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絶望の使徒は心を求む  作者: MTU
第一章 絶望の使徒
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安全地帯

 アレスたちは中型の魔物ウルフを倒してから順調にダンジョンを進み魔物を狩っていた。試験開始から約四時間が経過している。今まで集めた魔石の数はウルフが落とした中型一個、小型の魔石が五個だ。このままのペースで魔物と遭遇できれば間違えなく最高評価でこの試験を終えられるだろう。

 アリアが支給された懐中時計を見た。すでに時刻は十二時過ぎ、どこかに安全地帯があればと考えてから、かれこれ一時間が経過していた。

 

「見つからないわね」

「いっその事ここで休憩する?」

「それはダメよ」


 アレスの提案を断固拒否とアリアは却下した。現在アレスたちがいるのは何もない唯々薄暗いだけの通路だった。こんなところで気が休まるかと聞かれれば百人中百人が無理だと答えるだろう。こんな陰鬱とした常に死と隣り合わせの危険な場所で気が休まると答えるのはよほどの変人くらいだ。


 それからしばらくして、通路の先に明るい光が見えだした。

 

「あれは、光?」

「やっと見つけた」


 ダバンの疑問をよそにアリアはこの日一番気の抜けた声で安堵した。

 通路の先に見える光は、入り口にあったような安全地帯の光だった。

 

「意外と早く見つかったね」


 時間の感覚が薄いアレスの発言に今ばかりは誰もツッコミを入れない。それほどまでにアレス以外の三人は疲弊していた。それもそのはず、試験開始から約四時間弱、途中の小休憩を除き、ずっとこの暗い通路を移動し続け、魔物に出くわしたのなら問答無用で戦闘をしていたのだから。


 四人は安全地帯へと足を踏み入れた。中は入り口にあった安全地帯とほとんど変わらない真っ白な空間、ただほんの少しだけ狭く、壁に蔦が這い瓦礫が所々に落ちていた。

 

「はぁ」


 アリアは部屋の隅にある瓦礫を軽く足でどかすと、へたりと床に座り込んだ。その後に続きダバンもリーゼロッテも同様に座り込んだ。

 

「明るいっていいわね」


 軽く両腕を伸ばすと壁にもたれかかった。

 

「確かにこれだけ明るいと落ち着くな。欲を言えば、もう少し地上と同じような景色にしてほしかったな」

「それは無理でしょ」


 アレスは疲れてはいなかったが他の三人に倣って座る。

 ダバンとアレスが雑談していると、パン、パンと二度手を叩く音が響いた。

 

「雑談はそれくらいにしてこれからのことを話しましょう」

「それもそうだね」


 アレスが賛同するとダバンも頷く。

 

「リーゼ、地図見せて」

「……」


 アリアはリーゼロッテへ地図を要求するがリーゼロッテは視線を床に向け珍しく呆然としていた。

 

「リーゼ、聞いてる?」


 アリアに肩を揺らされやっと気づいた少女は目を瞬かせるとキョトンとした。

 

「え、あ、はい。何ですか?」

「ちょっと大丈夫?」

「わたくしですか?わたくしは何ともないですよ」


 本人が大丈夫だと言っているのだ。アリアは思考を切り替える。

 

「そう……書いていた地図見せて」

「地図ですね。どうぞ」


 リーゼロッテから地図を受け取るとそれを全員が見えるように床に広げた。

 

「私たちがいる場所はここ、それで入り口がここね」


 地図には入り口から今いる安全地帯までの道が記されていた。

 

「まず、残り時間はあと四時間ちょっと、帰りのことを考えたらもう入り口に引き返した方がいいと思うの」


 この試験のタイムリミットは午後五時、それまでに戻らなければならない。帰りの時間を考えるとここで引き返すのが妥当な判断だ。

 そんな判断に反論することなく全員が頷いた。

 

「じゃあ決まりね。それで他なんだけど、騎士たちのいる場所を把握したいの」


 アリアはペンを取り出す。

 

「私たちが今まで出会った騎士は五人程度、大体ここら辺だったかしら」


 アリアは地図におおよその騎士がいた位置を記していく。すると一部だけ近くに三人もの騎士が配置されている。

 

「こう見ると、騎士の配置はランダムだと思うの。近い騎士もいれば遠い騎士もいる。それにこの安全地帯なんていう絶対に配置しそうな場所に騎士が配置されていない」


 アリアの言う通り最も生徒と遭遇する可能性が高いはずの安全地帯には騎士は一人も配置されていない。他の安全地帯には配置されている可能性もあるが、それならばここの安全地帯だけ配置されていないというのは考えづらい。

