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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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騎士の誇り


『三大呪刀』


 それはかつて極東にある国で創られた災厄の力、禁忌の呪法により生み出された忌々しき三本の刀

 そのうちの一刀である『呪刀宵闇』


 かつてアレスが偶然彼女の封印場所を見つけ、使用者として認められてから愛用し、使徒剣にも勝るとも劣らない人が操れる最高の武具、しかし、使用者は呪われると言われるいわくつきの武器、事実呪刀の使用者はすぐに死んでしまったり呪刀ごと行方不明になったりしている。

 アレスに抱き着いている幼子は宵闇の本体。しかし、その実体は謎、一説には魂が封じられた武器と呼ばれており、この幼子が宵闇の魂と呼ばれることもあるが真偽は定かではない。

 

「ああ、主様、お会いしたかったです」


 宵闇は抱きしめるアレスの体温を感じ思う存分アレスと会えなかった寂しさを癒していた。

 

「俺も会いたかったよ」

「主様の香り、主様の体温、主様のお声、ああ、体中が癒されます」


 幼子らしからぬ蕩けた表情で過剰なまでにアレスの存在を感じ取る宵闇はその禍々しさと同等の狂気を見せていた。

 

「やはり妄想の主様では足りません。本物でないと、分かってはいましたけど、もう主様なしでは生きていけません」


 狂愛とでも言おうか、宵闇はアレスに心酔していた。

 殺気立った戦いが嘘のように宵闇の隠し切れぬ愛によって空気が塗り替えられる。

 

「私、再び主様に会えたらお伺いしたいことがあったのです」

「なんだい」


 アレスは横から笑みを見せてくる宵闇に視線を向けた。

 

「どうして私ではなくあの女の剣を使ったのですか」


 直後空気が一変する。


 先ほどまで甘い空気が流れていたはずなのに、一変して極寒の冷気が漂い出す。

 宵闇の澄んでいたはずの漆黒の瞳はどす黒い感情に濁り、無言で笑みを浮かべ主を圧する。その圧は周囲にも振りまかれていた。

 

「浮気は許さないと、言っていたはずですよね」


 にっこりと、惚れ惚れする笑みを浮かべすでに許す気が無いのか周囲に闇を振りまいている。

 

「弁明はありますか」

「彼女の剣を使ったのは、あのタイミングでは一番有用だと思ったから」

「へぇ、私よりもですか」


 それは地雷だった。


 自分よりもほかの女の方がいいのか、と


 宵闇から溢れ出る闇が濃くなる。

 

「言っておくけど、俺が一番信用してるのは宵闇だから」


 それは感情を失ったと思い込んでいてもゆるぎない真実、数々の死線を共に潜り抜け、私生活でも長年離れずに暮らしていたために築かれた絆はそう簡単に壊れやしない。

 

「も、もう、主様は、嬉しいです。ふふ」


 先ほどまであれだけ怒っていたのに、すでにアレスの言葉にメロメロだった。

 なんとチョロいことか

 過去に見ていたいつものやり取りに、リーゼロッテの目がこれでもかと厳しくなり、カムは安堵しつつ呆れ顔だ。

 一方で宵闇の存在を知らなかったアリアは訳も分からず口をポカンと半開きにしていた。

 

「それが噂に聞く『呪刀宵闇』か」


 ヴェイグは宵闇の姿を見て銀剣を強く握りしめる。

 その耳に入れるだけで気持ち悪い声を発した屑に宵闇は視線を流す。

 

「帝国の屑が私の名を呼ぶな」


 先ほどまでアレスに見せていた態度とは明らかに違う。心底侮蔑する視線を向け、その闇に抱え込む殺意をむき出しにした。

 

「これほど冷酷な瞳、武器は使い手に似るのだな。やはりあの方の命は正しかった。ここで貴様らを殺すのが帝国の――――っ⁉」

「黙れ、下郎」


 宵闇から凄まじいプレッシャーが放たれる。

 

「よくも、帝国の屑が主様を冷酷と言えたな。“非道な策略”で主様のお仲間を皆殺しにしたくせに」


 宵闇はあの死戦場の光景を思い出す。

 広がるのは敵味方関係なく死に絶えた地獄、その中ですでに息絶えた一人の青年を抱きしめ涙を流し哭いた主の姿

 

