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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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セイナ・ガイアス

 サルムが軽く構え突っ込んできた。

 その構えからして刺突だろうと読むと、その通り剣を突き出してきた。

 口と違ってその剣筋は素直なのねと面白みの一切ない剣をアリアは一歩横に動き躱す。

 サルムはきっと歯を食いしばると突き出した剣をそのまま横薙ぎに振るった。

 これもまた読みやすい。

 『血塗れ』の襲撃の際に本物の殺し合いを知ったアリアには殺意の乗っていない剣など脅威に感じない。

 剣を立て軽く受け止めると、サルムの瞳が驚きで大きく見開かれる。

 

「口ほどにもないわね」

「っ、まだ終わって」


 サルムにはランディスを馬鹿にした罪がある。『蛮族』というなは甘んじて受け入れよう、しかし、カス呼ばわりされるのは許せなかった。

 

「終わりよ」


 冷ややかな視線を向ける。

 軽く受け止めた剣を押してやると、踏み込んだ体勢で無理に剣を横薙ぎに振るったせいで簡単に体勢が崩れる。

 

「くっ」

「よくもランディスを馬鹿にしてくれたわね」


 崩れ、多大な隙を見せたサルムへとアリアの怒りの一撃が振り落とされる。

 ふるい落とした剣は吸い込まれるようにサルムの頸部へと衝突した。

 

「が⁉」


 その一撃に耐えることのできなかったサルムは意識を失い、剣を落とし倒れた。

 

「勝者、アーク学院アリア」


 その宣言でアーク学院の生徒は一斉に盛り上がった。とにかくウザかったサルムが何もできずボロ負けしたのだ。盛り上がらずにはいられない。

 ゼンは倒れるサルムに近づく。

 

「サルム君、起きてください。サルム君」


 サルムからの返事はない。

 完全に伸びてしまっていた。

 

「ええ、誰か回復魔法を使える人は・・・・・・いませんよね。少々お待ちください」


 それもそうかと、誰も回復魔法が使えないと分かるとカムと共にサルムを闘技場に用意されている医務室へと運び込んだ。

 ちなみに、リーゼロッテは決して手を上げようとはせず知らん顔だった。

 それからしばらくして、戻ってきたゼンとカムは仕切り直して進行を始めた。

 

「では、最後の選手出てきてください」


 ゼンがそう呼びかけるも待合室から出てくる気配がない。

 

「えっと・・・・・・」


 進行役であるゼンまでも困っていると、中から一回戦でタイタスに負けた生徒が出てきた。

 

「セイナさんは」

「それが、眠ってしまわれました」


 会場中がしんと静寂に包まれる。

 

「眠って、え、寝てるって事!?」


 そんなアレスみたいな空気の読めない人物が帝国側にもいるだなんて予想外だった。

 

「少々お待ちください、はぁ、気が重い・・・・・・」


 ゼンは慌てるわけでもなくどこか疲れた様子でとぼとぼと待合室へと向かった。その背中は哀愁漂い、密かにカムが同じ苦労人の気配を感じてほんの少しゼンを演技抜きで労ってもいいかなと思い始めていた。

 

「起きてください。交流戦の最中ですよ」


 待合室から声が聞こえてくる。

 

「・・・・・・はよぉ・・・・・・」

「おはようございます。試合が始まるので早く来てください」

「・・・・・・負けたの?」

「はい、ですからあなた様の番なのですよ」

「・・・・・・そう・・・・・・・・・ふぁ~・・・・・・ん」


 小さな欠伸を漏らしながら待合室から現れたのは美しい長い銀髪を体と共に揺らし、寝ぼけ眼でゆっくりとステージに上がってくる少女、可愛らしい印象を受ける少女の薄く開かれた瞳はサファイアの如き深い蒼

 その独特の見た目に、アリアはすぐに彼女が何者であるか気づく。

 彼女の名はセイナ・ガイアス、この帝国を統べるガイアス皇家の一人である皇女だ。

 セイナは未だうとうとしながらアリアの前に立った。

 

「え~、では気を取り直して・・・・・・セイナ様、セイナ様」

「・・・・・・ん、どうかした」

「剣、剣忘れていますよ」

「・・・・・・眠い」

「それは知っています。ですから剣を」

「・・・・・・取ってきて」

「急いで取ってくるので、それまでにちゃんと目覚めてくださいね」

「・・・・・・」


 分かっていて決して返事をしない。

 マイペース、そんな印象をこの短時間で酷く実感する。

 ゼンが剣を取りに行っている間も時折欠伸を漏らしては今にも寝てしまいそうなほどに目を細める。

 

「持ってきました」

「・・・・・・ん」


 労うことなく模擬剣を受け取ると、その蒼の瞳をまだ寝ぼけながらもその輝きが見える程度に開く。

 

「・・・・・・早く、やろ」


 あんたを待ってたのよ、などとアリアは口に出せなかった。自然と体が身構え、彼女を警戒していた。

 そこで気づく。宵闇の言葉の意味に、彼女こそが宵闇の言っていたやばいやつなのだと

 

「では、始め!」


 その合図で戦いが始まるも二人して動かない。

 

「ふぁ・・・・・・」


 セイナは欠伸を漏らし仕掛けようとはせず、アリアもまたセイナを警戒し動こうとはしなかった。

 

「・・・・・・来ないの?」


 その蒼の瞳はアリアが動けないことを見透かすようにまっすぐ見ていた。

 

「動けないのよ。分かるでしょ」

「・・・・・・そう・・・鋭い」


 素直に応じたアリアにセイナはしっかりと評価した。

 

「・・・・・・一撃だけ受けてあげる」

「何のつもり」

「動かないから、提案・・・・・・早く寝たい」


 舐めているわけではない。妥当な評価での提案、不思議と苛立ちはなかった。

 アリアは一度深呼吸

 

「いいわ、その提案乗ってあげる」

「・・・・・・うん、早くして、眠い」


 あくまで自分は寝たいのだと主張するセイナのそれは紛うことなき本心だった。

 アリアは剣を力強く、一撃で仕留めるつもりで構える。

 アリアがステージを蹴る。

 まっすぐ、セイナの懐に入り込むように剣を振るうかに見えたが、軌道はすぐに変わり、本来の狙いである頸部側面を狙った。

 

「そう」


 一言、呟くとセイナはアリアの剣をいとも簡単に受け止めた。

 

「うん、いい剣、頑張って」


 アリアの剣を素直に賞賛すると同時、セイナはアリアの剣をはじき、その華奢な腕で振るわれているとは思えないほどの速度で剣を薙いだ。

 剣はアリアの頸部を捉え、止まる。

 

「私の勝ち」


 セイナが蒼の瞳を再び眠そうに細めるとその剣を鞘へと戻した。

 

「勝者、ディア学院セイナ」


 ディア学院の生徒たちから歓声が上がる。


 あっけなく終わった勝負にセイナは欠伸を漏らす。アリアが待合室へと戻っていく中、蒼の瞳はその奥にいる黒髪の少年へと向けられるのだった。


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