 

「それがどうしたの?」

「もしよ。私たちが敵わないような魔物が出てきた時、近くの騎士を頼るしかないけど、騎士のいる場所を把握していなかったら頼ることが出来なくて全滅よ」


 中型の魔物ウルフと戦ってアリアは自分の実力がまだまだだと自覚した。だからこそ、自分たちでは敵わないような魔物が出てきた時のことを今考えたのだ。

 

「そうだな。俺も残り魔力は四割くらいだしな。最後まで役に立つかは分からない。騎士に頼るという考えはいいと思う」

「じゃあ、これも決まりね。それじゃあ、さっさとお昼食べて戻りましょう」


 四人はそれぞれ事前に配られていた食料の入った袋を取り出した。

 

「それにしても、この中って干し肉しか入ってないのよね。味気ないわね」


 アリアは仲に干し肉しか入っていない袋を見て不満をたれた。

 

「これも試験ですから仕方ありませんよ」

「それは分かってるけど、干し肉だけっていうのがね」

「魔物が消えなければ、解体して食べれたかもしれないのにね」


 何気なく呟かれた一言に三人は耳を疑い、思わずアレスを二度見した。そんなこと、アレスが気にするわけもなく、味を噛みしめながらゆっくりと干し肉を食べている。

 

「あ、アレスだからか」

「そうですね。アレスですから」

「だな」


 三人はアレスだからの一言で片づけそれぞれ食事を再開させた。

 全員が食事をとり終えると、ここまでの疲れを癒すために数分休んだ。

 

「そろそろ、行きましょう」


 時刻は午後一時過ぎ、アレスたち一行は安全地帯を後にした。来た道を地図に沿って戻っていく。

 四人はしばらく歩き、途中に現れた小型の魔物を三体ほど倒す頃には時刻は午後四時を回っていた。

 

「あとちょっとね」


 アリアは手に持つ地図へと視線を落とした。

 地図で見ると自分たちが来た道の十分の九ほどはもう歩いていたことが分かった。入口まであと少し、四人の中で怪我した者はおらず、ダバンとリーゼロッテの魔力は三割以上残っておりまだ行動は可能だった。だが、取った魔石はすでに最高評価に達しているため深追いせずにこのまま入り口を目指す。

 リーゼロッテ以外が通路に立っていた騎士に軽く頭を下げ、前を通り過ぎる。

 

「それにしても案外、順調にいったな」

「そうね。私ももう少し苦戦すると思ってたけど、ほとんど強い魔物と出会わなかったし、考え損ね」


 四人が戦った魔物の中で最も強かったのは序盤に出会ったウルフだ。それ以外の魔物は弱く、一人でも勝てるような魔物ばかりだった。

 アリアは考えていた作戦をほとんど使えなかったことにほんの少し肩を落とした。

 

「何事も起きなかったのですから良かったじゃないですか」

「そうだけど……」


 リーゼロッテが軽くフォローするもアリアは態度を変えない。

 アリアとしてはもう少しここで戦闘の経験を積んでおきたかったのだろうが、ダンジョンは未開の地、何も起きなかったのは仕方がない。しかし、むしろそれは幸運と思っておいた方がよかった。

 

「はぁ、はぁっ、はぁ」


 不意に後方から荒い息遣いが聞こえてきた。

 通路にいた騎士がほんの僅かに警戒し通路奥へと視線を向けた。アレスたちもまた、何だろうと足を止め通って来た道へと振り返った。


 薄暗くて、奥はよく見えない。だが、不規則な足音と荒い息遣いで、こちらに向かって来ている何者かがひどく慌てた様子であることだけは分かった。


 やがて、足音が近づき、その影も目に見えて分かるほど濃くなる。


 騎士が魔法で目の前に明かりを出すとほんの少し明るくなる。

 

「誰か……はぁ、はぁ……俺を、助けろ」


 必死に助けを求める声からは想像できないほどの傲慢な言葉だ。やがて、その姿が明かりに照らされ見えてくる。


 ぼさぼさとなった茶髪を必死に振り乱し、額から大量の汗を流す少年。命からがら逃げてきたのか足取りはおぼつかないがそれでも前へ進もうと必死に走っていた。服はボロボロで所々に滲むような血の跡があった。


 その少年をアレスたちは知っていた。入学式の時にセイへと突っかかった貴族、ザインだった。



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