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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
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謎の怪物

 ザインは騎士の姿をその視界に入れると、必死に縋りついた。

 

「た、助けてくれ!こ、殺される!」


 一切の説明もなく、叫びだすザインに騎士は困惑した。

 取り付く島もないザインに騎士が問おうとした時、奥から不気味な足音が響いた。

 誰もがその足音に耳を傾ける。


 カツン、カツンと硬い何かが当たっているのか高い音が狭い通路に反響する。それを聞くとザインの顔がみるみるうちに青ざめていき額にこの薄明かりでも分かるほどの脂汗が滲み出ていた。

 

「あぁ……く、来る」


 ザインの体から力が抜け崩れ落ちた。

 騎士は、剣を引き抜きこれから現れるであろう何者かへと向けた。アリアたちも同様に警戒態勢に入る。

 そうしていると不意に足音が止んだ。しばらくしても何か起こる気配はない。

 静寂が辺りを包み込む。

 

「何だったんだ」


 ダバンが警戒を緩め、口を開くとアレス以外の誰もが気を緩めた。

 

「一体何があった」


 騎士は膝を付け屈むとザインと目線を合わせた。

 

「あ、悪魔だ…じゃなきゃ、俺たちがこんなことに……」


 震える声で視線を合わせようともせずに自分の世界へと入っていくザインは、もはや何かを聞ける状態ではなかった。

 このままザインを試験に残すのは不可能だと判断した騎士はザインを刺激しないようになるべくゆっくり背負うとアリアたちへと視線を向けた。

 

「とりあえず、この子は医務室まで運ぼう。この子の様子を見る限りダンジョンに強力な魔物が出るらしいから君たちも気を付けた方がいい」

「分かりました」


 騎士の忠告を聞き入れると騎士は足早に去ろうとする。

 

「ば、化け物が、来る…あんなのに、敵うわけが……」


 ザインは自分が背負われていることに気づかず、恐怖に震えていた。その怯え様は尋常ではなく無意識のうちに騎士の首に手を回し必死にしがみつくほどだった。

 アリアは騎士の去り際、ザインの様子を見て不思議そうに呟く。

 

「何があったのかしら」

「どうなのでしょう。あのひどい怯え方は単純に魔物に襲われたとは思えません。アレスはどう思いますか」


 リーゼロッテは隣にいるアレスへと質問を投げかけるも、そこにアレスの姿が無かった。


 直後、アリアたちの正面奥で硬いものがぶつかり合う甲高い音が狭い空間に絶叫した。


 突然の甲高い音にリーゼロッテ達は耳を抑えたが、目の前で繰り広げられていた光景を前にして思考が停止した。

 三人の目の前ではザインを運んでいた騎士が顔を青くさせ尻もちをつき、ザインが横たわり恐怖に喘いでいる。

 だが、三人が思考を停止させた理由はほかにあった。


 それは

 

「アレス!」


 リーゼロッテは咄嗟に叫んだ。

 それは、アレスが単身で明らかに今まで出会った魔物と比べ物にならないほど格の違う何かと相対していたから。その何かの殺意にあてられアリアもダバンも一時的に思考を落としていたのだ。


 アレスの前に殺意を滾らせ佇むのは一体の生物、それは魔物とも、人とも似て非なる存在


 灰色の毛並みに身を包んだ人型の何か。しかし、頭は獣のそれ、黒の鋭い瞳に殺意を宿らせ口元から凶暴な牙を覗かせる。上部についた耳はぴんと張っている。前傾姿勢で立つその姿は獣のようだが、指先についた鋭い鈎爪の感触を確かめるように指を動かすその所作には、人間的な要素が見受けられる。


 そんな存在に対して、アレスは剣を抜いた状態で自然と立っていた。アレスの持つ剣の刃は僅かに欠けている。

 

「下がってて、また攻撃してくると思うから」

「た、助かった」


 アレスは騎士を一瞥すると有無を言わさずに戦力外を告げた。

 腰の抜けた騎士は命の恩人の指示に従わざるをえず、尻を付けたまま後ろへと下がっていった。

 

「また奇襲か……」


 アレスの脳裏に嫌な記憶が過るが首を振り忘れる。今は目の前の存在を何とかする方が先だ。

 アレスは先ほどの動きを思い出した。


 目の前に佇む存在は、不意に騎士たちの前に現れ肉を簡単に引き裂けそうなその爪で二人を殺そうとしていた。そこにアレスが飛び出し剣で弾いたのだが、代償として剣が僅かに欠けてしまった。

 並の者には気配を悟らせない隠密性と確実に人を殺すことの出来るパワーと武器を持った存在、厄介極まりない。

 

