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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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帝国到着

 魔導列車が向かう先はガイアス帝国帝都ディーネ

 帝都は巨大な城壁で囲まれ、中央には王都の王城とは異なり重厚な作りの帝城がそびえ立っている。植物は少なく、通りにあるのは重厚な街灯、どこか堅い印象を受ける町並みだった。

 列車が止まるとカムが部屋にやってきた。

 

「降りたらホームに整列しろよ」


 それだけ言って他の部屋へと行ってしまう。

 

「宵闇」

「はい」


 アレスは席を立ち上がると腰に『呪刀宵闇』を携える。すると宵闇の姿と共に闇に紛れ見えなくなる。

 交流に来た生徒があからさまに武器を持っているとなれば問題が起きる。

 それに、“漆黒の刀”に“黒髪”となれば必ず何らかの問題が発生するだろう。

 アレスは旅行鞄を持つと少女たちの後に列車を降りた。

 

「ここが帝国か」


 あの死戦場で戦うことはあっても、こんな風に帝国の、それも帝都の地を踏むのは初めてだった。

 アレスは他の生徒たちと同様にホームで整列しようとすると、不意に視線を感じる。

 視線のする方へと視線を向けると、そこにいたのはここで働くと思われる駅員だった。駅員と視線が合う。

 

「ひ、やっぱり黒髪だ」

「王国から黒髪だと」


 黒髪、それを見るだけで帝国の人々は自然と足をすくめる。

 

『絶望の使途は光と闇をまとい、黒髪を血に染めながら蹂躙する』


 それは誰かが歌った詩の一説、帝国では自分たちを敗北させた王国の英雄の情報を、情報を意図的に封鎖していた王国よりも一般人に浸透している。

 それこそ『絶望の使途』が恐怖の代名詞になるくらいには

 故に帝国の人々は黒髪に過剰に反応する。

 

「主様、あの屑殺しますか」


 宵闇が隠しきれぬ怒りのこもった声で耳打ちしてくる。

 

「いや、いいさ。帝国に来たんだ。これくらい受けても不思議じゃない」

「そうですか」


 宵闇は再び闇に消える。

 

「全員出たか、点呼するぞ」


 カムが列車から出ると点呼を始めた。

 全員そろっていることを確認すると、懐から一枚の紙を無造作に取り出し、それを見ながら駅のホームから出口へと向かった。

 

「やっぱり王都とは違うのね。なんだか違和感を感じるわ」

「文化の違いですから仕方ありませんよ。まぁ、それだけではないみたいですけど」


 リーゼロッテは周囲を見る。

 基本的に視線は黒髪であるアレスへと集まるが、それも数瞬、ほとんどの者は視線を外すなり、物珍しげに生徒たちを見るが、一部に明らかに好意的ではない視線を向けてきている者がいた。

 

「にらみ返すなよ。ああいうのは無視だ」


 カムが二人の会話に割って入り、忠告する。

 長年続いた戦争が終わったからと言って、すぐに友好国とは帝国のトップたちが言っても民がどう思うかは別だ。どれだけ友好だとアピールしても民の中には長年の因縁を、それも敗戦国となってしまったがために王国を敵視する者はそれなりにまだ残っている。

 そう簡単に友好国とは受け入れることはできやしない。

 駅から出ると奥の方から生徒たちの一団に気づいたのか、きちんとした服装に身を包んだ茶髪の男がこちらへ向けて走ってきた。

 

「あなた方が、王国から来た方々ですか」

「ああ、そうだが、お前は誰だ」


 カムは教師としていつもと変わらぬ態度で、近づいてきた男に問いかける。

 

「これはすみません。申し遅れました。私はディア学院で教師をしていますゼン・ロウと申します。あなた方の案内を任されました者です」


 ゼン・ロウと名乗った男は今回の交流の担当者なのだろう。

 どこか幸薄そうな雰囲気を醸し出すゼンは疲れているのか目の下に熊を作っている。

 

「そうなのか。なら、案内を頼めるか」

「はい、それが私の、ひ⁉黒髪」


 ゼンはアレスを見た瞬間情けない悲鳴を上げた。

 

「おい、早く案内しろ」

「は、すみません」


 カムにきつく睨まれ、ゼンは正気を取り戻したが未だにチラチラとアレスを見ては視線を合わせると小さく悲鳴を漏らしすぐさま視線を外した。

 

「アレス、お前何かやったのか」


 近くを歩いていたクラスメイトであるダバンが話しかけてくる。

 

「さぁ、帝国に来るのも初めてだし、何かした覚えもないからさ。たぶん、帝国の風習なんじゃない」

「それならありそうだが、大変だな」

「まぁ、このくらいなら別に気にならないからいいよ」


 怯えられる視線には慣れていると遠回しの言葉にダバンは気づかない。

 

「それにしても、あの教師は大丈夫なのか」


 ダバンは帝国の教師を見る。

 カムに睨まれ、おどおどしながら歩く姿は何とも情けない。

 

「大丈夫じゃないかな」

「そうか」

「うん」


 アレスにはあの教師が唯々黒髪に、絶望の使途かもしれないアレスに怯えているだけではない。明らかに警戒している。淡々と戦場で出会った敵のように、怯えながら、弱者を騙る者に見えていた。

 

「主様、あれ」


 それは宵闇にも同じ事だった。

 

「ああ、経験者だ」


 あの教師はすでにこちら側、実践を知るもので間違いない。

 

「ん?何か言ったか」

「いや、言ってないよ」


 それからしばらく歩くと、大きな建物が見えてくる。

 

「ここです」


 王国の学院とは違い、校舎は円筒のような形になっており、空へと伸びている。外から見えるだけで、七階以上はある。広大な敷地のほとんどがグラウンドとなっており、この学院の生徒と思わしき者たちが剣術や魔法の授業に励んでいる。

 

「大きいわね」

「この校舎は七階建てになっておりまして、あ、皆様がこれから暮らしていただくのは少し離れた所にある宿です」

「なら、まずそっちに案内してくれないか。荷物があるんだ」

「そうですよね。すみません。では、こちらです」


 ゼンは何度も頭を下げると、アレスたちを近くの宿へと案内した。

 やってきた宿は四階建ての豪華な宿だった。王族や王国でも有数の名家の子息たちが来るのだから当然といえば当然だろう。

 

「一人一部屋となりますので、先生に決めていただければ」

「お前たちで好きに決めろ」


 すぐさま生徒たちに丸投げした。

 

「俺は一階の一番端の部屋貰うからな」


 さっさと自分の部屋だけ勝手に決め高無に生徒たちからブーイングが起きたのは言うまでもない。しかし、そこはカム、当然無視して部屋に行ってしまった。

 取り残された生徒たちとゼン

 

「え、え~と、決まったら教えてください。それでは」


 ゼンは颯爽とカムの部屋へと逃げて行ってしまった。

 残された生徒たちは外国でもカムはカムかとイライラしながらもカムの放任主義に慣れすぎたことですぐさま自分たちの部屋を決めた。

 ちなみにだが、カムの隣の部屋は当然人気がなく、外れの部屋にされるのだった。


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