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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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交流戦

 アレスの登場にサルムたちは動揺を見せると、凍っていた空気が、少女たちの怒りを向ける矛先が変わった。

 

「あなたは空気を読むと言うことをできないのですか」

「え?」

「なんか拍子抜けね」


 リーゼロッテはアレスを責め、アリアは一つため息をつくと席に座った。

 

「おいおい、どうしたんだ」

「これは、どういうことでしょうか」


 そう言って戻ってきたのはカムとゼンだった。

 二人は状況が見えず混乱する。

 

「何をしているのですか、サルム君」


 どうやらゼンはサルムのことを知っているらしい。

 

「べ、別に何でもいいだろ。行くぞお前ら!」

「え、サルムさん。ちょっと⁉」


 サルムは仲間たちを引き連れ、大教室から出て行ってしまった。

 

「で、一体何があったんだ」


 カムが説明を求めるとリーゼロッテが軽く説明した。

 それを聞いたカムは騎士として顔をしかめ、ゼンは顔を青ざめた。

 

「なるほどな」

「申し訳ありませんでした!」


 ゼンは即効で頭を下げた。

 サルムの行動は明らかに不敬であり、『外交官』であるロイン伯爵の子息となれば国際問題に発展しなくとも、今後王国との交渉の際にそれを引き合いに出されれば劣勢に立たされるのは歴然

 

「馬鹿だろ」


 カムは端的に辛辣な評価を送る。

 

「ど、どうかサルム君を許してはいただけないでしょうか」

「彼から謝罪するというのなら許しますけど、そうでないのならこの件をお父様に伝えます」


 ユーレインがこの件を聞けばいいネタだと笑うだろうが、溺愛する娘を馬鹿にした帝国に対して、というよりもロイン伯爵家に対して徹底して交渉において妥協を許さず搾り取れるところまで搾り取るだろう。

 そうなればロイン伯爵家は外交官としての地位を剥奪される。

 

「分かりました。今すぐ彼をここに呼んで」

「いや、止めておこう」


 カムがゼンを制止した。

 

「どうしてでしょう」

「あれは馬鹿だ。謝罪なんて絶対しない。行っても無意味だ」

「で、ですが、それでは」

「そこでだ」


 カムは不適な笑みを浮かべ、内心で燃えたぎる怒りを隠す。

 

「あの馬鹿に思い知らせればいい」


 生徒たちが今まで見たことのないカムの姿に呆気にとられつつも話に耳を傾ける。

 

「思い知らせるって、どうやって?」

「確か明日、互いの生徒がどの程度の実力か見極めるために交流戦をする予定だったよな」

「は、はい。その予定です」

「なら、それを使う」


 カムの考えにリーゼロッテもまた笑みを浮かべた。

 

「なるほど、そこで彼を完膚なきまで潰す。そういうことですね」

「そこまでは言ってないが、まぁそういうことだ」


 笑みを浮かべながら完膚なきまでと、その言葉でリーゼロッテの怒りは伝わってくる。

 

「あれだけ馬鹿なんだ。あいつも出るんだよな」

「で、出ます。三戦のうち二戦目に出ます」


 有無を言わせぬカムの迫力にゼンは思わず口を滑らし、急いで自分の口を覆い隠すがもう遅かった。

 

「なら、アリアは二戦目に出場確定と言うことでよろしいですね」

「え?いいの?」

「はい。心情的にあの男を叩き潰してくれそうなのはアリアなので」

「言葉遣いが・・・・・・何でもないわ」


 いつも丁寧なリーゼロッテの言葉が一部荒々しく変わる。

 無言の笑みにこれ以上は踏み込んではならないと戦士としての勘が警鐘を鳴らし、アリアは黙った。

 

「なら残り二戦だが」 

「あの、説明は」


 勇気を出し、盛り上がる中本来の予定に戻さなくてはというこの仕事を任された小さなプライドからだろうか、恐る恐る訪ねた。

 

「そんなもん後に決まってんだろ」

「ですよね・・・・・・」


 小さなプライドはあっさり潰れた。

 幸薄そうな男ゼンは静かに下がり、息を潜めた。自分は何も聞いていない。何も言っていない。そう自分に言い聞かせながら

 

「話を戻すが、残り二戦だ。誰が出る」

「ルールはあるんですか」


 生徒からの質問にカムは答える。

 

