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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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風砲

 装備の乏しい襲撃者が合計九名ほど倒れる中、アレスとセイナは息を切らすことなく立っていた。

 

「次で最後かな」


 残るは徐々に近づいてくる雑な気配をだす人物のみ

 

「最後だけど、どうする。僕がやる?それとも君がやる?」


 一切の緊張なく聞いてくるアレスにセイナはジト目を向ける。

 

「・・・・・・・任せる」

「分かったよ」


 アレスはのんきに答えると、雑な気配の人物の到着を待つ。

 しばらくすると街灯の明かりに照らされ二人の人物が見えてくる。一人は大剣を担ぐ荒っぽい風貌の男と、その後ろにいるローブに体を包み込みフードまでしてその体を一切見せようとはしない人だった。

 

「はぁ、黒髪のガキを殺せって面倒な依頼だな」

「仕方ありません。報酬が大金だったのですから」


 荒っぽい男は文句をたれ、それを声からして男だろうローブ姿の男がなだめていた。

 荒っぽい男は大聖堂へと目を向けると無傷で立つアレスとその周りで沈む襲撃者たちが視界に入った。そしてため息一つ

 

「ほれ見ろ。雑魚だが、こうもあっさり倒すやつだぜ。面倒たりゃありゃしねぇ」

「我慢してください。あの少年を殺せば大金だけでなく“アレ”も手に入るのですから」

「はぁ、ならしゃぁねぇな」


 二人はアレスの黒髪を見ても怯えはしない。

 話からして金で雇われた他国の傭兵だろう。

 傭兵は騎士や軍人とは違いどこに所属するわけでもなく金などの報酬によって主を決める自由な集団だ。傭兵の中には元軍人や騎士などもおり、決して弱いわけではない。傭兵として名をあげれば国家に雇われることもある。

 そして、今回の相手はそれなりに腕が立つ傭兵なのだろう。気配の消し方は雑だが、口では文句を言っているもののアレスに対してしっかりと警戒を見せている。


「よう、ガキ」


 荒っぽい男は立ち止まるとにやりと笑い、アレスを見た。


「どうも、あなた方は僕を殺しに」

「察しがいいな。そうだ」

「オーグ、あまり話しすぎないように」

「相も変わらずお前は小言がうるせぇなダレス、別にこのくらいいいだろ」


 面倒くさそうに耳をほじりだしたオーグにダレスは呆れる。


「情報を漏らしてどうするのですか」

「漏らすつっても、相手は結局ガキだぜ。何も分かるわけがねぇんだよ」


 二人はアレスが何者かを知らない。だからただ強いだけの子供と思っていた。だが、その予測はあまりにも楽観的すぎた。


「はぁ、これ以上あなたと口論してても無意味ですね。さっさと始めましょう」


 男はローブの中から木の杖を取りだした。


「魔法使いですか」


 二人の様子をうかがっていた宵闇がダレスの取り出した杖を見てぽつりと呟いた。

 木の杖にはうっすらと刻印らしき物が見える。

 ダレスの持つ杖は魔道具の一種であり、魔力制御をサポートする物だ。杖の中には何らかの効果を持つ物もあるのだが、木の杖は魔力制御をサポートすることしかできず製造も比較的簡単で安価で取引されている一般的な物だ。


「構えてください」

「面倒だな。ま、しゃぁねぇ。いっちょやるか」


 ローグは担いでいた大剣を構えた。

 そして笑みを浮かべると大地を蹴った。


「オラァ!!」


 ローグはアレスとの距離を詰めると大剣を振り下ろす。

 アレスはそれを目視すると数歩下がり躱した。


「雷槍」


 ダレスの周囲にバチバチと雷を迸らせる三つの槍が浮かんでいた。

 雷槍は上、右、左と三方向に放物線を描きながら放たれる。狙いは当然アレス、木の杖のサポートもありその狙いは正確

 これもまたアレスは目視すると華麗な足さばきで巧みに躱していく。

 その様子を見ていた二人が目を見開いた。


「おいおい、初撃を躱すのかよ」

「厄介ですね」


 今まで二人が相手にしてきた相手は初撃を全て躱すなんて事はできなかった。防ぐか受けるかのどちらかだった。

 しかし、そんな二人に対してアレスはあまりに温い攻撃に首をかしげていた。

 アレスが駆け抜けたあの死戦場においてこの程度の攻撃生ぬるい。全方位からの飽和攻撃、圧倒的数量による物量戦、理不尽が平然と起こる泥臭い戦場に比べれば三方位からの雷槍に一人による近接戦などもはや児戯に等しかった。


