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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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久しぶりの登校

 通信用魔道具を受け取ってから週が明け、今日から再び学院に通うことになった。

 アレスは久しぶりに袖を通した制服に、それほど時が経っていないというのに懐かしいと思ってしまった。

 

「ちゃんと教科書もった?」

「持ちました」

「お弁当は」

「大丈夫です」

「後は、えっと」


 おろおろと久しぶりに学院に行くアレスの事が心配なのか、カレンの方が緊張した面持ちで荷物確認をしていた。

 

「心配いりませんよ。必要なものは全部カバンに入れましたから」

「そ、そう?」

「はい」


 その言葉でやっと落ち着いたのかホッとするように息をついた。

 

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「は~い」


 カレンに見送られ、アレスは久しぶりに通学路を通る。といっても、王城に行ったり、治癒院に行ったりしていたのでこの道を普通に通るのはさほど久しぶりでもない。

 試験前と同じように登校する生徒たちに紛れ登校する。群衆の一人となり、ぼうっと空を眺めながら通学路を歩く。

 いつもの風景、だが、自分があの時から何も変わっていない虚無の化け物であると自覚してしまった今、メッキの感情を持って笑うことは出来なかった。ただ記憶の中にある表情を思い出し再現する。そこにはメッキの感情すら存在しない。ただそれがその状況で最も適切であると表情を作るしかなかった。

 そんなアレスの考えを誰も知る由はなく、ただいつものように時間が流れる。


 学院に着くと何事もなかったように扉を開け教室に入った。

 教室では生徒たちがいつものように会話をしていた。故に教室に入ってきたアレスには気づかないはずだったのだが、一人の生徒がその特徴的な黒髪を見ると「おい」と隣の生徒にアレスが来たことをそれとなく伝えていくと、徐々にアレスへと視線が集まっていく。

 当の本人はそんな視線に見向きもせず、集中して本を読んでいる紅髪の長髪を純白のリボンで後ろにまとめた少女、アリアの隣の席に着く。

 

「おはよう」

「おはよう」


 本に集中していてつい反射的に返してしまったが、アリアの手が止まる。今自分は誰に挨拶をしたのだと、すぐさま隣を見た。

 そこにいたのは当然アレスだ。

 アリアは状況整理のために、アレスは何となくそれに合わせて黙ってしまう。

 しばらく沈黙が続くと、アリアは自分の頬をつねってみる。

 

「痛い、てことは夢じゃない?」

「夢じゃないよ」

「本物?」

「本物だよ」

 

 アレスが本物であると分かると立ち上がりアリアは急に彼を睨みつけた。

 

「どうして連絡の一つもよこさないのよ!こっちはあんたが重傷を負ったって聞いてずっとやきもきしてたんだからね」


 上から見下ろすように詰め寄り、怒りを露にした。

 

「そうだぞ。お前が連絡をよこさないからこっちは心配してたんだ」


 アリアに同調するように茶髪の眼鏡をかけた少年、ダバンが近づいて来た。

 

「いや、ごめん。連絡しようにも連絡先も分からなかったし、ずっと治癒院に入院してたから連絡できなくて」


 嘘である。

 ただ、最もありえなくない言い訳として成立している。リスティナやユーレインにお願いすればそういう事にしてくれるだろう。

 だが、たった一人この言い訳が通じない人物がいる。もし、いま彼女が姿を見せれば

 

「そうだったのですか。それなら連絡ができないのは仕方ありませんね」


 その少女の声にアレスは反射的に肩が跳ねた。

 深みのある金髪に黄金の双眸を持つ少女、この学院内で最も権力を持った存在、この国の第一王女であるリーゼロッテが、二人の後ろから姿を見せた。

 にっこりと微笑む彼女は妙な迫力があったが、アレスは彼女が現れたことにまずいと思うだけだった。


 リーゼロッテならば父であるユーレインに尋ねればすぐに真実を知ることができるだろう。ユーレインは自分の子供にはとてつもなく甘い。重要な国家機密は教えないだろうが、このくらいの事ならすぐにでも教えてしまうだろう。

 そんな迫力を醸し出すリーゼロッテに、最初に詰め寄っていた二人は逆らってはならないと自然とアレスから離れ彼女に道を譲った。

 表情は笑顔だったが、その瞳は一切笑っていない。アレスの席が教室の端ということもあり、他の生徒達には今のリーゼロッテの恐ろしい顔が見えていない。

 

「もう体の方は大丈夫なのですか」

「うん、もうすっかり元気になったよ」

「それは良かったです」


 二人は互いに笑みを浮かべているが、リーゼロッテの恐ろしさを知るアリアとダバンにはその光景が恐ろしくてたまらなかった。リーゼロッテはまだしも、アレスは良く今の彼女を前にして平気で話せるなと感心半分、驚き半分といった具合で内心ひやひやしていた。

 そんな二人の空気を壊すように教室の扉が開いた。

 

「ほら、席に着け。授業始めるぞ」


 そう言って入ってきたのは奔放教師を演じるカムだった。

 いつもなら、必ずと言っていいほどに遅刻するカムだが、今日に限っては早かった。それに生徒達は驚き、虚偽の笑みを浮かべて話す二人を見て内心ひやひやしていた二人は今すぐにでもカムに称賛を送りたかった。

 物理的に会話を切られたリーゼロッテは僅かに不満を見せるも席に着いた。


 カムは視線を僅かにアレスへと視線を向けた。

 カムはタイミングを狙ってこの教室に来たようだ。リーゼロッテに怪しまれると今後の帝国に対する対策を組みなおさなければならない可能性があるため知られるわけにはいかなかった。

 

「席着いたか。いない奴は……いないな」


 出席簿に全員出席と書くと、荷物を教卓の上に置いた。その中から一枚の紙を取り、連絡事項を読み上げる。

 

「えっと、今日から新しい教員が入る。このクラスの授業もたまに請け負うことになると思うから、そのつもりでいるように」


 新しい教員が入るということで、生徒たちはざわつきだす。皆、新たな教員に興味津々なのだ。

 

「先生、新しい教員の方ってどのような方なのですか」


 一人の女生徒が尋ねる。

 

「屈強な爺さんかな。俺の代わりに実技、主に剣術の授業を担当してくれることになっている」


 へぇ、と皆が新たな教員を想像する中、アリアが

 

「お爺さんって事は引退した騎士の人かしら」


 屈強で、剣術を指導すると聞き、アリアは引退した騎士を想像した。

 

「さぁ、どうだろうね。でも、剣術って事は騎士が一番可能性が高いんじゃないかな」

「ちなみにだが、引退した騎士じゃないぞ。本人曰く傭兵って言ってたな」

「なんだ、傭兵か」


 他の生徒も騎士であることを期待したが傭兵と聞き、がっくりする。

 傭兵とは騎士と違って国家に忠誠を誓っているわけではなく、金銭によって戦場に出る兵士の事であり、騎士や軍人とは違い金で動くために貴族には卑しい存在だと思われ、平民たちには傲慢で危険な存在だと思われている。

 だが、一部の生徒は違うようだ。


「傭兵ね」


 アリアは少し嬉しそうに笑みを浮かべた。

 傭兵とは、騎士と違い騎士道に従っているわけではなく、利用できるものは何でも利用し勝利を追い求める実戦においては正しい存在だろう。

 戦功を求めるアリアにはちょうどいい教師と言えよう。

 

「まぁ、何にせよ。今日自分たちの目で見てみろ。じゃあ、授業始める」


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