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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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相まみえる英雄

 身体強化魔法を発動したレオナルドとカムが帝国の英雄へと襲い掛かる。

 二人は左右に分かれ、その剣を振るう。

 その速さは身体強化魔法で強化されていることもあり、先ほどよりも数段速い。

 だからこそ、ヴェイグは迎撃ではなく回避を選んだ。後方に飛び去る。

 それを見たレオナルドは紅の魔力の残滓を残し、踏み込み、加速、鈍色の剣が僅かに紅色の魔力を帯びてヴェイグの懐へと叩きこもうとした。

 

「甘いわ!」


 そのあまりにも愚直な攻撃にヴェイグは銀剣を力強く振るい、レオナルドの剣を弾いた。

 

「見えている」


 そしてそのまま、背後へと剣を回し、いつの間にか迫ってきていたカムの剣を弾くと身を屈ませ、レオナルドの懐へと入り込み、そのまま銀剣を振り上げた。

 レオナルドは剣を持って受け止める。

 火花と共に紅の魔力が飛び散り、力が拮抗する。

 ギリギリと、互いを押しのけようとするも力は互角、両者ともにびくともしない。

 そこへすかさず、カムがレオナルドの援護に入る。


 それを感じ取ったヴェイグは後退を余儀なくされ、後退し躱す。

 

「中々だな」


 極限の集中状態にあるレオナルドはヴェイグの言葉など聞かずに果敢に攻め込んだ。

 

「はあああ!!」


 レオナルドの気迫の叫びがヴェイグを威圧する。

 そこから繰り出されるのは怒涛の連続攻撃、多種多様な剣技によって垣間見えるランディス流の剣技、むやみやたらに振るっているように見えてレオナルドの剣は最適化されたもので的確にヴェイグの隙を狙いに行く。


 だが、どれもヴェイグによって防がれる。

 

「ははは!!これが『血濡れ』の実力か!」


 そう高らかに叫び、身に余る高揚を吐きだしながら剣を振るう。

 極限の集中状態で、戦いの中で敵の実力が露になっていくのが楽しくて楽しくてたまらない。

 これだけ振るってもまだ相手の実力の底が知れない。


 全てを視たい。武の頂に近づくために、お前の力を食わせろと、血走った獣の如き瞳で剣を振るい続ける。

 

「もっと、もっと見せろ!」

「高ぶったか、ランディス」


 その気迫はかつて戦場で相まみえた蛮族に他ならない。

 こうなったランディスにどれだけ手を焼かされたことか、退けるのに体中に無数の傷を負い、生死をさまよいかけた。

 しかし、それは相対した先代ランディス公に対する評価だ。

 

「だが、やはり未熟としか言いようがない……ふん!」


 ヴェイグはそう評価するとレオナルドが剣を振り下ろしたタイミング、それを最小限の動きで躱すと彼の顔面へと本気の拳を叩きこんだ。

 拳を叩きこまれたレオナルドは衝撃で頬の骨にひびが入り、飛ばされる。

 

「お前は周りが見えていなさすぎる。もう少し周りを見ろ」


 一撃を持って一時的に沈めたヴェイグは襲い掛かって来たカムを銀剣の一振りで迎撃した。タイミングよく振るわれたその銀剣はカムの胴を軽く切り裂き、鮮血が溢れだす。

 

「かは」


 その一撃を持ってカムの身体強化魔法が途切れる。

 しかし、それでもカムは血を流しながら剣を杖代わりにして立ち上がろうとする。レオナルドもまた、ペッと折れた歯を吐きだし立ち上がる。

 レオナルドの身体強化魔法は途切れていない。未だ紅の瞳を魔力で灯している。


 しかし、不意にくらりと足がふらつく。

 視界がぼやけ、顔を抑えた。

 

「なんだ」

「脳が揺れたのだ。顔を思い切り殴ったのだから衝撃が内部の脳に伝わるのは道理だろう」


 レオナルドは意識を手放しかけるが何とか耐えるも、動ける状態になかった。

 