 だが、あいにく二人はその死戦場を知らない。そもそも死戦場にわざわざ自ら参戦する馬鹿など数えるほどしかない。それほどまでの激しい戦場だった。


「少しは楽しめそうだな」


 そのローグの言葉に宵闇がむすっと顔をしかめた。


「何様のつもりですかね。あの雑魚」

「さぁ?」


 そんな風に会話をしているとローグが再び肉薄してくる。後方ではダレスが魔法の準備をしていた。

 大剣が振るわれる。

 上段から勢いよく振るわれるも、ローグは大剣に振り回されることなくアレスが躱すとすぐに次の攻撃へと移った。

 

「オラオラ、どうした。躱してばっかじゃ何もできねぇぞ」


 ローグが大剣を振るうたびにアレスが数歩下がり躱すことしかしない。反撃に出ることなく剣を握ったまま機会をうかがうわけでもなく、少し悩みながら動いていた。

 アレスが握っているのは呪刀宵闇、武器として最高の刀であり、もし宵闇とローグが振るう大剣が衝突すれば大剣が一切の拮抗なく宵闇の漆黒の刃が大剣に入り切ってしまうだろう。そんな芸当ただの剣にできるわけがない。セイナが見ている手前下手な真似はできず、ここに来て呪刀宵闇の武器としての格の差が裏目に出てしまった。

 そもそも、ローグの握る大剣がそこそこいい物でしかないのが悪い。刀を握る感覚を思い出したアレスに対し普通の武器ではすぐに切られてしまう。それを理解していない敵に対して呆れを覚えた。

 それに何よりも、わざわざローグの大剣を受け止める必要がなかった。

 彼の振るう速さ、キレ、技、その全てにおいてアレスが知る大剣使いである王国騎士団団長ドランに比べて数段劣っていた。


 何の脅威にもならない攻撃に対してセイナが見ているという理由一つで躱さなければならないこちらの気持ちにもなれ雑魚と宵闇は思ってしまう。


「はぁ、主様いかがいたしましょう」

「殺しはなしだからね」


 もし殺せるのなら一刀をもって切って終わり

 そこそこの使い手であるため雑な手加減はできず、かといって刃を振るえば殺してしまう。つまらないジレンマに陥ってしまう。


「雷槍、風砲」


 そんな時だ。ダレスの周囲に魔法が展開される。

 五つの筒状に渦巻く風の中に雷槍がその雷を迸らせている。


 風砲、その魔法に宵闇がほんの僅かに関心を見せる。

 風砲とは戦場でよく使われる攻撃魔法を補助するための魔法であり、風の力を利用して今ではほとんど使われない大砲を模した魔法だ。弾は攻撃魔法、筒や火薬を風によって再現し、攻撃魔法の威力を上げる魔法

 この魔法は戦場でよく見かける実戦的な魔法であり、本来このような場で撃つ魔法ではなかった。


 風がうなりを上げ、雷層が発射される。


 先ほどよりも数段早く威力を伴った五つの槍がアレスめがけ殺到、ここで躱せばこの大聖堂に被害が出てしまう。

 だが、これを防ぐには必然的にセイナに対し手札をさらけ出さねばならない。

 アレスにとってこの大聖堂は一切関係のない場所、ならば大聖堂に被害を与えて自分は手札を隠すのが合理的だった。


 だが


「宵闇」

「はい、主様」


 宵闇は主の決定に頬をほころばせる。

 アレスは一気に身を引くと宵闇を腰で構える。

 


―――極致一刀 閃



 アレスの眼前、闇色の軌跡に衝突した五つの雷槍が魔力となり霧散する。

 

「な⁉」

「まじかよ・・・・・・・」


 ダレスは驚きを漏らし、ローグに至ってはその化け物じみた絶技に頬を引きつらせた。

 

「戦場じゃないのに風砲なんて使ったら危ないでしょ」


 抜き放った鈍色の剣をだらりと下げアレスは二人へと注意しながらその夜闇の成果より不気味になった漆黒の瞳を向けるのだった。


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