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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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疼く傷

 ヴェイグの剣が数段速くなる。

 カムは隙を窺う暇もなく、帝国の英雄の連撃を愚直に受け流し続けた。

 ヴェイグの剣は速くなっただけでなく、鋭く重くなり、受け止めれば騎士団で配布されたこの騎士剣では折られてしまう。

 

「どうした。まだ抗えるだろう」


 ヴェイグが余裕を見せるのに対し、カムは会話ができないほどにその剣を受け止めるのに精いっぱいだった。

 意識を全て、彼の剣に向けなければ捌ききれないほどの連撃、改めて帝国の英雄の恐ろしさを知る。しかも、まだ彼は本気ではない。

 これではドランでさえ彼を抑えきれるか分からない。

 帝国の英雄の名は伊達ではない。

 

「む、どうして副団長が帝国の英雄と戦っているのだ。それは俺の得物であるはずですぞ!」


 その不満のこもった声は唐突に聞こえてきた。

 紅の髪がヴェイグの視界に僅かに入る。

 ヴェイグはすぐさま、飛び去り銀剣を構えなおした。

 カムは息つく暇もなかった連撃が止んだことに、安堵しつつも警戒は怠らない。そして、やってきた厄介者に視線を向ける。

 

「副団長、帝国の英雄の相手は俺の任務のはず、どうして貴方が戦っているのですか」


 やってきたのは『血濡れ』の監視を任されたレオナルドだった。

 

「貴方の任務は『血濡れ』の監視です。戦えとは言っていませんよ」

「何故ですか!このような古豪と相まみえる機会があるというのに、戦わずいられるわけがないでしょう」


 ランディスとしての血が騒ぐ。

 

「それに、帝国の英雄殿はランディスを警戒しているようです」


 その鋭い発言にヴェイグの表情が僅かに動く。

 傷が疼くとでも言おうか、

 武を極めんとするランディスを前にしてヴェイグは警戒を見せた。


「俺も加わってもいいですよね。祖父を倒したというその実力、この目で見ておきたい」


 決して、一族の汚点を雪ごうなどと考えていない。そもそも祖父の敗北を汚点だと思っていない。純粋に強者と剣を切り結ぶことの出来ると思うと自然と心の音が早鐘のように脈打つ。


「はぁ、逸らないでください。どちらにせよ、私一人では勝てませんので。それから、陛下からの命令です。可能ならば、生け捕りにせよと」

「心得た」


 レオナルドは先ほど黒ずくめの男を切り捨てたことで僅かに血の臭いが付いた剣を抜く。


「帝国の英雄よ!アルフレッド・ランディスが嫡子レオナルド・ランディス!我が剣、どれだけ通じるか試させていただく!」


 レオナルドははやる気持ちを抑えきれず飛び出す。

 剣を大地と水平に構え、力強く大地を蹴る。全力でヴェイグが自分より格上であると知りながら殺す気でその剣を振るった。

 ヴェイグはその一撃を銀剣で受け止めると、久しぶりに衝撃で震えた手に彼がランディスであることを理解させられる。

 カムと違い、このレオナルドという男が武の才に満ち溢れ、まだ荒削りの宝石の原石であることを悟ると少しだけ剣に力を入れる。


「む」


 剣から伝わる僅かな振動で、ヴェイグが剣に力を入れたことに気づくと、すぐさま後退


「はやらないでくださいと言ったでしょう」


 後方で様子を見ていたカムから注意されるもヴェイグから意識を逸らさない。いや、逸らせないと言った方が確実だろう。


「父上ほどではないですが、『血濡れ』はまごう事なき強者、あのまま踏み込んでいれば俺の首が飛んでいたでしょう」


 レオナルドは冷や汗を流しながらも、笑みを浮かべる。


「連携するしかないですね」

「だから最初からそう言っているでしょう」

「では」


 レオナルドはカムからの返事を聞く前に再びヴェイグへと接近する。それに合わせてカムもまた溜息を吐きつつもついて行く。

 鈍色の二本の剣がヴェイグへと襲い掛かる。


「ふむ」


 それを見て、ヴェイグはカムの剣を受け止めレオナルドの剣を躱すと、間髪いれずにレオナルドへと蹴りを繰り出す。

 レオナルドはそれを見る間も無く、まるで野生の獣のように本能で危険であることを察知し、一時退く。そして再び接近する。


「その才は恐ろしいが、まだ若い」


 そう言って軽くカムの剣を弾くと、カムの側部に回し蹴りを素早く叩きこんだ。

 その速さは明らかに人間離れしたもの、“加護を受けた者”の動きに間違えなかった。


「ぐぁ」

「ぬ、っ⁉」


 カムへと叩きこまれた蹴りは止まることを知らず、今なお回転し勢いよく接近していたレオナルドを巻き込み、飛ばした。

 カムとレオナルドは互いに離れ素早く復帰する。


「く、単純な力が違いすぎます」

「これが英雄の力か」


 剣術の練度などではない。単純な力によって押し負けている。

 

「もう終わりか」


 まだ動き足りないとヴェイグは二人に剣の切っ先を向ける。

 ヴェイグの動きは明らかに常人離れしたものだった。目で追うことはできるものの反応することはできない。

 もし彼の攻撃を防ぐとなると並外れた身体能力か、本能的な反射神経を求められるだろう。

 だが、不思議とレオナルドに絶望はなかった。

 

「やはり父上の方がよっぽど強いな」


 父の強さを思い出し、目の前の英雄と比べると、彼がたいしたことが無いように見える。

 だからこそ、恐れることはあっても絶望することはない。

 剣を握り締める力を強め、高揚により愚直に武を極めようとする蛮族の瞳が魔力によって紅に輝く。


 無意識のうちに魔力が猛り、体中を血脈のように流れる。


 それを横から見ていたカムも、これに勝機を見つける。

 ランディスの一族は何故かこういった土壇場に強かった。この不利な状況でもなお、自身を奮い立たせるその強き心は戦いにおいて強力な武器となる。

 英雄の速さについて行けないのなら、ついて行けるよう強化すればいい。

 無意識のうちに魔法が発動


 身体強化魔法


 それはその名の通り身体を強化する魔法、イメージするだけで発動できる魔法や自然現象を兵器へと改変した攻撃魔法とはまた別種の魔法であり、求められるのは魔力制御能力

 体中に魔力を均一に流すことで、その魔力を糧に身体を強化することができるのだが、少しでも流す魔力が乱れれば均衡が崩れ魔法が解除されてしまう。基本的に身体強化魔法を使うのは相手との近接戦の最中、相手の動きだけでなく自分自身の魔力の流れも管理しなくてはならず、必然的にその難易度は跳ね上がる。

 しかし、それをもし、無意識のうちに発動できたのならば、相手の動きに集中できたならば

 

「レオナルド、合わせます」


 こうなったランディスは強い。

 カムもまた身体強化魔法を発動、しかし、レオナルドと違い意識して魔力を操作する。

 それを見ていたヴェイグは何も言わず剣を構える。


 空気が変わった。

 たとえ相手が才の薄い騎士と未熟な騎士だとしても、彼らはその身であの死戦場を潜り抜けた猛者だ。

 本気を出さずとも油断はできない。

 

「来い、王国の騎士共」


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