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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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銀髪の少女

 宿にて荷物を置いたアレスたちはゼンの案内で再びディア学院に訪れた。

 校舎に入り、生徒が多数集まれる大教室へと連れられた。

 

「えっと、今回の学院交流について説明をするのですが、まだ準備ができていないので少々お待ちください。カム先生は一緒に来てください」


 生徒たちが宿の部屋選びをしている間に落ち着いたゼンは淡々と状況を説明すると、カムを連れて大教室から出て行ってしまった。

 

「準備ができてないって、何してたのかしら」

「こちらは予定通りですし、何か向こう側で問題があったのでしょう」


 この大教室でも近くの席に座った少女たちの雑談が聞こえる。

 アレスはおもむろに席を立ち上がった。

 

「どうしました?」

「ちょっとトイレに行こうと思って」

「そうですか。気をつけてくださいね」


 アレスは一人大教室から出た。

 この学院の生徒たちはまだ授業中なのか、廊下に出てきている人はいない。黒髪であるアレスにとってこの状況は好都合だった。

 さて、これからトイレへ行こうと一歩踏み出したとき、足が止まった。

 闇が静かに揺れる。

 

「主様、どうされました」

「トイレの場所知らない」


 一人教室から出たのはいいがトイレの場所を知らなかった。それも仕方ない。そもそも始めてきた場所で何の案内もなく一人でトイレに行こうなどと無理がある。

 

「どこかに校舎の地図とか置いてないかな」

「入り口になかったのですから、ないのでは」

「それもそうか」


 とりあえず、手当たり次第に探すしかないかとアレスは校舎内を歩き始める。

 校舎内の廊下は円環になっているが教室に接する面だけは多角形となっていた。教室まで曲がっているのでは使いづらいとの判断からなのだろう。それなら、最初からこんな校舎にしなければ良かったのではと疑問を浮かべるも、ここは帝国、帝国には帝国の美があるのだろうと探索を続ける。

 校舎自体が大きく、一周するだけでも時間がかかる。

 そのため階段は四カ所用意されており、階を行き来するのには困らない。

 ここは二階、円筒の中央にある中庭に出る道はない。

 

「本当に何もない」 

「帝国人はやはり馬鹿なのですね」


 気づいたら一周していた。大教室内からは相も変わらず生徒たちの談笑する声が聞こえ、まだ説明は始まっていないようだ。

 

「どうするかな」

「何してるの?」


 その声は宵闇の者ではない。

 ふとアレスは考えるのをやめ、声の聞こえてきた方へと振り向いた。

 そこにいたのは美しい銀髪を背中にかかるほどに伸ばす、サファイアのごとき深い蒼の瞳を眠たげに細める可愛らしい人形のような少女、常人であれば目を奪われるであろうその少女にアレスは首をかしげる。

 

「えっと」

「何してるの?」


 アレスが疑問に思う中、再び少女が疑問を口にした。

 

「トイレを探してるんだ」

「トイレ?・・・・・・トイレはこの階にない」


 ゆったりと話す少女の言葉にアレスはそうだったのかと時間を無駄にしたなと思う。

 

「トイレはこの下、一階にある」

「そうなんだ。ありがとう」

「あなた」


 アレスが早速一階に降りようと移動しようとすると少女がアレスを呼び止めた。

 

「王国の人?」

「そうだよ」

「そうなんだ」


 そこで会話が途切れる。

 アレスが思うのも何だが、マイペースな印象を抱いてしまった。

 

「えっと、もういいかな」

「うん、また会えるし」


 それだけ言うと少女から去って行ってしまった。

 

「何ですか。あれ」

「さぁ・・・・・・それより早くトイレを探さないと」


 一階にあると分かっても、一階のどこにあるかは分からない。それも聞いておくべきだったと後悔しても遅い。

 アレスは一階へ降り、トイレを探すのだった。



 トイレを済ませたアレスは二階へと戻ってきた。

 すると、先ほどは静かだったのに、どこかの教室から騒ぎ声が聞こえる。

 

