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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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シュークリーム

 翌日、前日と同様にディア学院の生徒たちと共に授業を受け終えた後

 

「アレス、これからどうするのですか」


 後ろに座っていたリーゼロッテから話しかけられる。

 

「少し帝都を見て回るよ。一昨日は全部見て回ることができなかったからね」

「そうでしたか。私たちはこれから校舎を見て回ろうと思っているんです」

「そっか、じゃあ、また宿でね」

「はい、また」


 アレスはリーゼロッテたちと別れ大教室から出た。

 後に続いて誰か出てくる。ちょうどタイミングがあったのかと思えば、向かう方向は一緒

 

「主様」

「うん」


 宵闇も感づいたらしく、後ろから一緒の方向に向かう人物は偶然ではなく、意図的に着いてきている。

 振り切るかと考えたが、それが無意味であることをアレスは理解すると足を止めた。

 

「何か僕によう?」


 振り返った先、そこにいたのは少しけだるげに蒼の瞳を細めるセイナだった。

 やはり、昨日聞いたように一見すると天才には見えない。ただし、寝ぼけているように見えて隙はない。

 

「・・・・・・どこ行くの」

「町を見に行くつもりだけど」

「・・・・・・そう」


 会話が途切れる。

 セイナはアレスをじっと見て動く気配がない。

 アレスが踵を返し進むとセイナもその後についてくる。足を止めれば彼女もまた足を止める。

 一体何がしたいんだとアレスは思うが、傍らの宵闇はなんとなく彼女の目的を把握できたが決して口には出さない。

 

「主様、このまま振り切りましょう」

「無理だと思うけど」

「それでも、彼女は危険です・・・・・・色々な意味で」


 最後の言葉を聞き取ることはできなかったが、彼女が警戒するに値する人物であることには変わりない。

 宵闇の進言通り振り切ることは不可能だが、自分の目の届く範囲に置いておいた方が安全だ。

 

「ねぇ」


 アレスは立ち止まり振り返る。

 

「僕にこの帝都を案内してくれないかな」


 その提案に傍らの宵闇だけでなくセイナもその蒼の瞳を見開いた。

 予想外の提案にセイナは僅かに思考すると頷いた。

 

「・・・・・・いいよ」

「そう、ありがとう。それじゃあ、一緒に行こうか」


 アレスはセイナの隣に並び立つと彼女の何か言いたげな蒼の瞳と視線が合う。

 

「・・・・・・こっち」


 セイナが歩き始めると歩調を少しだけ遅らせできるだけ隣に並ぶよう歩き出した。

 学院の敷地から出て大通りへと出る。

 

「そういえば、セイナは護衛をつけずに帝都を歩いても大丈夫なの」

「・・・・・・必要ない・・・・・・それに、誰も私が誰か分からない」


 皇族のみが持つ特徴的な銀髪や蒼の瞳は目立つが、たとえ帝都に暮らす民だろうと彼女が皇族であることは気づくだろうがセイナであることには気づかない。

 

「・・・・・・あまり人前に出ないから」


 セイナは皇族の中でも特異で、基本的に人前に姿を見せることはない。帝城で開かれる社交界なども面倒だからという理由で参加しない。そのため彼女がセイナであると知る者は学院の生徒、もしくは皇族や皇族の近衛騎士、帝城で働く文官くらいだ。

 

「でも、もしもって事があるでしょ」

「・・・・・・?」


 そのもしもの可能性にセイナは辿り着いていない。心底不思議そうに首をかしげるだけ

 

「ほら、攫われたり、命を狙われたり」

「・・・・・・賊くらい自分で倒せる。あなたの目は節穴?」


 自分と対峙したあなたなら私の実力くらい想像がつくでしょ。なら、そんな質問する意味がある?と言いたげに、しかし言葉が全て出せず簡潔に述べる。

 そのセイナの言葉に宵闇の闇が荒れそうになったのを感じ取ったアレスは腰に提げた『呪刀宵闇』に触れ、彼女を落ち着かせる。

 

「それもそうだね」


 アレスは笑みを浮かべ答える。

 その不自然な表情にセイナがじっと探るような視線を向けるもアレスがこちらを向くとすぐに視線をそらした。

 大通りには当然多数の人がいた。

 中にはディア学院の生徒だけでなくアレスと同じように帝都を見て回ろうとしているアーク学院の生徒たちもいた。


 そんな中、帝都民はというと黒髪の少年と銀髪の少女が並ぶ光景に唖然としていた。

 少女が何者か分からなくても銀髪で蒼の瞳、彼女が皇族であることは明らか、そんな帝国の象徴とも言うべき一族が、敵であり恐ろしい力を持った忌々しい闇のような色をした黒髪と並んで歩いている状況にもはや思考が追いつかない。

 帝都民は誰も彼もがその足取りを止め、二人の姿を見た。

 

「どこ行くの」

「・・・・・・有名だと、思うところ」


 二人は一切視線を気にせず歩いている。図太い、というよりも二人して周囲に対して何も思っていない。

 着いたのは一軒の店だった。

 

「たぶんここ」

「へぇ、何のお店なの」

「甘いのがある」

「それで」

「甘いのがある」


 セイナも目の前の店に何があるのかよく分かっていなかった。それもそのはず、セイナが帝都の大通りをこうして歩くのは久しぶりのことだ。歩いたとしてもこうして店に立ち寄りはしない。この店の存在も城を歩いていたときに聞こえてきた侍女たちの会話から知った店だ。

 

「い、いらっしゃいませぇっ!」


 突然の皇族来店に店員は思わず声が裏返ってしまう。

 

「甘いの、ある?」

「あ、甘いのですか。えっと商品名を」


 注文口に置いてあるメニュー表を見せるも、セイナは首をかしげたまま

 

「甘いの、ある?」

「い、今すぐおすすめを用意させていただきます!」


 店員にはその問い返しが何度も同じ事を言わせるなと言う圧に聞こえたらしく怯えながら用意した。

 セイナには一切そのつもりはない。ただ、この店には甘い何かがあるという情報しか知らず、その甘い何かを求めていただけだった。決して脅しているわけではない。

 

「お、お待たせしました」


 僅か十数秒で用意した紙の包みに入ったシュークリームを二つ注文口に置く

 セイナは鞄から、包みを取り出すと中から金貨を取り出し注文口に置いた。その金貨を見た瞬間店員はぎょっとし固まる。

 そんな店員を無視してセイナは受け取ったシュークリームを一つ、アレスへと手渡した。

 

「はい」

「ありがとう」


 二人して、そのまま立ち去ろうとすると店員が慌てて呼び止める。

 

「お、お客様!」

「・・・・・・何?」

「代金は大銅貨六枚です。おつりを」

「あげる。正当報酬」

「へ?」


 セイナのその申し出に再び固まってしまった店員

 

「美味しかったら、また頼む」


 セイナはふんわりと笑みを浮かべると踵を返しアレスに一言行こうと告げ、歩き出した。

 

「っ、はい。ありがとうございます」


 店員は深々と頭を下げセイナを見送った。

 このことはすぐに噂として広まり、皇族に認められたシュークリーム店と言われ有名になるのだった。


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