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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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赤い液体

 アレスの戦いを見ていたセイナはつまらなそうに大聖堂前にある二段しかない階段に腰掛けていた。

 アレスは先ほどから躱すことしかしない。

 大剣使いに対し反撃するわけでもなく、先ほどの雷槍によって焦げた芝生に時折見ては大剣使いに視線を戻し何かしら悩んでいる。

 その悩みをセイナは簡単に予測できた。

 相手が微妙な強さが故に、手加減するにもできず、本気を出せば殺してしまうジレンマを抱えているのだろうと、そのセイナの予測は半分当たっていた。

 

「・・・・・・」


 じっとアレスを観察する。

 彼の瞳の色は変わることはない。これを戦いとも思っていない。


 やはり分からない。


 そんな時だ。嫌な魔力を感じた。

 セイナはその魔力の方向へと視線を向けるとそこではダレスが風砲による雷槍の発射準備をしていた。

 戦場を知らないセイナにも風砲くらいは分かる。

 一体あの傭兵は何を考えているんだと小さく憤りを覚えた。風砲を使って雷槍を放った場合この大聖堂だけでなく周囲の住宅地にまで小さいながらも被害が及んでしまうだろう。

 虚無的な瞳を浮かべ作業のように敵を倒すアレスならば被害のことなど気にせず自身の手札を隠すために躱してしまう。

 そう予測したセイナは小さく舌打ちしつつ、立ち上がると腰に提げていた騎士剣を握った。

 剣であの雷槍を無力化できるかは分からない。魔法を切ることはできる。しかし、切った場合魔法を構成する魔力のバランスが崩れ暴発してしまう可能性がある。

 だがそれでもやらなければならない。

 何かあれば自分が力を見せてでも被害を抑えるしかないと覚悟を決めた途端、風砲がうなりを上げた。


 放たれる。そう確信した瞬間、一歩前に出ようと大地を蹴ろうとしたのだが一瞬足が動かなかった。

 

(何、これ?)


 体中にぞっとするような寒気が奔る。

 その原因はすぐに分かった。セイナの視線の先、そこには大きく身を引き、剣を腰に構えるアレスの姿が


 普通に見ればただ剣を構えているだけに見えるが、セイナから見たら明らかにアレスの雰囲気が変わった。強者故の感覚、自然体でありながら極限の集中状態にある彼の姿に自分は震えたことに気づいた。


 今近づけば切られる。


 そう予感して

 直後、雷槍がアレスへと殺到、本来躱すのが最善手なのだがアレスは躱さなかった。



―――極致一刀 閃



 その極致の一振りによって魔法を切って見せたのだ。

 鮮やかで美しい一振り

 

「綺麗・・・・・・」


 ぽつりと言葉が漏れた。

 魔法を暴発させることなく、魔力として霧散するよう繰り出された一撃はまさしく絶技、あれを防ぐ手立てはなく受ければ間違いなく切られる。初見だったらその危険性に気づかず受けていただろう。

 そう考えるとここで見られたことに安堵するのと同時に、何故アレスがここでその技を見せてまで雷槍を防いだのか不思議でならなかった。


 分からない。やはり理解できない。


 アレスという存在を知らなすぎるため、アレスが冷酷非道の『絶望の使途』であると教えられたが故に、アレスという人物を捉えることができなかった。

 答えは簡単だというのに

 そんな風に困惑するセイナを置いておき、宵闇はアレスの当然の一振りに抱きついた。そして耳元でそっとささやく。

 

「私も力を使っても」

「駄目だ」

「むぅ、でもいいです。気分がいいので」


 ぬふふと頬を緩ませ続けながら宵闇は機嫌良く抱きしめる力を強めた。

 アレスが技を見せてまで魔法を切ったのには合理的な理由なんてない。ただの感情論だ。この大聖堂を傷つかせないために切った。ただそれだけの理由

 感情がないと、なくなってしまったと、そう言っていたが今の決断は確かに過去の心優しい少年の決断だと、そう考えるだけで宵闇は嬉しくて仕方ない。

 