「何事でしょう」

「とりあえず行ってみよう」


 アレスは急いで騒ぎ声のする教室へと向かった。

 そこはアレスたちが説明を受けるはずの大教室だった。説明が始まったのかと考えるも、この騒ぎ声は説明などではない。喧嘩の類いだろう。

 扉を開き中へと入る。

 

「あんた、もう一回言ってみなさい」

「ああ、何度だって言ってやるさ。『血塗れ』に負けた『蛮族』みたいなカスがイキんな」


 中ではアリアが静かに怒り、その正面には見知らぬ制服の違う男子生徒がいる。

 その男子生徒はこの学院の生徒なのだろう。茶髪で、制服を軽く着崩しており荒々しい印象を受けるその生徒はアリアを煽る。

 その周りでは彼の仲間だろうか、同じようにこの学院の制服を着ている生徒たちが二人をまくし立てている。

 

「何があったの」


 遠目から見ていたダバンに声をかける。

 

「実はな」


 どうやら突然男子生徒、サルム・ロインと名乗るやつが仲間を連れて入ってきて、北方戦争を引き合いに出して王国をけなすような発言をしていたらしい。しかし、そんな発言を王国の生徒たちは負け犬の遠吠えだと思い無視していると勝手にキレたサルムが紅髪のアリアを見つけ、今度はランディスをけなしだした。

 最初はアリアも無視していたのだが、『血塗れ』に負けた先代ランディス公をこれでもかとけなし続けたことでアリアがキレたのだ。

 

「へぇ、そうなんだ。それで、説明っていつになったら始まるの」

「・・・・・・はぁ、なんて言うか相変わらずだな」


 急に話を変えたアレスにダバンは呆れる。

 

「そこまでにしましょう」


 ここでリーゼロッテが割って入った。

 

「なんだお前」

「私はエンシア王国第一王女リーゼロッテ・エンシアと申します」

「ああ、狐の娘か」


 リーゼロッテの笑みが固まる。

 狐とは言わずもがなユーレインのことであり、平然と口にしていい揶揄ではなかった。

 リーゼロッテが黙ったことで、王国の生徒たちがざわつき出す。

 

「狐の娘がなんだ。ここは帝国だ、お前らの領地じゃない。どれだけ向こうで身分が高かろうが知ったことじゃない」


 なんと横暴な、そしてなんと考えなしなのだろうか。

 リーゼロッテの目だけでなくほとんどの者たちにはこのサルムが考えなしの馬鹿に見えた。今の発言は捉え方によっては彼の発言が帝国としての考えだとも聞こえる。

 そうなればせっかく戦争が終わったのに新たな火種を生み、それが燃え広がる可能性がある。

 間違えなくこのサルムという男はそこまで考えが至っていない。

 

「それは、あのロイン伯爵の子息の言葉とは思えませんね」

「は、何とでもいえ」


 馬鹿だ。途方もない馬鹿だ。

 リーゼロッテはここまでの馬鹿を見てしまうと、もう呆れて何も言えない。ただ、父を馬鹿にされたことは許せない。

 

「アリア、遠慮しなくていいですよ」

「そう?」

「はい」


 リーゼロッテの見たこともない迫力のある怒りの笑みに周囲は凍り付き、やる気を見せるアリアにサルムは終わったなと悟る。

 これから乱闘かと、そんな時だ。

 

「おい、アレス」


 ダバンの制止を無視して、アレスが一切空気を読まず元いた席へと戻って行ってしまった。

 

「説明まだかな」

「く、黒髪だと」


 サルムはアレスの黒髪を見て怯え、その仲間たちもまたその黒髪に恐れを抱く。

 

「アレス、今くらい空気を読んでは」

「そうね。今の登場は良くないわ」

「え?」

「主様、私も不本意ながらこの娘たちに賛同です」


 少女たちに睨まれ、いつもはアレスのことを否定しない宵闇が小さく苦言を呈されたことにアレスは首をかしげるのだった。


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