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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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極致一刀

 誇り高き騎士が飛び出す。

 身体強化魔法を一切の際限なく全力で高めた。

全身全霊、全てをこの時に賭ける。そういった気概が伝わる強い輝きの瞳

なれば、それを受け入れるのが彼との約束、彼の意志

 

「宵闇」

「はい、主様」


 アレスは宵闇に抱き着かれたまま、自然体になる。

 風の流れを、魔力の動きを、大地の力強さを、自然を感じ取り目を瞑る。

 

「主様は集中している最中、邪魔をするな」


 宵闇が手を前へと突き出すと、闇があふれ出た。

 闇はアレスとヴェイグの間に壁を形成する。

 

「これが闇、だがその程度!」


 ヴェイグが本気で銀剣を振るう。

 次の瞬間、銀剣に風が巻き込まれ。そのまま闇の壁へと衝突した。数舜拮抗したが、すぐにその拮抗は崩れ、銀の輝きが闇を切り裂いた。


「ち、馬鹿力が」

「伝説の呪刀に褒められるとは、嬉しいぞ!」


 ヴェイグは笑っていた。それがさらに宵闇を苛立たせる。


「小僧は死んでろ!」


 宵闇の放つ闇が細かく分かれ花弁のように舞う。

 闇の花弁は一瞬制止すると、直後ヴェイグへと一斉に襲い掛かった。

 一つ一つが細かい花弁が縦横無尽に舞い踊り、全方位からヴェイグへと飛んでいく。


「花びらか、しかし!この程度の攻撃、あの死戦場に比べれば温すぎるわ!」


 確かに舞う花弁は細かいがその分威力も低い、この程度の攻撃、魔法の飽和攻撃を受けていたあの死戦場に比べれば生温い。


「水神様、お力をお貸しください」


 水神の加護が発動、ヴェイグの周囲に水の膜が発生し、闇の花弁を全て受け止めた。

 その水の膜は魔法により発生した水、しかし、ただ発生させたわけではなく、水神の加護により水系統の魔法効果が上昇、闇の花弁を散らせていく。


「水神の力、っなら、これで」

「宵闇、一旦退け」


 主の声が聞こえ、宵闇は発していた闇を沈める。

 アレスは宵闇を構え、流れるままに踊った。軽やかにステップを刻み、襲い来るヴェイグへと洗練された動きで間合いを詰めた。


 あまりに自然なその動きにヴェイグが反応できたときには、すでに懐に入り込まれていた。

 いつの間にか腰に提げていた鞘に刃をしまい、身を低くさせ静かに漆黒の刃を抜き放つその時を待っていた。

 まるで、獲物を静かに待つ獰猛さを潜めた獣のような化け物に、ヴェイグはあの死戦場ですら感じたことのない凄まじい悪寒に襲われる。これはまずいと本能がこれでもかと警鐘を鳴らした。


「一刀、閃」


 少年の呟きよりも速く漆黒の刃が抜き放たれたのと同時、ヴェイグは後方へと跳び水魔法を発動、自身とアレスの間に水の膜を作り出し闇の花弁を受け止めたときのように防ごうとするが、アレスの一撃はそう温くはない。

 水の膜へと触れた漆黒の刃は何の抵抗もなく膜へと切り込んだ。

 その瞬間を見たヴェイグはすぐさま銀剣を立て、受け止める。


「浅い」 


 満足のいく鋭さを得ていない刃にアレスはぼやく。

 まだ足りない。自身の剣はこんなものではなかったはずだと、刀を振るう感覚を思い出していく。


 至らなければならない。


 その一心でアレスは宵闇を引き戻し、再び漆黒の刃を振るう。

 だが、その一撃は先ほどよりも鈍く、遅い。


 心が乱れる。


 心がない今、余計な考えなど捨てて、“至った”一撃を持ってして彼を逝かせることができるとアレスは考えていたが、その考えは甘かった。

 切ることに集中しなければと思うも、ヴェイグから感じられる騎士としての意思が、気迫が、アレスの思考を乱す。

 

「油断をするな!」


 騎士としての誇りか、情けをかけられた相手に対しての憤りか、一撃を加える前にヴェイグの激高が飛ぶ。

 アレスはその声にハッとなるも、躱すことはしない。いや、必要がなかった。

 

