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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第三章 学院交流
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変わる景色

 カムからの手紙を受け取ってから約一週間が経っていた。

 アレスは大きな旅行鞄を持ち、王都にある駅のホームへと訪れていた。今日は帝国との学院交流のために帝国行きの魔導列車に乗りに来ていた。


「おはようございます」

「おう、速く入れ」

「分かりました」


 すでに待機していた列車の側入口近くに立っていた教師のカムに挨拶をして列車の中へと乗り込んだ。

 列車の中は定員四名による個室となっており、個室内は向かい合うような席になっている。アレスは一つの部屋の扉を開いた。

 中にいたのは紅髪を後ろで結び、車窓から見える王都の景色を退屈そうに眺めるアリアと、対照的にその隣に姿勢良く座る金髪のリーゼロッテがいた。

 二人の視線が入ってきたアレスへと向く。

 

「おはよう」

「おはよう」

「おはようございます」


 すでにいた少女たちと挨拶を交わすと、旅行鞄を地面に置き、腰に下げていた『呪刀宵闇』を膝の上にのせ二人と反対の席へと座った。

 

「やはり今日も連れているのですね」


 リーゼロッテはアレスの膝上に乗せた宵闇を睨む。

 

「嫉妬ですか~」


 そうおちょくりながら宵闇は姿を見せると、アレスに刀を少しどかすようお願いし、自らが膝上に座った。

 

「今すぐそこからどきなさい」

「え~、何故でしょう。私は主様といつも通り一緒にいるだけなのですが」


 わざわざ敬語まで使い、さらにはわざとアレスの首に手を回し近づく宵闇にリーゼロッテが暗い笑みを浮かべる。

 

「その喧嘩どうにかならないの」


 アリアはもうすでに見慣れ始めた光景に何度目かの呆れを覚えた。

 ここ一週間、宵闇とリーゼロッテが出会うとこうして火花を散らせていた。この件に関してアレスはもう完全になれたと干渉はせず放っており、気を遣うのはアリアだった。

 

「それにしても、本当に来たのね」

「何が?」

「あんたよ。わざわざ敵の懐に行くようなことして、大丈夫なの」


 アリアはてっきりアレスはこの交流を休むものだとばかり思っていた。

 

「さぁ」

「さぁって、自分が狙われてる自覚あるの」

「あるよ。でも、どうなるかは行ってみなきゃ分からないしさ。それにもし襲撃されても宵闇がいるから問題ない」

「主様、好き」


 嬉しくなった宵闇は淡く頬を染め、愛を呟く。

 それを見てリーゼロッテの笑みがまた暗くなる。

 

「僕なんかより、君の方がよっぽど戦う気満々に見えるんだけど」


 アレスはアリアの制服のスカートとアリアの持ってきた鞄へと視線を向けた。

 

「はぁ、バレバレって訳ね。短剣二本とお兄様からいただいたちょっと“特殊な”長剣一本が鞄の中ね」


 スカートの中にある短剣二本をたたいてみせる。

 今のアリアの表情には覚悟が垣間見えた。そのちょっとした表情の変わりようにアレスは気づく、気づかずにいられなかった。

 

「君はその道を選んだんだ」

「これでも、悩んだのよ」


 アリアは自嘲する。

 

「でも、結局私はランディスだった。お兄様の言うとおり、割り切ったら楽になった。武を極める精神的な過酷さを知ってもやめられない。止まれない、私はランディスの教え通り武を極めたい。自分の歩いてきた道を否定したくないだけなのよ」


 とんだ頑固者でしょと

 アリアはあの日から僅か一日で立ち直った。自分が歩みたい道、武勲を立て、ランディスとして武を極めたいという想いには逆らうことはできなかった。

 だから、覚悟を決めた。人を殺すことを割り切り、武を極めるという目標に突き進むと

 

「そっか。知ってなお、それが君の出した答えなら僕は否定しないさ」


 アレスはもうそれを否定しようとはしない。

 覚悟を決めた人間の言葉なら、それがその人にとって進むべき道だと友に教わった。

 一方でアリアはアレスの言葉に目を丸くさせていた。否定されると思っていた。アレスはあの死戦場で心を壊した、だからこそ争いに進む者を嫌うとそう勘違いしていた。

 

「そ、そう?」

「人が覚悟を持って決めたことに他人がとやかく言う資格なんてないのさ。まぁ、頑張って」

「あ、ありがとう」


 まさか、応援されるとは思っていなかったアリアは言葉に詰まってしまう。

 

「主様」


 そうしていると酷く冷たい声が響いた。

 

「どうかした?」

「私を放ったらかしにして、ほかの女と楽しく談笑とは一体どういう了見でしょう」

「それはさすがに無理があるでしょ」

「無理じゃありません!事実です!」


 ぎゃぁぎゃぁ騒がしくなった宵闇にアレスは苦笑し、理不尽な嫉妬を軽く受け流していく。

 次第に宵闇の調子が起きていき最終的には自己否定に入ってしまった。

 

「主様はどうせ他の女の方が」

「宵闇以上に信頼してる子はいないよ」

「主様!」


 ぱぁと表情を明るくした宵闇はアレスに勢いよく抱きついた。

 

「何ですか、この茶番」


 過去何度見た光景だろうか、リーゼロッテは不満をあらわに頬を軽く膨らませこの茶番にいらだっていた。

 それからしばらくして、列車が動き出す。

 

「出発ですね」

「まさか帝国までの鉄道が開通するなんて思ってなかったよ」

「開通したのは二年ほど前からですからね。それに急ピッチで進められたことなのでまだ一般の方を乗せられるほど列車が通っていないですし」


 帝国まで続く線路は一本のみ、故に一つの列車が帝国と王国を行き来するという、まだ一般の旅客を乗せての移動とは行かないのだ。

 ただ国境付近までの路線は何本も通っている。

 

「そっか」


 アレスは車窓から三年前から変わらぬ見慣れた風景へと視線を向けた。

 ここから国境までの路線は北方戦争の際に兵站を運ぶために発展した。そのため必然的に路線が多くなっているのだ。


 戦場へと向かう死の列車、そう揶揄する者も過去にはいた。しかし、今となってはこんな風に戦場と無関係な者たちを乗せる列車となっていることにアレスはなんともいえない思いが沸いてくる。

 平和になったのかと、あの駆け抜けた一年はもう過ぎ去った過去なのだと理解させられた。

 その死の列車が今度は友好国となった帝国に向かうという何とも皮肉な展開

 これをあの死戦場で死んでいった者たちが知ればどう思うか、もはや分からない。

 それからしばらくして、見えてくるのは自然豊かな大地、かつて死戦場と呼ばれた平原

 

「変わったな・・・・・・」


 血のにおいが絶え間なく香るあの戦場が、今となっては自然豊かな草原となっていることに何も感じないわけがない。

 

(フリー、君がこの光景を見たら一体何を思うんだ)


 そう、答えの聞こえない問いを


 もういなくなった親友に


 アレスは自らが殲滅した者たちが住んでいた帝国へと入国した。


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