「ふぅ」


 軽く呼吸を整え、刃を裏返す。欠けた方を向けていると剣が耐えきれなくなり壊れると判断した。

 アレスは飛び出し疾走


 それを見た敵は動かずにじっとアレスの攻撃を待つ。

 アレスの斬撃が敵に襲い掛かる。斜めに振るわれたその剣は敵の肩口から切り裂こうとするが、敵もやられに来たわけではない。敵は腕を軽く上げ自慢の鈎爪でアレスの斬撃を防いだ。

 

「無理かな」


 このままでは押し切ることができないと判断すると剣を引き僅かに距離を取ろうとする。だが、そんな単調な行動では目の前の敵を倒せないと知っているアレスは本来の動きに切り替える。

 直後、アレスは身を低くさせ一閃

 予想外の動きに敵は当然反応が遅れ、浅くだが剣の切っ先が腹部をえぐる。


「うっ……」


 アレスは不快な感触に表情を歪めながらも追撃する。

 怯んだ敵は体勢を僅かに崩し、重心が後ろに下がる。それにより真正面が、がら空きになっていた。

 隙を見せたところにアレスの鮮やかな連撃が繰り出される。

 右へ、左へ、アレスの剣は舞い縦横無尽に動き回る。洗練された動きとはまた違った独特な動きに敵は翻弄され全ての攻撃を防ぐことができずに切り傷を増やしていく。


 このまま押し切る。決着を付けようとした瞬間、敵の獰猛な瞳の殺意がより一層凶悪さを帯びた。


「……コロス」


 片言ではあるが敵は人の言葉を発した。

 魔物ではない何か、そう見た瞬間から直感していたアリアたちはその事実に驚愕する。魔物に人の言葉を話すことの出来る存在はいない。新種の魔物という可能性もあるが、このダンジョンは国内で最も探索が進んでいるダンジョン、そんな魔物が出てくるわけがない。一体アレスと相対する存在は何者なのか?


 だが、それは分からないまま終わりを迎えることになる。


 今まで動こうとしなかった敵が動いた。両足を踏ん張り自慢の鈎爪を振るい上げる。

 敵の反撃にアレスは目を瞬かせると後退し躱す。そして瞬時に利き足を踏ん張ると敵の懐に飛び込み一閃


「ガッ⁉」


 敵の口から苦渋の声が漏れ、ぱっくりと切り裂かれた脇腹から血が止めどなく噴き出した。そのままばたりと前に倒れると敵は息を引き取った。死体は灰になって消えることなくとどまり続ける。やはり、この存在は魔物ではないようだ。

 アレスは死体を一切見ることなく剣についた僅かな血液を振り払うと鞘へと戻した。


「終わったのか?」


 僅か十数秒の攻防、その中でアレスは一切の傷を負うことなく敵を仕留めて見せた。アレスが強いことは班の全員が知っていた。しかし、それがどれほどのものかまでは知らなかった。

 今の攻防を見ていたアリアは自然と拳を握っていた。自分があの場にいたらどうなっていただろうか?あの少年のように戦えていただろうか?答えは単純、あの敵に数舜で殺されていただろう。あの存在から放たれる殺気に怯えた自分ではどうすることもできないと理解させられる。それがどうしようもなく悔しかったのだ。

 アレスは三人と倒れる騎士、ザインへ視線を向ける。


「この場から離れるよ」


 その言葉を放つ少年には妙な迫力があった。考えるより先に体が動く。騎士は立ち上がりザインを背負った。


「さ、皆もここから逃げるよ」

「逃げるってどういうことだ」


 説明もなしに話を進めるアレスに堪らずダバンは説明を求めた。


「今倒したやつの仲間が来る」

「嘘だろ」

「分かったら早く逃げるよ。複数のあいつらを相手に戦うのは不可能だ」


 驚くダバンをよそに騎士はすでに入り口へと逃げ始めている。

 否応なしに逃げることを強制されアリアたちはアレスを最後尾に入口へ駆けだす。


「大丈夫ですか」

「何がだい」


 走りながらリーゼロッテが心配そうにアレスの顔色を窺っていた。


「自分では気づいていないのかもしれませんけど、酷い顔されていますよ」


 薄明りで気づきづらいがアレスの顔色はとても悪かった。すでに血の気は失われ肌は青白く、口元は嫌悪に歪めていた。

 アレスは自分の顔に触れ、無理やり表情を作る。


「心配いらないさ」


 原因は知っていた。だが、知らないふりをする。今は逃げることを最優先する。

 通路に反響する自分たちの足音の他に奥から、複数の足音が聞こえ出した。



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