「主様に死角があるわけないでしょ」


 宵闇から発せられた闇がヴェイグの振るう銀剣へと纏わり付いた。

 

「ぬぅ」


 銀剣がまるで何か巨大な力に物理的に捕まれたようにピクリとも動かなくなった。

 

「私と主様は二人で一つ、主様が不調なときは私が、私が不調なときは主様が、そうやって今まで戦ってきたの。だから、勝てると思うなよ」


 銀剣に纏わり付いた闇の力が強まる。

 銀剣から嫌な音が鳴り出す。

 ヴェイグはすぐさま水魔法で生成した一振りの剣を作り出した。その剣を握るとすぐさま銀剣にまとわりついた闇を切り裂く。

 一度体勢を立て直すのが正解だったが、それを化け物たちが許しはしない。

 闇を切り裂いたのと同時、下から掬い上げるように振るわれた漆黒の刃を間一髪のところで躱すも、切り返された漆黒の刃が自然な軌道で首を狙ってくる。

 ヴェイグはそれを横目に見て、首の薄皮が切れるぎりぎりのところで躱した。


 生きていれば何とでもなる。そうあの死戦場で学んだものは皆、往生際が悪い。


 分が悪い?


 それがどうした。


 格が違う?


 知ったことか。


 あの死戦場で誰しもが幾度となく理不尽に襲われている。その理不尽に最も晒され生き続けた諦めの悪い男、それこそがヴェイグだった。

 執念による勝利、それをつかみ取るため年甲斐もなく、感情をむき出しに騒ぐ子供のように暴れだす。

 ヴェイグの中に眠っていたすべての魔力が猛り狂う。


「うぉぉぉ!!!」


 全魔力を身体強化魔法に振るったヴェイグは水魔法による守りと奇策を捨て、単純な己自身の力と剣の腕のみで勝負する。

 銀剣の柄がヴェイグの力に耐えきれず悲鳴を上げるも、意思でもあるように主人のその全身全霊の輝きに陽光に照らされる光が銀色に強く反射する。


「ふん!」


 銀剣が振り下ろされる。

 その一撃は風を勢いよく巻き込み繰り出された一撃

 アレスと宵闇はヴェイグの魔力が猛り狂った瞬間後退を選ぶ。

 ヴェイグが振るった一撃はアレスを切りつけることなく大地へと叩き込まれる。

 直後、地響きが発生し、大地が振るわれた剣を中心に大きく砕けた。

 土煙が舞う中、ヴェイグは砕けた大地の中心にて、最後の輝きを発する。

 英雄と呼ぶにふさわしい風格を蘇らせた今のヴェイグは全盛期をも超える。今、この瞬間こそが帝国の英雄の全盛期だ。


 後退したアレスたちは、砕けた大地の上に着地し、ヴェイグの姿を見極める。


「老人のくせに絶好調みたいですね」

「これが最後のつもりなんだろ」

「それじゃあ厄介な特攻と同じじゃないですか」


 宵闇は面倒だとげんなりしながらアレスにもたれかかる。


「調子は」

「微妙です。まだ十分な力は出せません」

「そっか」


 仕方ないかとアレスはこれからの戦いを思い描く。

 二人して久々の戦闘で“調子が出ない”というのに相手は今が絶頂、その差は一般的には歴然


「後どのくらいでいけそう」

「む、主様はあの老人に技を見せるおつもりですか」

「ここで試すのも悪くないだろ。それに、あの騎士は全てを賭けて立っている。なら俺たちもそれに応えるのが筋さ」


 まるで感情からくる言葉のように思えるが、それは記憶の中にある親友の言葉、全力には全力で答える。


「面倒ですけど、主様が言うならば、タイミングは」

「任せる。君が準備できるまでには調子を上げよう」

「私に気遣いを、好き」


 宵闇はうっとりとアレスの横顔を眺めた。

 

「食っていいぞ」

「本当ですか⁉」


 宵闇は瞳を輝かせた。

 アレスと出会えた時の喜びとは違う。口に涎があふれ出し、うっすらと頬を染めアレスの唇を見た。

 

