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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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レオナルド・ランディス

 アリアはアレスと一言も交わすことなく、学院から帰路についていた。

 

「まったく、なんなの」


 家の誇りを貶されてから、アリアの怒りは治まる事はなかった。

 通りを行く人々がアリアを見て、視線を逸らすほどにはその怒りを抑えられていなかった。


 家にたどり着くと、屋敷内が少し騒がしいことに気づいた。

 今この屋敷には学院に通っているアリアしかランディス家の者はいない。何か問題が起きたのかと、アリアは慌ただしく通りかかった侍女に尋ねる。

 

「何かあったの?」

「これは、お嬢様おかえりなさいませ」

「ただいま。それで」

「実は先ほど急にレオナルド様が帰ってこられて、今その対応で屋敷中の」

「お兄様が帰ってきたの⁉」


 侍女の言葉を最後まで聞かず、アリアは屋敷へと走り出した。

 

「お兄様!」


 屋敷の扉を力いっぱいに叩き開けると、中にいる男がアリアへと視線を向ける。

 アリアに似た燃えるようなルビー色の瞳に、紅の短髪、凛々しい顔立ちの青年は騎士服に身を包んで、腰には剣を提げていた。


 青年はアリアの姿を見て目を見開いた。

 

「おぉ、アリアじゃないか!」


 青年は凛々しい顔立ちからは想像できないほどに大声を出し、両手を広げた。

 するとアリアはその青年の胸の中に飛び込んだ。

 

「ははは!相変わらず、元気がいいな。少し力が強くなったか」


 アリアを受け止め、その衝撃から成長を感じる青年は、アリアの兄であるレオナルド・ランディスだ。ランディス家次期当主で、現在は王国騎士団第二部隊隊長である。

 その凛々しい顔立ちと違い、性格が大胆かつ、他国から『蛮族』と恐れられる戦闘においてどこまでも貪欲であるランディスの者らしく、武の頂を目指している。性格と顔立ちの違いからランディス家を知らぬものからはよく詐欺だと言われるが、本人は一向に気にしない。


 レオナルドは妹を窺う。

 

「力は、強くなりました」


 アリアはダンジョン試験のことを思い出す。

 あの時自分は何もできなかった。未知の魔物と遭遇し、全てをアレスに任せ、逃げてしまった。ランディス家の武人として情けない。

 そう思うのと同時に、彼のことを思い出し、自然と怒りがわいてくる。

 

「む、どうした。元気がないように見えるが」


 妹のおかしな様子にすぐに気付いたレオナルドが首を傾げる。

 

「いえ、何でもありません。それより、いつお戻りになられたのですか」


 アリアは兄に悟られぬよう話題を変える。

 

「つい先ほどだ。お土産も買って来たぞ」

「お土産ですか!」

「ああ、向こうの砦にはめぼしいものが無かったからな、近隣の町で面白い武器を見つけたから買って帰ってきたのだ。使うことはないだろうが、使い方を知っておくくらいはいいだろう」


 武器以外のお土産はないが、ここはランディス家、これほど嬉しいお土産はない。

 レオナルドは一緒に帰ってきた従者に視線を向けると、従者はお土産である武器を取り出した。

 

「チャクラムですか?」

「よく知ってたな。ああ、そうだ」


 レオナルドがお土産として買ってきたのはチャクラムだった。

 

「ここらの戦場では見かけないが、南の方では使用する者もいると聞いている」

「こんな珍しい物よく見つかりましたね」

「大変だったんだぞ。家にない珍しい武器を探すのは」


 レオナルドは待機していた砦を出た後、その近隣の町で急いでお土産となりそうな物を探したのだ。おの結果見つかったのがこのチャクラムと言うわけだ。

 しかし、チャクラムの刃が欠けていたり、輪にひびが入っていたりと使用できる状態ではなかった。

 

「実物を見て、使い方を考えるのもまた武の頂に達するために必要なことだ」

「そうですね」


 アリアは、チャクラムを感心しながら眺める。

 

