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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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盗み聞き

 突如やってきた来客はレオナルドの上司ともいえるドランだった。

 ドランは興奮気味の部下に呆れ、何か面白い武人でも見つけたのかと考えたが近くで困惑しているアリアの姿を見て何となく嫌な予感がした。

 

「これは、団長!どうして彼が帰ってきていることを知らせてくれなかったんですか!」


 やっぱりそう来たかと、ドランは頭を抱えた。

 彼というだけでもう誰か分かる。

 このランディス家の教えを忠実に守る生粋の武人に好かれるものなどほとんどいない。そして帰ってきたとなればそれはアレスしかいなかった。

 ここで不用意に口を滑らせれば、アリアにアレスの正体がばれかねないと思いながらも、もうすでにこの兄の興奮する姿を見て、アレスに対して何らかの疑いを見せるだろう。それはもう不可抗力だからと諦めるしかない。

 とりあえず釘を刺しておくかと、興奮気味のレオナルドの肩を掴んだ。

 

「ちょっと、来い。これは団長命令だ」

「団長、そんな事より今彼は、俺は彼に」

「少し黙ってろ」

「んん!!んんん!!」


 ドランはレオナルドの首根っこを掴むと、口を抑え、引きずりながら手頃な部屋がないかと近くにいた侍女に訊く。

 次期当主がこのような乱雑な扱いを受けているが、誰一人として彼を救い出そうとは考えない。それもそのはず、面白い武人を見つければ誰かれ構わず、勝負を挑むレオナルドをドランが物理的によく黙らせているからだ。

 侍女は慣れたようにドランを部屋へと案内する。

 

「この兄借りてくぞ」

「あ、はい」


 突然の騎士団長登場に気を取られて、思わず頷いてしまったアリアだが、よくよく考えると意識を逸らされたことに気づくも、すでにドランたちはこの場からいなくなっていた。


 

~~~



「ほら、早く座れ」

「ぷは、急に口を抑えないでください」

「知るか。それより、大事な話がある」


 ドランの真剣な様子に、レオナルドも興奮を抑え、彼の対面の席に着いた。

 

「話とは」

「アレスの事だ」

「やはり彼は帰ってきているのですね」


 再びその瞳に好奇心を強く宿し、アレスとの再会を望む。

 

「ああ、そうだ。だが、お前とは会わせないぞ」

「何故ですか!俺は一言彼に礼を言いたいだけです。恩を受け、例も述べず放置するほど、常識はなくしてません」

「あわよくば、一合切り結ぼうとか考えてねぇだろうな」

「武人なのだから、強い相手に一度手合わせを願いたいと思うのは当たり前の事でしょう」


 これだからランディスはと、ドランは軽く溜息を吐いた。釘を刺しに来て正解だった。もし、今ここでドランが来ていなければ、確実にレオナルドはアレスと出会っていただろう。そうなれば最悪の場合、アレスの正体が周囲にばれるだけでなく、英雄の帰還が広まり王都は大騒ぎになる。

 それはドランたちも、アレス本人も望まない事

 だから

 

「いいか。アレスの帰還は、まだ陛下たちと一部の貴族にしか知らされていない」

「我がランディス家も、その一部の貴族に含まれているでしょう」

「お前、アレスが王都から去った理由、親父さんから聞いてないだろ」

「?はい」

「はぁ、当主は何やってんだ。この暴走列車止めんのは親の役目だろ」


 ドランは“元王国最強”の顔を思い出し、深いため息を吐いた。

 

「あいつはな。くだらない争いが嫌で王都から離れたんだ。ただでさえ、厄介ごとに巻き込まれてんのに、お前みたいな生粋の武人と会ったら、本当にどっか行っちまう」

「争いが嫌?彼がそのようなことを……俺には理解できない」

「そりゃ、お前がランディスだからだろ」


 やはり話が通じない。

 ランディスの考え方とアレスの考え方は真逆の思想と言ってもいいくらい対極にある。だから、レオナルドが理解できなくても仕方ない。

 

「あれだけの実力を持ち合わせていながら、その力を振るわないとは、彼は心でも折れたのか」

「折れただけならいいがな」


 もはやその段階にないことをドランは強く後悔している。

 あの日以来、アレスは虚無を浮かべるばかり、生きる意味を見いだせず、記憶の感情を読み取り、やり取りする姿はとても痛々しい。

 

「ということはもう、彼の“刀捌き”は見られないということか。く、なんて惜しい。あれだけ鮮やかな動き、もう一度この目で見てみたかったが、致し方ない」

「話聞いてたかお前」


 ランディスの教えをそのまま吸収したレオナルドには話は通じない。

 

「とにかく、お前はアレスと会うな。あと、この件を妹に漏らすなよ」

「ん?アリアにですか?」

「ああ、お前の妹は学院でアレスとはクラスメイトでな。距離も近い。だから、ばれるわけにはいかないんだ」

「そういうことなら、分かりました。それで、本来ここに来た目的は何でしょう」

「お前は相変わらず勘が鋭いな」

「ありがとうございます」


 呆れられるも、レオナルドは笑う。

 

「西方の砦についての報告は後で聞く。お前にはしばらくの間王都に留まってもらう」

「新たな任務ですか」

「ああ、そうだ。お前は『血濡れ』を知っているか」

「『血濡れ』と言えば、王国軍を何人も屠ってきた帝国の騎士ですか」


 『血濡れ』が活躍したのは北方戦争終結の数年前まで現役として活躍していた騎士だ。レオナルドが戦場に出た時にはもう現役を引退し、戦場に出てくることはなかったが、その伝説は聞き及んでいる。

 

「ああ、その『血濡れ』が帝国から出たという報告を受けた」

「な⁉それは真ですか!」


 レオナルドは衝撃を隠しきれず、テーブルを大きく叩き思わず立ち上がってしまった。

 

「ああ、本当だ。すでに王国に入ったという報告も受けている」

「一体何のために」

「十中八九、アレスだろ」

「今さら英雄を狙いに?帝国は一体何を考えているのですか」

「そこはまだ分からん。ただ、これが帝国の一存だと考えるとあまりにも浅はかすぎる。老いた英雄に、現役の英雄の相手をさせるなんて無茶がありすぎる。帝国の上層部は、アレスの力をよく理解している。こんな無謀な事はしない」

「つまり、これは帝国の意志ではないということですか」

「まぁ、そうじゃなきゃこんな無謀な事をしでかそうとは思わないだろ。というわけで、お前は『血濡れ』の件が片付くまで、警戒しておいてくれ」

「分かりました」

「伝えたからな。はぁ、それじゃあ、俺は帰るわ」


 レオナルドの相手をするだけでだいぶ疲れる。

 いつもはカムが彼の相手をしてくれるのだが、今は会議前に抜け出したこともあり、ここに連れてこれなかった。

 

「ちなみにだが、ランディスは盗み聞きを良しとしてるのか」


 ドランはレオナルドに訊くと、扉の先で足音が聞こえて来た。

 

「そんなわけないじゃないですか。そもそも、この部屋は防音、まだ妹の実力じゃ聞き取れません」

「それもそうか。それじゃあ、後でカムに報告しとけよ」


 それだけ言い残しドランはランディス家を後にした。


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