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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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表の帝国

 アレスは宵闇と共に宿から出ようとすると、入り口近くの少女たちが目に入った。

 

「げ」


 宵闇から嫌な声が漏れる。

 自然と宵闇から漏れ出る闇がアレスの姿までを隠そうとするが、うっすらと陽炎のように姿がくらみだしたアレスを少女たちが見つけてしまった。

 

「あら、アレスお出かけですか」


 アレスを覆い隠そうとした闇が消え、宵闇が小さく舌打ちする。

 

「うん、ちょっと帝都の散策でもしようかと思って、二人は何してるの」

「私たちもよ」

「そうだ。アレスも私たちと一緒に回りませんか」

「いいよ」


 二つ返事で返したアレスに宵闇は無言で抱きつく力を強めたがその意図にアレスは気づけない。

 リーゼロッテの穏やかな笑みが宵闇には至極憎たらしかった。

 そんな無言の火花が散っている状況にアリアはああ、そういうことかと宵闇を見ることはできなくてもなんとなく察して呆れた。

 

「牽制してないで早く行きましょ。時間は有限なんだから、回りきれなくなるわよ」

「それもそうですね」


 行きましょうと、リーゼロッテたちはアレスを連れて宿を出る。

 

「主様、本当にこの小娘たちと一緒に回るのですか」


 小声で、せっかくデートができると喜んでいたのに、邪魔な少女たちが加わり不満を隠せないでいる宵闇が文句を言った。

 

「うん」

「・・・・・・主様はもう少し私だけにかまった方がいいかと」

「分かってるよ」

「むぅ、本当に分かってます?」


 未だ宵闇の不満を消えることなく、訴えるように抱きしめる力をさらに強めた。

 そんな宵闇の不満を消すように街の喧騒が大きくなる。

 

「賑わってる、のよね」

「賑わっていると言うより戦いているという表現が正しいかと」


 三人が歩くたびに、先ほどまで楽しそうに大通りを歩いていた人々が皆アレスたちに気づき、避けるように自然と道を空けていく。それは徐々に広がり、やがて奥まで続く一本道ができてしまった。

 その原因はすぐに分かる。

 

「黒髪よ」

「やぁね」

「おい、誰か憲兵を呼んで来いよ」

「だが、あれ王国から来てるやつじゃねぇの」

「だったら近くにいるやつは『蛮族』か。もっと最悪じゃねぇか」


 皆アレスを見ると恐れを抱く。小さな子供から老人まで、皆が歩いているだけのアレスに恐怖する。


「不愉快ね」


 アリアにまで『蛮族』というだけでまるで敵を見るような目を向けられ。居心地がいいとはいえない。

 分かってはいたが王国が帝国にとって敵であったことに変わりない。それは古い世代に行くほど因縁は根深い。

 

「これでは観光どころではありませんね」

「え?なんで?」


 一人アレスだけはこの視線を気にしていなかった。

 

「なんというか、アレスはアレスよね」

「ですね」


 少女たちが何故呆れているのか分からずアレスはほんの少し困惑するも、すぐに思考は別な事へと移る。

 

「主様」

「ああ、分かってる」


 宵闇が周囲を見回し、気になる視線を見つけるもアレスは対処しない。

 

「そこの学生さん、よってかない!」


 そんな時だ。

 とある店から好意的な声が聞こえてきた。

 三人がその店に注目すると声をかけてきたのはその店の女性店員だった。帝国では珍しく三人へと好意的な笑みを向けている。

 アリアが視線で二人へとどうすると尋ねるとアレスもリーゼロッテも頷き、店に近づくと店の前にできていた少ない人集りが自然と消える。

 

「いらっしゃい。何にする」

「その前に、どうして私たちに話しかけたのですか。他のお客さんが逃げてしまいますよ」

「ああ、それね」


 リーゼロッテの訝しむ視線に女性店員は苦笑した。

 