「ああ、一応用意されているが、殺しはなしの基本的に自分の実力なら何でもありの勝負だ」


 それを聞いた自分の腕に自信のある生徒たちは、それなら自分も出られるかもと盛り上がり出す。

 

「で、出たいやつは」


 五名の生徒が手を上げる。

 その中にアレスはいない。興味なさげに、未だ始まらない説明を待っていた。

 

「ちなみにだが、今回の交流戦、向こうはそれなりの実力者をぶつけてくるはずだ。そんな相手にボロ負けしたとなればこの一週間ずっと馬鹿にされると思え。それでも自分の腕に自信があってどんな奴にでも勝てるって自信のある奴はいるか?」


 そう言われると四名の生徒が手を下ろし、一名の生徒だけが残った。

 その生徒は大柄で、制服から浮き出るほどの筋肉を持っている。

 

「タイタスか。勝つ自信があるのか」

「もちろんです!」


 タイタス・ラム、見た目の通りその筋肉から繰り出される重い一撃をカムは授業の時に何度も見た。彼にならば任せられる。

 

「いいだろう。じゃあ、残り一人だが、誰かでる気のある奴はいないのか」


 誰からも手が上げられない。

 完全に話を聞く気のないアレスはというと、宵闇と小声で談笑し始めてしまっている。

 そんな中、静かにダバンが手を上げた。

 

「お、やる気か」

「いえ、勝つことを想定しているのなら俺では不十分です。俺はただ、今回の交流戦に適している人を推薦したいんです」

「・・・・・・なるほどな」


 誰だとは聞かない。ダバンが推薦する人物など一人しかいない。

 

「俺はアレスが適任だと思います」


 その言葉に教室中がざわつき出す。

 アレスは良くも悪くも目立ってしまっている。

 王女と公爵令嬢と共に行動し、ダンジョンでの試験のあと一週間も欠席した。さらには学院内でいつの間にか裏組織のボスとまで言われている。故に皆から煙たがられ、ほんの少しの交流しか持たない異質な存在

 当然、そんなアレスに不満を持っているものも少なくはない。このクラスでも然り

 だが、そんなことを抜きにしてもカムにはアレスをこの交流戦に参加させたくなかった。アレスは帝国軍を殲滅した絶望の使途であり、今回の交流戦、誰が見ているか分からない。もし、このタイミングで狙われれば必然的にアレスの実力が露見し、アレスの望む平穏が乱されてしまう。

 そんなリスクを冒してまでこの交流戦に勝利を望んではいなかった。

 カムがアレスへと視線を向ける。

 無言で、どうだと

 

「いいですよ」

「本当に言ってるのか」

「はい。交流戦?とやらに出ればいいんですよね。それくらいなら別にかまいませんよ」


 まさかの返事にアレスの正体を知っている者は驚き、ダバンは良かったと胸をなで下ろした。

 

「俺は反対だ」


 そう言ったのは出場を決めたタイタスであり、それに続きアレスに反感を抱く生徒たちが呼応した。

 

「静かにしろ」


 カムの声で生徒たちは一斉に黙る。

 

「タイタス、反対するのはいいが、その場合絶対に“勝てる”保証のある最後の一人をお前が選んでくれるって事になるがいいのか」

「それは・・・・・・」


 言葉を詰まらせる。

 相手の実力が分かっていないのに、絶対勝てるだけの実力を持つ者などタイタスは知らない。故に答えられない。

 カムもカムで生徒に対しなかなか意地の悪い質問をしたものだ。

 そもそもこの質問に答えられるわけがないのだ。

 

「ならアレスで決まりだな。他のやつも文句はないな。文句があるのならアレスを倒してから言え」


 その一言で皆が一歩引いた。

 アレスを倒す。そんなこと不可能だと、授業を見ている時から知っている。彼の剣技に追いつけるわけもなく、魔法で攻撃しようにも剣で倒されるのが落ちだと理解できないほどここにいる生徒たちは馬鹿ではない。

 

「あのぉ、そろそろ説明を始めても、よろしいでしょうか」


 空気を読んで影を潜めていたゼンが、さすがにそろそろ時間的にと、遠慮がちに話し合いに割って入った。

 

「ああ、悪いな。話し終えたからもう説明始めてもいいぞ」

「いや、カム先生も説明する側なのでは」


 ゼンは困りながら答えるのだった。


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