ああ、死んでしまったのか
「そう、ヴェイグは死んだんだ」
少女はそう呟いた。
場所はとある屋敷の一室、そこにいるのは少女ただ一人のみ
しかし、少女はまるで傍らにいる何かに話しかけているようだった。
「・・・・・・別に」
少女はふんとそっぽを向き、静かにベッドの上に倒れた。
「・・・・・・そっか・・・・・・死んじゃったんだ」
思い出されるあの騎士の顔
彼は自分にとって祖父のようで、昔から知る頼りになるお爺ちゃん、戦場で数々の戦功を立てた歴戦の猛者
そんな彼が死んだ今、少女が悲しみに暮れることはなかった。
ただ、漠然としたヴェイグの死を実感し噛みしめる。
最初に送り込んだランドルフの時と同じ、どれだけ関係が深かろうが浅かろうが死んでしまった後に思うことは同じ
ああ、死んでしまったのか
事実を確認するように淡々と思う。それだけ
心が冷たい
そんな風に思ったことなど少女は一度もない。そんなこと考えている余裕などない。
そんな時だ。誰かが戸をたたいた。
傍らにいた気配は消え、少女はベッドから起き上がった。
「誰」
「シェイでございます。入ってもよろしいですか」
「いいよ」
知己の人物に入室を許す。
扉が開かれ中に入ってきたのは、黒の外套をまとった不気味な人物、フードを深くかぶっているせいでいつもその顔を見ることはできない。しかし、少女にはそれが知己であることがなんとなく分かっていた。
「計画は順調ですか」
「ヴェイグが死んだ」
「なんと・・・・・・帝国の英雄が、そうでしたか」
シェイは見えぬ顔で何やら考え出した。ヴェイグの死を悲しむそぶりは見せず、何か思惑があるように思考する姿に少女は何も思わない。
「ねぇ、次はどうすればいい」
この計画を企てるに至った人物に尋ねる。
「あなたから貰ったヒュドラも全部使ったよ。でも、負けた」
「全部か⁉いや、申し訳ございません。全部ですか」
シェイは思わず素で声を荒げてしまったが、すぐに取り繕う。
「うん」
少女のその返事にシェイは思考する。
シェイが少女へと渡したヒュドラは五十ミリリットルの小瓶が満タンになる程度、しかし、その量を全て使えば、たとえあの『絶望の使途』でも死ぬと考えていた。だが、実際には死ななかった。それどころか帝国の“表”の最高戦力である英雄を失った。
シェイは思考する。これからどうするべきか、彼は静かに少女へと視線を向けた。
少女は“植え付けられた”憎悪を宿す蒼の瞳を向けている。
「ふむ・・・・・・こうなれば、姫様自ら絶望の使途を討伐しに行った方がいい」
「私が?・・・・・・でも国から出られない」
「姫様自ら王国に出向くなど、そんなことする必要はありません。聞けば、『絶望の使途』は学生の真似事をしているというじゃないですか。ならばそれを利用すればいい」
「利用?・・・・・・どうやって?」
「聞いたところによると、我が帝国の学院と王国の学院が交流もかねて、一クラスずつ交換するという話が出ているそうじゃないですか」
「そうだっけ?」
「姫様、あなたの学院のことですよ」
「初耳」
少女は興味のないことに関して聞く耳を持たないというなんとも厄介なきらいがある。
「・・・・・・こちらの調べによると、『絶望の使途』のいるクラスには第一王女と蛮族の娘がいるそうです」
少女のきらいを直そうとはせず、シェイは話を戻した。
「王国は帝国との友好関係をアピールするためにも王女や蛮族のいるクラスをこの交流に選ぶでしょう」
「じゃあ、私も送られるんじゃないの」
「そこはご安心ください。あなた様が送られぬよう、すでに根回しは終わっております」
「じゃあ、どうやって殺すの。人の目があるところじゃ殺せない」
「そこもご安心を、我々が姫様に最高の舞台を用意してみせましょう」
「そう」
「しかし、一度で仕留めるのは難しいかと、ですから姫様の舞台が整うまで我々でやつにちょっとした仕掛けをしても」
「いいよ。それで殺せるなら」
「お任せください」
シェイは恭しく頭を下げ、誰にも見えることのない口の端をあげた。
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