疑念
アレスがラッドに連れられ教室からいなくなると、リーゼロッテはラッドの行動を不審に思いながらも、同じく二人の姿を見送るアリアを捕まえる。
「アリア、一緒に帰りませんか」
「え、ええ、いいわよ」
ほんの少し動揺を見せたのをリーゼロッテは見逃さない。
「では行きましょう」
二人は並んで帰路に着く。
「そういえば、アリアはアレスと仲直りできたのですか」
「……あいつから謝るまで、私は何も話さないわ」
アリアの性格上そう返してくるのは簡単に予測できた。だから
「そうですか。それにしては、ここ最近、随分とアレスに熱い視線を向けている気がするのですが、気のせいでしょうか?」
「向けてるわけないでしょ!」
足を止め叫ぶアリアに、リーゼロッテは意地悪く笑う。
「ふふ、冗談ですよ」
「もう、冗談もいい加減にしなさいよ」
「まぁ、視線を向けていたという所は冗談ではないですけどね」
鋭い指摘にアリアは思わず言葉を詰まらせた。
「それで、何かあったのですか。怒っているあなたが、怒らせた人物に対して関心を持つなんて珍しい事ではありませんか」
それとなく、何も知らない風を装って尋ねる。
「別に、何もないわよ」
わざとらしく視線を逸らしたアリアに、ふ~んとアリアの顔を覗き込むように頷くとアリアがまたしても視線を逸らす。
「そういえば、リーゼはアレスと昔からの知り合いなのよね」
来た。
「そうですよ。それが何か」
「アレスってどんな奴だった?」
そう来ましたかとリーゼロッテは内心微笑む。
「そうですね。昔からアレスはあんな感じでしたよ」
アレスが英雄である、もしくはそれに近しい答えを導きだせてしまうため、嘘を吐く。
「強さも」
アリアはアレスの剣技をその目で、その肌で実感している。
その彼の強さははっきり言って異常、ダンジョンで未知の魔物と遭遇した時の緊迫感、危機的状況にもかかわらず落ち着いた様子で明らかに強い未知の魔物を既知であるかのように簡単に切り伏せて見せた。
そして何より、あの兄の反応
家族だからこそ、レオナルドの性格はよく理解していると自負している。
そんな兄がアレスに反応した。生粋の武人、ランディスの教えを真直ぐ受けたあの兄が興味を見せるものは武に関係する者のみ、そしてあの最高潮の歓喜、あれは本当に優れたものと出会えた時の興奮
かつて兄の興奮した姿を見たのは二度のみ
父の本気を目の当たりにした時
そして、王国騎士団の見学で見たという“黒髪の剣士”を見た時のみ
その両者共に、凄まじい実力を持っており、父はともかく、その黒髪の剣士は使途でないにもかかわらず当時全開のドランにも勝っていたという化け物
つまり、アレスは兄の目から見てその化け物たちと同列であるという事
ならば、その実力はすでに生徒の域にない。それこそ、王国騎士団長など目ではない父と同列の実力を持っている可能性すらあった。
「強くはありましたよ。ただ、大人たちには簡単に負けていましたけどね」
リーゼロッテの返答を聞き、アリアは難しい顔をする。
「本当に?」
「疑ったところでそれが事実ですし、これ以上の答えは出せませんよ」
ドランが来てからレオナルドはアレスに関して口に出さなくなった。アリアが聞いても上手くはぐらかされ、どこかへ行ってしまう。
リーゼロッテにもはぐらかされている気がするし、アリアは思考を続ける。
「本当の本当の本当に、リーゼの言う通りなのよね」
「ええ、私が嘘をついたことがありましたか」
「たくさんあるわよね」
「さぁ、もう時効じゃないですか」
アリアのジト目を軽く受け流しつつ、リーゼロッテは歩を進める。
対して、アリアはやはり歩を止め、何やら思いつく。
「何か知ってるのね」
「どうしてそう思うのですか」
「だってリーゼだし」
長年の付き合いだからこそ分かる。リーゼロッテは何か自分に対して隠し事をしていると、それに
「後は戦士の勘ね」
「あなたまだ、戦場に出たことないでしょ」
「ランディスだもの」
「そうでしたね。あなたもランディスでしたね」
ランディスは武の頂を目指す一族、そのせいなのか、戦闘勘だけでなく、全体的な勘も鋭かった。
「で、答えてくれないのよね」
「知っていたとしても、答えることはできませんよ」
「なら、取れる手は一つしかないわ」
アリアの口が三日月に裂ける。
それを見たリーゼロッテは嫌な予感を覚える。
「アレスに決闘を申し込みましょう」
「え⁉決闘ですか⁉」
「当然でしょ。お兄様が興味を示した強さを確かめるには、それが一番よ」
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「ということがありまして、本当に申し訳ありません」
翌日の放課後、カムの教員室に来たリーゼロッテが謝罪した。
「彼女もまたランディスと言うわけですか。それよりも、レオナルドには一度しっかりと釘を刺しておかないとだめかもしれませんね」
カムは後輩の姿を思い出し、新たな胃痛の種を抱える。
「それで、どうするのですか。これは受けなくてもいい決闘だと思いますけど」
「受けますよ」
ここで受けなかった場合、アリアの何かあるという疑念が確信へと変わってしまうだろう。それは避けねばならない。
「こんな事態になったのは僕の我儘のせいですから、自分でけじめはつけますよ」
「大丈夫ですか」
ただでさえ、帝国の何者かから狙われているのだ。そんな時に決闘など、注目を集める的にしかならない。
「はい。ただ、レオナルドさんは連れてこないよう阻止してくれますか」
生粋の武人であると聞く彼ならば、確実に疼き、勝負を吹っかけてくる可能性があった。アリアの相手ならともかく、現役トップクラスの騎士相手に手加減をしている余裕はない。
「彼の事なら、大丈夫ですよ。彼は今別任務で自由に行動は出来ませんから」
「そうでしたか」
「それより、問題はこの決闘場所と日時ですよ」
場所は学院の敷地にある訓練場、日時は次の週末の昼過ぎ
「人目を避けて、あえてこの日時を選んだのでしょうけど、私たちからしたら都合が悪いです」
人目が少ないということは、ダンジョンの時のように奇襲が可能ということだ。
「一応、私はこの日学院にいますので、何かあったら連絡してください」
「分かりました」
「何かあったらって、何があるのでしょう」
不意に、今まで存在を消していたリーゼロッテがそんな話聞いていないと言いたげに口を挟んだ。
「ただ、決闘するだけですよね。なのに騎士団の副団長が心配するようなことが起きるのでしょうか?」
「あ……」
気づいた時には遅かった。
にっこりと笑みを浮かべる王女にカムの胃がきりきりと痛みだす。
「さぁ、洗いざらい吐いてください。黙秘は認めませんので」
カムは全て話した。決して知られてはならない人物に
全てを聞いたリーゼロッテはなるほどと一言呟くと
「私もその日、学院に行きます」
「ダメです」
「私はもう決めましたよ。カム、ちなみにこれは王女命令です」
「く、分かりました」
「楽しみですね。アレス」
王女は胃痛を抱える騎士を傍目に見ながら笑みを浮かべるのだった。
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