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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第二章 英雄と英雄
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今後の方針

「少し真面目な話をしよう。カム」


 王としてアレスに謝罪したユーレインはカムにとある資料を持ってこさせる。

 カムが持ってきたのは数枚重ねられた報告書だった。

 

「それは、アレスが帰ってくることを知っていた者たちの近辺を調べた時の報告書だ」


 アレスはそのうちの一枚を手に取り眺める。そこには人物名とその人物の調査結果が事細かく書かれていた。

 軽く目を通すが特に怪しい要素が見られない。

 

「その報告書はうちの暗部が収集した情報だ。信用に値する情報、その信用に値する情報から、彼らには怪しい動きが見られなかった。おかしいと思わないか。そこに書いてある者にしか君が帰ってくることは伝えていない。彼らから情報が漏れたのでなければ、帝国はどうやって君の帰還を察知したんだろう」


 ユーレインはにこやかだが、その瞳は笑っていない。王として、国家機密を暴かれた事はとても許せることではなかった。それも、停戦協定を結びこれから友好を築こうという相手に暴かれていた。許せるわけがない。ほぼ不意打ちに近い形になっていた。

 不可解な点も多かったが、再び無意味に戦争を起こすのではとユーレインは帝国を疑っていた。

 だからこれは確認だ。

 

「少人数による襲撃、しかも相手は正規の暗殺者じゃなかった。この状況から考えられるのは二つだ。一つは欺瞞、まぁ、そんなことするくらいなら最初から正規の暗部を送ってくるはずだから可能性は低いが、一つの可能性としては考えられなくはない。そしてもう一つだが、誰かそれなりの地位の者が皇帝から隠れてこの件の糸を引いているとか」


 その二つの可能性はあくまで可能性だ。他の事が関係しているかもしれない。

 前者は最悪の可能性であり、後者は希望的予測だ。

 何故こんなことをするのかという議論は必要ない。

 理由は分かっている。アレスに対する恨みがあるからこんなことをするのだ。

 ほとんどの者は停戦協定を結んだ本当の理由を知らない。それ故に帝国で未だ王国、『絶望の使徒』に対して報復を行おうとする者は少なくはなかった。だが、実際に行おうにもアレスの所在を掴むことができず物理的に不可能だった。今までは……

 アレスが王都にいることは今回の件の首謀者は知っている。

 その手段がどうであれ、確実にこれからも何かしら仕掛けてくるのは間違いない。

 

「こちらもできるだけ情報を集めているが首謀者に繋がるような情報は見つかってない。帝国に潜入させている者からも怪しい動きはないって話だ」


 手詰まりだった。

 向こうからの出方を待たない限り、こちらからは何もしかけられない。停戦協定を結んだとはいえ、何かあれば再び戦争になりかねないほどに裏での外交上では緊迫している。そんな状況で疑いをかければ関係悪化につながりかねない。

 幾人もの犠牲を出してこぎつけた停戦だ。無駄には出来ない。

 

「対策をたててもいいんだが、護衛を付けるのは嫌だろ」

「はい」

「だよな」


 アレスの即答に予想通りだというようにユーレインはソファに体を預け、天井を見上げた。

 

「はぁ、人通りがないとはいえこの王都の裏路地での襲撃、しかも学院の試験中に魔人化してまで襲うとは、本当に、対処するこっちにも気を配ってほしいな」


 アレスはユーレインの言葉に耳を疑った。

 ドランとカムに敵が試験中に魔人化して襲って来たなんて一言も教えていない。あの時は未知の魔物に襲われたことにしたはずだった。にもかかわらず、この王は真実を知っていた。

 何故、と疑問に思う前にやはり、この国王は油断ならないと再認識した。

 ユーレインは国王としても優秀であったが、アレスは昔からユーレインにだけは心を開いていなかった。その澄んだ黄金の瞳に全て見透かされてしまうような気がして

 実際彼は少ない情報から様々な可能性を見出すだけでなく、その鋭い洞察力から相手の嘘を簡単に見抜くことができる。故に他国の王たちはユーレインと面と向かって交渉するのを嫌い、重要な事柄以外はすべて外交官任せにしていた。

 それほどまでに見透かされぬよう彼の前では気を配らなければならない。

 ユーレインは何かを思考するようにぼんやりと天井を見上げ続ける。


「別に虚偽の報告をしたからといって何も責めん。私たちは君を責められる立場にない。私たちこそが君に責められるべきだから」


 それは明らかな後悔だった。

 ドランもカムも口を閉ざし、沈黙する。

 自分たちが不甲斐ないせいでたった一人の少年に全てを背負わせてしまった。この三年間、片時もあの時の後悔を忘れたことはなかった。


「それで、今後の対処はどうするのですか」

「君は……いや、いい」


 空気を強制的にぶった切るアレスにユーレインは、少しは気にしてくれと言おうとしたが止めた。

 この少年の心を壊してしまったのは自分たちなのだから、そのことを責めることは許されない。


「今後の対処だが、君に一任しよう」

「僕にですか?」

「護衛を付けるのは嫌なのだろ。なら、何かあった時に私たちに連絡をくれればいい。必要ならこっちですぐに対処する。カム、持ってきているな」

「はい」


 カムがポケットから取り出してテーブルの上に置いたのは魔力を宿した腕輪だった。


「それは通信用の魔道具、何かあればそれで連絡を」


 ユーレインの説明の最中にアレスはその腕輪型の魔道具を取り、身に着けてみる。


「いいんですか?これ絶対高い奴ですよね」


 通信用魔道具は便利だが、その生産数は少なくとても希少であり、あの死の戦場ですらほとんど見たことがない。


「ああ、騎士団で運用しているやつだから気にしなくていい。値段は」

「馬鹿たけぇよ。それ作ってる神魔国が足下見てくるからな。まぁ、うちの騎士団の予算半年分くらいじゃねぇか」


 人数が多く、国家の守護をして各地に騎士を動員している騎士団の予算となれば国防費の七、八割使われている。その半年分ともなれば、莫大な金額だ。

 またしても高価な物を渡されてしまったアレスは何とも言えない表情になる。前回貰った魔道列車永久無料券に比べれば安いだけでなく、頂いたわけではなく貸されただけだ。これならばいいかと、アレスは結局ありがたく貸してもらうことに


「そういえば、もうそろそろ学院には来るのですか」


 真面目な話が終わり、カムが尋ねる。

 現在アレスは重傷を負い、治療のために休学中となっている。


「リーゼも事あるごとに君のことを口にしていたな」


 気に食わないと棘のある声音で、ユーレインは分かりやすく不満を露にする。

 責任は感じているがこれとそれは別、溺愛する娘が同年代の男の話をするのが心底気にくわなかった。


「国王がみっともねぇな。まだ娘離れできないのか」

「ふ、独身には分からない気持ちだろうな」


 ニヤニヤしながら指摘するが、逆に鼻で笑われたあげく気にしていることを容赦なく抉られたドランは小さく「うるせぇ」と口にして黙り込んでしまった。

 そんな大人たちの醜い争いは置いておき


「切りがいいので来週には復帰するつもりです」


 切りがいいからとは何ともアレスらしい。


「来てくれるのなら何よりです。休んでいた分の授業が溜まっているので当分は帰りが遅くなると思っておいてください」

「分かりました」


 その後雑談をすることもなく、アレスは部屋を後にするのだった。


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