外にやり、目の前の獣へと集中する。

 先ほどから獣は怒濤の連撃を繰り出しているがどの攻撃も乱雑、粗がある。それに腕を振るうだけで簡単に攻撃が読める。

 アレスは右手で握る呪刀宵闇を小さく構えた。

 左腕が振るわれたのと同時、アレスはタイミングを合わせ呪刀宵闇を振り上げる。

 呪刀と腕が激しく衝突し火花を散らしたのが一瞬、すぐさまアレスは呪刀を傾け腕を受け流す。

 そのまま身を翻し、ステップを刻むと獣の腕を横から切りつけた。


「浅い」


 硬い毛に阻まれるだけでなく刃がほんの僅かにぶれ、確実に切り裂くことができない。

 ここは戦場ではない。そんな意識があるせいかすぐに意識を切り替えることができない。


 獣の獰猛な瞳が向けられる。

 これにもやはり反応するかとアレスはすぐさま一歩後退すると巨大な腕が横薙ぎに振るわれる。間に合わないとのけぞりつつ躱すも鼻先すれすれに硬い毛と生暖かい空気を感じ取る。


「ふぅ」


 一息吐き、意識を集中する。

 腕が通り過ぎるとすぐさま体勢を起こし腰に呪刀宵闇を構える。


―――一刀 閃


 極致に至らない一撃は獣の胸に切り込むだけ

 失敗だ。

 いくら意識を集中させようと無意識下で無視の存在を意識してしまうことで全力の一撃を放つことができない。

 獣の胸から血が流れる。

 

「グォォォ!!」


 獣の咆哮


 肌をビリビリと震わせるその咆哮にアレスは一切の反応も示すことなく、再び刃を振るう。

 切り返し、新たな傷をつけるがこれもまだ浅い。

 

(間合いが足りない)


 懐に踏み込もうにも乱雑に腕が振るわれる中タイミングを見計らって踏み込むことは今のアレスにはできない。

 踏み込んだ後背後から狙われれば終わり、結局の所虫が厄介なのだ。

 このまま小さく切り続け、騒ぎを聞きつけた誰かの増援を待つしかないかと思われたとき

 

「主様!」


 宵闇の叫びと共に虫の魔力が揺らいだ。

 面倒になったか、あるいはため込んだ魔力の形を保つのに限界を迎えたか、どちらにせよ今放たれるのは非常にまずい。

 獣の懐に踏み込み胴を真っ二つに切り裂けば倒せるだろう。しかし、それには大ぶりに振るう必要があり、時間のロスが大きい。もし振るった後対処しようとしても魔人を倒したときに発生する灰が視界を阻み極致一刀を持って正確に切り裂けるか分からない。

 やるしかないかと、一歩踏み込もうとしたとき

 

「水弾」


 直後、虫めがけて水の弾が飛んでいった。

 水の弾は虫の顎に衝突するとはじけ、その衝撃で虫の顔がのけぞり上へ向いた。それと同時にためていた魔力の塊が空へと解き放たれ一定の高度に辿り着くと白く輝き爆発した。

 

「手伝う」


 そう言って剣を構えるのはセイナだった。

 セイナの周囲には展開された水弾の群れが、その数、ざっと三十を超えるだろう。水魔法で初歩的な攻撃魔法であるとはいえこれだけの魔法展開能力、さすがとしか言い様がない。

 

「なら、あの虫をお願い」


 アレスは獣の攻撃を捌きながら頼む。

 

「分かった」


 セイナは頷くと“あの人”の策謀で変わり果ててしまったダレスに心の中で謝りながら展開した水弾を放った。


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