「諦めないのは評価する。しかし、お前たちでは私の相手は務まらん」


 英雄とは英雄と讃えられるだけの力を持っている。ヴェイグもまた例外ではない。常人からしたらでたらめな力の持ち主だ。

 カムは胸の傷を抑えながら剣を構え、歯を食いしばりながら痛みを堪える。だが、胸に受けた外傷だけでなく蹴り飛ばされた際に骨を数本折っていた。そのため、痛みが激しく、まともに立っていられる状況ではない。


 戦場から離れ、久しくこれだけの殺気と武威に包まれることのなかったカムではどうしようもない。

 

「散れ」


 帝国の英雄は地を蹴り、接近すると敵を一振りで同時に殺そうと、銀剣を大振りに振るった。



―――キン!!



 甲高い金属がぶつかり合う衝撃音が響いた。

 三人の視界で黒髪が揺れる。

 それを見て誰もが悟る。誰が来たかを

 

「絶望の使徒!」


 標的を目の前にしたヴェイグは叫び、その武威を高めるもアレスは飄々と銀剣を鉄剣で弾いた。

 そのまま流れる動きで蹴りを叩きこもうとするがヴェイグが後退し不発に終わる。

 

「大丈夫ですか」

「大丈夫です。少々体が鈍りすぎただけですので」

「リーゼが後から来ると思うのでそこで治癒を、それからもう一人の方はリーゼの回復魔法ではまだ治せないと思うので後でリスティ先生のところに行ってください」


 アレスは頬骨が砕けている青年が自分に会いたがっているレオナルドだとは気づかない。

 

「く、再び英雄殿に助けられてしまうとは、この恩どう返していいのか」


 レオナルドはアレスに再び助けられたことで悩みだす。

 

「カム、無事ですか」


 あとからやってきたリーゼロッテとアリアが合流し、リーゼロッテは早速回復魔法によりカムの傷の手当てを始めた。

 

「お兄様⁉どうしてここに」

「アリアか。実はそこの『血濡れ』を仕留めようとしたのだが、返り討ちにあってしまった」


 レオナルドの表情に一切曇りはない。全てを出し切って負けたのなら致し方ないと負けた悔しさよりも得られた経験に笑みを浮かべた。

 

「『血濡れ』って帝国の英雄、まさか、あの人が帝国の英雄なのですか」

「ああ、だが、これはいいものが見られるかもしれん。アリア、ランディスならばこの戦いを記憶に焼き付けろ」

「っ」


 先ほど初めて人を殺し、ランディスの教えに疑問を抱いてしまったアリアには兄の言葉を素直に受け止めることは出来なかった。

 

「アレス、気を付けてください。彼の力は本物です。舐めてかからない方が賢明です」

「分かっていますよ」


 アレスは先ほどヴェイグの銀剣を受け止めた衝撃が未だに残る手へと視線を落とす。

 そして軽く指を動かし、感覚が正常か確認する。

 ほんの僅かに痺れが残っているが時間が経てば治るだろう。そう判断し、再びヴェイグへと視線を向けた。

 

「やはり耐えていたか」


 ヴェイグはアレスの左腕にある、消えかかっている『ヒュドラ』の跡を見た。

 

「その冷徹な瞳、聞いていた通りの男のようだな」


 ヴェイグはアレスに冷たい印象を抱く。

 何も感じない人形のように無機質な瞳を向けてくるアレスを不気味に思うも、そんなことどうでもいいと思えてしまうほどの底知れない力を感じて緊張を走らせる。


「リーゼ、カムさんたちを少し離れた場所に」

「アレスは」

「“俺”は老騎士の相手をする」


 アレスの纏う空気がはっきりと変わった。

 それは死戦場の最後に見せた無機質な姿、剣をだらりと提げ、一切の覇気なく何も感じない人形

 しかし、それでいて踏み込めば呑み込まれてしまいそうな危うい空虚さを持ち合わせていた。

 素に戻ったアレスは何も感じず、ただただ目の前の敵を抹殺する人形へと変貌する。


 王国の英雄と帝国の英雄がぶつかる。


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