「分からないけど、君がそれでいいならそれでいいよ。さて」


 だらりと下げていた呪刀宵闇の剣先をローグへと向けた。

 

「捕まえさせて貰うよ」

「ち、どうすんだよダレス」


 ローグは後方にいるダレスに指示を仰ぐ。

 

「これはさすがに予想外でしたね。半ば、無理に等しい。しかし、ここで依頼を中断するわけにも・・・・・・」


 アレスの実力の一端を垣間見て、自分たちでは勝てないと判断したダレスは撤退を考えるもここまでした以上おめおめと逃げるわけにはいかない。

 依頼の契約内容は黒髪の少年の暗殺、報酬は莫大な金と秘密裏に入手したと言っていた『ヒュドラ』、そして引き受けた以上契約破棄は不可能

 だが、どちらにせよこのまま戦えば捕らえられるのが落ち

 傭兵はどこの国や組織にも属していないため全て自己責任、牢獄行きは免れないだろう。

 ならば、とれる策は一つ

 

「ローグ、アレを使います」

「アレか。分かった」


 アレという言葉にアレスが首をかしげると二人が取り出したのは小瓶に入った赤い液体、血のような色をしていたが透明でさらさらしている液体だ。

 その液体はどこか見覚えのある物だった。しかし、アレスの知るそれは粉末状であり、決して液体ではない。

 だが、確かにそれは『魔粉』に似ていた。


 まさかと、その考えに至ったときすぐさま小瓶を砕こうと一歩踏み出すが遅かった。

 二人は小瓶の蓋を外すと一気に飲み干した。

 二人にとってその液体は依頼主からもしもの時のためにと渡された信頼のない強化薬だった。曰く、これを飲めば身体能力、魔力が格段に上がるという優れもの、そんな都合のいい物そう簡単に手に入るわけがないと二人して思っていたが『ヒュドラ』を出されたことで可能性としてありえなくはないのだろうと賭けの品だった。

 

「何もかわ、ら、あぐ⁉」

「が、ぁ、これ、は」


 二人して小瓶を落とし苦しみだした。

 ローグが骨格から変わり体躯が一回り大きく全身に毛を生やしていき、獣のような姿へと変わる。

 ダレスもまた、ローブがはち切れるほど体が一回りほど大きくなるもローグとは違って獣のように変わることはなく目が昆虫のように膨れ上がり顔の大半を埋め尽くすと、体が徐々に細くなっていき、指が小枝のように細くなる。その姿は虫で言うナナフシに似ていた。

 

「昆虫型か」

「魔力強化ですね」


 その変貌にアレスは驚くことなく、あの液体が魔粉と同じ効果を持つ物だと認識した。

 アレスは戦場で何種類かの『魔人』を見たことがあった。

 ローグのように獣のような姿になるのは『獣型』の魔物の魔石を砕いた魔粉を摂取することで変貌することができる。主な効果は身体能力強化

 そしてもう一種類がダレスが変貌した『昆虫型』、こちらは虫型の魔物の魔石を砕くことで得た魔粉を摂取することで変貌できる。効果は魔力の強化が主だ。


「戦争が終わってもこれか」


 アレスはどこか悲しく呟いた。

 魔人になってしまった以上捕縛は不可能、それにもうこの二人の寿命は長くはない。しかも摂取した量が多かったのかすでに理性がなくほぼ魔物と化している二人を放置することはできない。


「グォォォ!!」

「カチカチ」


 獣が叫び、虫がその口をならす。


「セイナ、もうこいつらは捕らえられないから殺すね」


 意図せず魔人になってしまった者に対するせめてもの慈悲ではない。彼らはもうこの町を脅かす存在であり排除しなければならない存在だから殺すのだ。

 セイナからは返事はない。ただ唖然とこの状況を見ていた。

 アレスは呪刀宵闇を構え彼らを排除しようと動いた。


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