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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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不思議な子

 微妙な結果で終わった交流戦の後、アレスたちはディア学院の生徒たちと共に大教室で共に授業を受けることになったのだが

 

「であるから、この数式が」


 そうして教師が授業を進める中、とある二人を除き誰一人として授業に集中していなかった。

 その原因は決まっている。


 最前列、それも教壇の目の前の席に座る二人

 ガイアス帝国の皇女であるセイナとその隣の席に座るアレス、交流戦の最終戦にて一合も打ち合うことなく引き分けに終わらせた二人が隣同士で授業を受けていた。

 この大教室は教壇の前の列の席は二人席となっており、必然的にアレスとセイナだけ概要な存在感を放っていた。


 何故こうなってしまったかというと、アレスがトイレに行ってしまい大教室に着く頃にはすでに最前列しか空いていなかったのだ。それで仕方なくアレスがその席に座ると、こちらも何かの理由で後からやってきたセイナが何も言わずアレスの隣に座ったのだ。

 そうしてこの席ができあがってしまった。


 自国の皇女が黒髪の隣に座っているという状況にディア学院の生徒たちは何か起こるのではと期待感を抱き、アーク学院の生徒たちはアレスの訳の分からない肝の据わり方に一種の畏怖を覚えていた。

 しかし、実際に何も起きることはない。

 

「寝てますね」


 アレスの隣に座ったセイナを警戒していた宵闇が、姿が見えないのをいいことにセイナの顔をのぞき込んだ。

 セイナは目を閉じ、小さく規則正しい寝息を立てていた。その姿は本物の人形のようでとても可愛らしい。

 宵闇は警戒するのが馬鹿馬鹿しいほどにマイペースな少女に呆れていた。

 

「・・・・・・ん・・・・・・んん」


 授業終了のチャイムと共に目を覚ましたセイナは伸びをすると何度か周囲を見渡す。

 

「・・・・・・終わった」

「ついさっき終わったよ」


 まだ眠いのか寝ぼけ眼で尋ねてくるセイナにアレスはまともに会話したこともないのにまるで知己であるかのように答えた。

 

「そう・・・・・・」


 それに対しセイナは何の違和感もなく答えた。

 

「・・・・・・次、何」

「さぁ、誰も移動してないし座学じゃない」

「・・・・・・眠くない・・・・・・本持ってる?」

「本?持ってないけど」


 完全に起きてしまったセイナは一度壁に掛けられた時計を見る。授業が始まるまで残り約十分

 

「・・・・・・ねぇ、あなた速い?」

「走るのがって事?人並みよりは速く走れると思うよ」

「・・・・・・なら一緒に来て」


 そう言うとセイナは立ち上がり、走って教室から出て行く。訳が分からないままアレスもまた彼女を追いかけて走って教室から出て行ってしまった。

 

「え?嘘でしょ」


 アレスたちの後ろの席にいたアリアがまさかの行動に驚いている中、その隣にいたリーゼロッテが暗い笑みを浮かべる。

 

「皇女ですか・・・・・・警戒しておきましょう」


 セイナの名がリーゼロッテの警戒リストにのった。

 

「・・・・・・見なかったことにしよう」


 そんな隣に座る親友の姿を見てアリアはそっと視線を外し、巻き込まれるのはごめんだとそう心に誓った。


 

~~~~



 セイナを追いかけ辿り着いたのは校舎内にある図書室だった。

 図書室には多種多様な本が並べられていた。

 

「これ持って」


 セイナは早速本の背表紙を見ることなく、なんとなくで本を選び取るとそれをアレスへと渡した。

 アレスがそれを一冊受け取ると二冊、三冊と徐々に本が重なっていく。

 

「主様を荷物持ちにするとは、この小娘、殺す」


 と殺意をたぎらせる宵闇は放っておき、アレスは選ばれる本を見る。その本は棚に入っていた順で取られ、ざっと一列分の本が重ねられていた。その数ざっと二十冊ほど、一体これだけの本をどうするというのか

 

「後一時間・・・・・・足りない・・・・・・まだ持てる?」

「持てるよ」


 その受け答えに図書室の管理をしている司書がぎょっとする。すでにアレスの持つ本は山積みになっており視界が塞がれている。

 

「後十冊」


 セイナは本棚から本を取るとそれを山積みになっている本の最上部へと寸分狂わずきっかり重なるよう投げ置いた。

 そして重なった本が三十冊になると満足した様子のセイナは司書の下へと向かう。

 

「・・・・・・借りたいけどいい?」

「え、ええ。あの、大丈夫なんですか」


 司書が遠慮がちに荷物持ちをさせられているアレスを心配する。司書からは本が邪魔をしてその特徴的な黒髪が見えない。故に今は皇女の荷物持ちをさせられるかわいそうな生徒にしか見えていなかった。

 

「何が?」


 純粋無垢な蒼の瞳が疑問を浮かべる。

 本当に分かっていない。セイナは良くも悪くも純粋すぎる。それ故に自分の衝動に正直であり疑問を覚えることがない。

 

「・・・・・・何でもありません」


 その瞳で見られてしまうと何も言えなくなる。

 司書はアレスから積み上がった本を受け取ると、いつも通り踏み台を用意して貸し出し手続きをするのだが、どうせ“一時間”で返ってくるため本の冊数と最初と最後の本の番号だけを書き留める。

 

「手続き終わり、ひ⁉」


 司書は積み上がった本をアレスへと返そうとすると、ちょうどアレスの黒髪が目に入ってしまった。

 帝国人のこの反応にも慣れてしまったアレスは特に何も感じない。

 

「行こう。もう時間がない・・・あと五分」


 セイナはそのやりとりに一切の興味を示さず、すでに図書室の扉の前にいた。

 

「分かった」


 アレスは積み重なった本を受け取ると、最上段に積まれた本が壁にぶつからぬよう気をつけて扉から出る。

 するとすでにセイナは教室へ向かって走っていた。

 

「急がないとな」


 追いつかねばと、積み重なる本を持ったままアレスは床を蹴り加速

 数秒でセイナの下へと追いついてしまった。

 

「⁉・・・・・・驚いた」


 セイナは一瞬にして追いついて見せたアレスにではなく、加速したのにもかかわらず一冊たりとも本が落ちていない事実に驚いていた。

 

「急ごう。時間がないんでしょ」

「・・・・・・平気なの」

「何が?」


 本当に分かっていない様子のアレスにセイナは蒼の瞳を見張る。

 セイナですらこの山積みになった本を運ぶことはできても運びながら走るなんて芸当十五冊程度が限界だ。一体アレスがどれだけのバランス感覚を有しているのか分からない。

 そしてじっと観察するように蒼の瞳を細める。

 

「・・・・・・」

「どうしたの」


 さすがに射貫くような鋭い視線には感づいたアレスは首をかしげる。

 

「・・・・・・ううん、なんでもない」

「そう」


 そこで会話は終わったが、アイナは教室に戻るまでその視線を外すことはなかった。


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