「吸うだけだ」


 その視線に気づいたのか、アレスは一応注意する。すると想像通りだったらしく、宵闇は頬を膨らませ不満をあらわにする。

 

「むぅ、主様のいけず……ですが」


 宵闇は恍惚とした表情でアレスの首に吸い付いた。

 アレスは徐々に体の中から何らかの力を吸い取られるのを感じる。こうなってしまうとしばらく宵闇は動けない。


 一対一

 

「話はすんだか」

「ああ」


 アレスは砕けた大地を力強く踏みしめると、勢いよく前へと跳んだ。

 宵闇を大地と水平に両手で持つ。

 対してヴェイグも勢いよく大地を蹴り砕き、跳びだした。

 銀閃と闇が衝突、直後発生する衝撃波に砕けた大地の欠片が吹き飛んだ。


 アレスは刃がぶつかり合うのを最小限に、切れないと判断したら刀を引き二撃目にすぐさま移る。

 繰り出された斬撃は徐々に研ぎ澄まされ速くなる。だが、それは攻撃ではなかった。

 その凄まじい連撃に対し防御を捨てたヴェイグは一撃を持って切り伏せようと一撃が途方もなく重く、触れた瞬間砕かれると錯覚してしまうほどの一撃、アレスの攻撃はヴェイグの重い一撃の威力を減衰させるための連撃


 まだ足りない


 まだ届かない


 だが、着実に一歩、一太刀振るうたびに渇望する一撃への道を切り開いていく。

 

「貰ったぞ!」


 ヴェイグの声が響いたのと同時、威力を減衰しきれなかった銀剣がアレスと宵闇へと襲いかかる。

 宵闇はまだアレスの力を吸収している最中、ここで宵闇を頼ることはできない。


 銀色の輝きを見たアレスは静かに呼吸を整える。

 あのろくでなしの師から教わった一撃を脳裏に強く思い出させる。

 師曰く、一刀を持って全てを切る極致、それこそがお前に求められる技術なのだと説かれたあの時から、アレスはその一撃に至るために刀を振るい続けた。

 そして辿り着く。


 その一撃で何度あの死戦場で猛者を殺したことか


 あの一撃こそがアレスの求める全力、目の前の騎士に対する手向け


 その一撃を繰り出そうとした時、空が闇に覆われた。


 輝き一つない闇

 不気味な世界にヴェイグは振り下ろすはずだった刃を止め、後退、直後ヴェイグのいた場所に闇の棘が飛びだした。

 もし、アレスを殺そうと銀剣を振り下ろしていたのなら、届くことなく闇の棘に串刺しにされていた。魔力を感じることのできない一撃、ほぼ直感で躱したことにヴェイグは冷や汗を流す。

 

「甘美でした」


 力を吸い終えた宵闇がうっとりとした声を漏らす。

 宵闇が内包する力が急激に跳ね上がり、限定的があるとはいえ、女神の光すら届かせぬ闇を作りだした。

 

「ふふ、やはり最高です」


 宵闇から禍々しい闇があふれ出す。

 

「主様」

「ああ」


 宵闇はアレスからの返事に笑みを浮かべた。



―――棘影



 闇が大地に広がる。

 ヴェイグの足下まで広がった闇から、無数の棘が飛びだした。

 発動するまでの間隔がなかったその闇にヴェイグは反応することができず、体を貫かれた。

 

「ぬぐ、だがっ⁉」


 刺さった棘が内部でさらに枝分かれする。細かな棘がヴェイグの体の内部に侵食し、引き抜くことができない。

 棘に縫い付けられたヴェイグはもう動くことはできない。

 アレスは宵闇を腰に構える。

 振るうのは至った一撃、全てを切り伏せる必殺の一撃

 

「極致一刀」



―――閃



 一瞬にしてヴェイグの間合いに入り込んだアレスは宵闇を振るい上げ、抜きざまにヴェイグを切った。

 全てを切る必殺の斬撃は何者にも防ぐことはできない。それはたとえ、どれだけ体を強化していようが関係がない。一刀を持ってして切り伏せる一撃

アレスは血のついていない刃を鞘へと戻す。

 その直後、ヴェイグの胸から鮮血があふれ出した。


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