「魔粉を取り込ませすぎた魔人に特攻をさせ、強化人間に過剰量のヒュドラを持たせ気体化させ私たちに吸わせ、あまつさえ、あのような胸糞悪い兵器まで持ち出しておきながら、主様が冷酷?いったい誰のせいだと思っている!」


 宵闇は声を荒げ激昂した。

 それは死戦場にてアレスたちの部隊が最後に戦った相手、アレスを殺すために過剰に投入された帝国の非人道的な兵器の群れにアレスの仲間は例外なく死んで逝った。

 

「ああ、やはり主様の命を聞かず、あの時帝国は滅ぼしておくべきでした」


 今さらながら、アレスの指示に従い大人しく闇の中にいた自分の行動を悔やむ。再び帝国という主の心傷を思い出させる存在が現れた今、その後悔は宵闇の心を強く傷つけた。

 

「あのような屑どもは早々に」

「宵闇」


 激昂し、暴走しかけている宵闇の耳に落ち着いた声音がすんなりと入った。

 

「止めるんだ」

「しかし、あれらは」

「落ち着け」


 アレスは宵闇の頭を優しく撫でる。すると少女はほんの僅かに不服そうでありながらも気持ちよさそうに目を細めた。

 

「あれは仕方なかったことだ。戦争で人が死ぬなんて当たり前、フリー達もその死人の中に入っただけ、怒ったところで意味がない。それに俺たちはあの後、実行した奴らは全部殺しただろ」

「……はい」

「なら、もうぶつけるところはない。戦争は終わったんだ。だから、その憎悪を向けるのは止めろ」

「……」


 宵闇は無言でアレスを抱きしめ、黙り込んだと思えば、その鋭い視線は未だヴェイグへと向けられていた。

 

「さぁ、やろうか。お前の望みは俺を殺すことだろ」


 アレスは漆黒の鞘から刀を抜いた。

 現れるのは漆黒の刃、闇よりも深い黒、輝きが一切見えることのない闇の刃

 彼が本来の得物である宵闇を抜いた。それは、彼を知るものから見れば敵の死を意味していた。

 

「アレス、彼を殺す必要はありません。陛下は彼を捕虜にしようと考えています」


 アレスの実力なら、ヴェイグを殺さず捕らえることもできるはずだと判断しての事なのだろうが、それ以上にカムはこれ以上アレスに傷ついて欲しくなかった。

 

「なら、陛下には無理だったと伝えてください。俺はこいつを殺します」


 その言葉にカムは息をのんだ。

 なし崩し的ではない、確固たる意志を持ってアレスは目の前の老騎士を殺すと言ったのだ。

 

「俺は騎士に生き恥を晒させるようなことはしない」


 それはかつて、親友であった騎士に言われた言葉

 騎士だけは決して捕虜にしようとせず、全身全霊を持って誇りの下、殺し合う親友が漏らした言葉

 騎士という生き物を理解し、立ち向かった友の意志は今もアレスの心に残っている。

 

「殺す理由はそれだけで充分だろ」


 その言葉に敵であるヴェイグもポカンとするもすぐに、口の端が上がる。

 

「くくく、ははははは!!!」


 帝国の騎士は大声で笑いだし、それを見ていたアレスは面倒な生き物だと内心苦言を呈した。

 

「私の目も随分と曇ったものだ。あの方から聞いた話と噂をうのみにし、このような“馬鹿”を冷酷な人間だと決めつけてしまった。王国の英雄、いや、騎士の心根を持つ者よ。お前を冷酷だと言ってしまった事謝罪させてほしい。すまなかった」

「そういうのはいい。騎士なら最後まで忠義を捧げろ、誇りを捨てるな。守るべきもののため戦え」


 それもまた親友から聞いた騎士のあるべき姿

 

「はは、騎士でない者から騎士の何たるかを説かれるとはな。それに守るべき者と言われても、もう私は侵略者の立場……お前とは戦場で出会いたかった」


 そうすれば、心置きなく誇りをかけて戦えたと、ヴェイグは寂し気に口にした。

 

「私はごめんです。騎士なんて馬鹿な生き物、戦場で出会えば決死の覚悟で特攻してきます」

「はは、そうだな。それだけお前たちが強いからな」


 宵闇の物言いを否定することなくヴェイグは笑って頷いた。

 

「来い。老騎士」

「行くぞ、アレス!」

 


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