「やはり、何かあったか」


 レオナルドはこの違和感を見逃さない。いつものアリアならば、新たな土産を持って帰れば食いつくようにその武器に関心を寄せるのだが、今のアリアの瞳からはあまり熱を感じられなかった。

 アリアがぎくりと視線を泳がせていると、兄からの視線が強くなる。

 

「で、何があったんだ」

「う、何かあった前提なのですか」

「当然だろ。お前がこのように元気が無いのは落ち込んでいるか、怒っている時くらいだ。それで、何があったか、言ってみろ。言いたくないのであれば別に構わないが、その場合、俺はお前に信用されてないと思い、落ち込むぞ」

「ずるいですよ。はぁ」


 もう黙っていられない。

 

「今日学校で、私が傭兵の方から技術を教わろうとしたんです」

「傭兵か。確かに奴らから技術を教わることは出来ないからな。学ぼうとするなら戦場でその技術を見るしかない」

「そうじゃないんです。問題はその後で」

「なんだ。その傭兵が嫌な奴だったのか」

「いえ、違うんです。クラスメイトに、その……」


 アリアが口ごもるとレオナルドは首を傾げる。

 

「クラスメイトがどうかしたのか」


 尋ねてくる兄に本当に言っていいものかと悩む。

 兄はランディス家の武人としての誇りを何よりも大切にして戦場に立っている。故に、もしその誇りを貶されたと分かれば、この兄ならば、アレスをどうにかしようと、下手したら殺そうと思ってしまうかもしれない。

 アリアも、流石にそこまでアレスに対して怒っているわけではない。

 だが、そんなアリアの想いとは裏腹に、レオナルドの視線が厳しくなる。

 

「う……クラスメイトが、その、家の武人としての誇りを、貶したんです」

「何?」


 レオナルドの声が明らかに冷め、瞳を鋭くさせる。

 言ってしまったとアリアは心中で後悔した。

 

「違うんです。お兄様、そいつは悪気があったわけじゃなくて、たぶん戦争で孤児になったから」

「そんなこと知るか。言え、そいつはどのような奴だ」


 家の誇りを貶されたということ、それはランディス家に対して喧嘩を売ったも同然、しかも二番目に知られてはならない兄に言ってしまった。

 兄からの圧が強く、アリアを威圧する。

 

「俺がそいつを叩き切ってやる」


 腰に提げた剣の柄を握り、目は本気だ。

 

「待ってください!アレスは」

「待て」


 彼の名を叫ぶと兄の雰囲気が僅かに変わる。

 先ほどまでの静かな怒りの代わりに小さな驚愕が見えた。

 

「今、アレスと、いや、その彼は黒髪だったか」


 レオナルドは興奮気味にアリアの肩を握り、詰め寄った。

 それよりもアリア似も驚きが奔る。まだ一言もアレスが男だともこの国では珍しい黒髪であることも言ってはいない。にもかかわらず、レオナルドはピンポイントで当ててきた。

 

「え、お兄様はアレスの事を知っているのですか」

「やはり、その彼はアレスと言うのだな!」


 再度、名前を叫ぶ兄の圧に、アリアは思わず頷いてしまった。

 その返答にレオナルドは瞳を輝かせる。

 

「おぉ、まさか、妹が彼と出会っていようとは、あれをあまり信仰していなかったが、今日ばかりはこのめぐりあわせに感謝するぞ」


 極限の歓喜に打ち震える兄の珍しい姿にアリアは呆然とする。

 

「レオナルド様、お客様が参られました」

「俺は今、そのようなことに対応している場合ではない。追い返しておけ。俺は早く彼に会わねば」


 従者の一人が客の来訪を伝えるがレオナルドはすでに夢見心地で彼との再会を夢見る。

 

「ですがお客様は」

「ああ、それ以上はいい」


 従者がどこか慌てた様子で主人にどうにかしてどれだけの人物が来たか伝えようとしたが、その前に止められてしまう。


「たく、上司が来たっていうのに、報告もせずお前は何してんだ」


 そう言って姿を見せたのは王国騎士団団長ドランだった。


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