「こっちも打算があって話しかけたからね。失礼だけど、あなたたち王国で大分偉いでしょ」


 紅髪のアリアは言わずもがな、この世に紅髪の人間は『蛮族』と呼ばれるランディス家しかいない。それに対等に接しているリーゼロッテやアレスもそれなりの位であると見て取れたと、分かりやすく、怪しい理由だった。

 

「そうですか。ところでここは何のお店で」

「ちょっとした面白い飲み物を販売してるのさ。うちの自慢さ、一杯どうだい」

「面白い飲み物ですか?」

「まぁ、聞くより見た方が早い。ちょっと待ってて」


 女性店員は店の奥へと行き、面白い飲み物とやらを取りに行ってしまった。

 

「まだいるなんて言ってないんだけど」

「まぁいいじゃないですか。どうせ、他のお店に入れるか分かりませんし、それに面白い飲み物とやらは気になりますから」


 それからしばらくして、女性店員が戻ってきた。

 

「はい、これ」


 そう言って置いたのは透明な容器に入った透明の液体

 

「水?」

「そう思うよね」


 女性店員はその反応を待ってましたとばかりいい笑みを浮かべる。その表情が何ともイラッとくる表情だったのは口には出せない。

 

「ちょっと、魔力を流してみて、はい」


 店員はアレスたちへと飲み物を手渡した。

 その手渡された飲み物を宵闇はきつく睨む。

 リーゼロッテとアリアは半信半疑に騙されたと思ってその液体へと魔力を流した。

 すると

 

「これは」

「どうなってるの」


 二人して面白いくらいに目を見開いて驚いている。

 なんと透明だった液体が魔力に反応するように色とりどりに輝きだしたのだ。

 

「どう、面白いだろ。その液体はちょっと特殊で魔力を流すとそれに反応して光るんだ」

「これは飲めるのですか」


 明らかに口に含むべきではない色をし始めた液体に二人とも忌避感を強く抱く。

 

「飲めなきゃそんなストローさしてないって、味もおいしいから飲んでよ」


 二人は互いに顔を見合わせると一口飲んでみた。

 

「・・・・・・甘いですね」

「悪くないわね」

「でしょ」


 ほんのりと甘い、それでいてさっぱりしている味わいに、二人の手は止まらない。

 

「楽しんでるところ悪いんだけど、僕のにも魔力を注いでくれないかな」 

「あ」


 そういえばと、今になってアレスに魔力がないことに思い出した二人

 リーゼロッテはアレスから飲み物を受け取ると魔力を流してあげた。

 

「ありがとう」


 アレスは輝く飲み物へと口をつけた。

 その様子を女性店員が厳しく見る。

 輝く飲み物が徐々に減っていき、すぐさま空になった。

 

「速すぎじゃない」

「そうかな?あ、おいしかったですよ」

「え、あ、ありがとう」


 空になった容器を置かれた店員の様子は少し動揺しているようにも見えたがすぐさま持ち直す。

 リーゼロッテたちも飲み終えると容器を戻しお代を支払うと表情を取り繕う女性店員を残し、その場を後にした。

 少女たちから少し離れて歩くアレスに宵闇が話しかける。

 

「体調は大丈夫ですか」

「うん、なんともないよ」

「それにしてもわざわざあんな店員に扮して『ヒュドラ』を使ってくるとは、帝国はなかなかの屑ですね」


 にっこりと笑う宵闇だが、その内心は帝国に対する怒りで満ちあふれていた。

 アレスが受け取った透明な液体には僅かな濁りがあった。それは普通なら分からないような濁り、しかし、アレスと宵闇は一瞬でその違和感に気づいた。

 

「まぁ、安心して楽しめるとは思ってなかったし、この程度の毒で殺しに来るんだったら警戒する必要もないよ」

「それもそうですね。何かあれば私が屑を殺します」

「それは頼もしいね」

「ええ、存分に頼りにしてください」


 表の場で暗殺を企む帝国に対して決して脅威とならないと考える二人だが、まだここは表、帝国の闇の本領はこの程度ではないと知っている。だからこそ、二人は裏を強く警戒するようになった。


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